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『奥山に もみじ踏み分け 鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき』猿丸大夫

《意味》
奥深い山で降り積もった紅葉の葉を踏み分けて歩く牡鹿が雌鹿を求めて鳴く、その声を聞く時こそ秋のさみしさ、もの哀しさがより深く感じられるよ。

鹿と紅葉、絵にも美しい秋の情景の中に人恋しいさみしさを閉じ込めた一首です。

鹿の鳴き声というものを聞いたことがあるでしょうか。
鹿といえば奈良。たくさんの鹿がいるのを見たことはありますが、道で寝ているか鹿せんべいを食べているか、あまり鳴く姿というのは目にしたこと、耳にしたことがありません。
この時代の和歌の中で「鹿」という場合、雄の鹿のことを指します。雄の鹿は雌の鹿よりも鳴くことが少ないのですが、よく鳴くとされているのが9月〜11月頃、恋のお相手を求めてといわれています。

鹿の鳴き声は古来から情緒深いものとされていたようで、万葉集よりも1000年以上古く作られた中国最古の詩集「詩経」の中にも、「鹿鳴」という詩があります。明治に建てられた西洋館「鹿鳴館」の名もここから採られました。
古くから歌にうたわれるほど情緒深いとされる鹿の鳴き声、それはその声の美しさというより、「恋の相手を求めて鳴く」というその鳴き声の理由によって愛されてきたのかもしれません。

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