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『久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ』紀友則

《意味》
陽の光がのどかに差すこの春の日に、どうして落ち着きなく桜の花は急いで散ってしまうのだろうか。

穏やかな春の光の中ではらはらと散っていく桜。
まだ散らずにいてほしいのに…。変わらぬ人の心です。


この一首もよく教科書等で扱われるかと思います。小倉百人一首の中で桜を扱っている歌は全部で6首。中でも人気高く、桜の特性をとらえて詠み込んだ歌としてはナンバーワンと言っても過言ではないのではないでしょうか。
ちょっとわかりづらいのは「しづこころ」、これは漢字で書くと「静心」。落ち着いた心、という意味ですが、しかしそれもはっきりと知らなくともなんとなく意味がとれるかと思います。

それはなぜか。
実は理由は韻、音のリズムにあります。
さかたの かりのどけき るのに」
上の句に繰り返されるハ行の音は、発音しづらく空気も多く含むので、のどかでゆったりとした雰囲気を作り出します。対し下の句はどこか畳み掛けるような、一息に読みたくなるリズム。そして描かれている情景も、花がせわしなく散っていく様子です。
これこそ、この57577の形式が「歌」と呼ばれる所以、音とリズムが重要な働きをしており、一体となって情景を描いていることを感じさせてくれると思います。

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