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儀式代行

「オーライ、オーライ」

二人の男の手によって、バカでかい燭台が運び込まれる。

「魔方陣を描くための鶏の血の搬入も終わったー。生贄用の山羊もOK。あとはー幻覚作用のあるお香もいいだろー?」

若い男がリストと照らし合わせながら、運び込んだものを一つずつ確認する。

「高橋さん!搬入終わりました!」

「わかったよ。あとは肝心要の契約者なんだが…」

高橋がチラリと入り口を見るもまだ誰も、契約者は来ていなかった。

時代は2020年、科学が世に浸透しきった時代。

そんな世の中でもまだ細々と魔法だの魔術だのは残っていた。

魔法魔術の全盛期では魔術師、魔法使いたちは知識を、名声を、富を、権力を求め悪魔と契約した。

でもこのご時世悪魔と契約しなくても、それらは普通に手に入っちゃうし、ぶっちゃけ魔術とかを極めようとか考えてる奴なんていなかった。

けれど悪魔との契約は大抵子々孫々まで関わるし、契約を勝手に破った場合、座敷童が家を出て行ったレベルで破滅する。

そして悪魔は当主が変わるときに契約の更新を必要とする。

だが、そんな魔術2世たちは魔術の練習なんてまるでしない!

だからこそ彼らが必要になるのだ、儀式代行が!


「あー…多分厳しそうですね…」

「繰橋君、何かあったのか」

高橋と燭台を運んでいた男が、スマートフォンを見て何かを確認していた。

「これ、あの子らマ○クで駄弁ってますわ」

そこには地図で契約者たちがいる場所がGPSで示されていた。

「あちゃー…まさかここまでやる気がないとは…」

時刻は午後七時、新月の夜だった。

「そこからここまで来るのに、大体30分くらいかかるよね」

「僕が迎えに行ってきます!」

若い男が元気いっぱいに手を挙げた。

「ラウール君、頼めるかい?」

「大丈夫です!繰橋さんはいつもの業者に監視カメラの誤魔化しをお願いします!」

「そう言うと思ってもう頼んどいた。あーあ、これで成功報酬の一割が飛んだよ」

「それでも5400万!行ってきます!」

ラウールが何かを呟くとフッと姿が消え、すぐに三人の高校生を掴んだ姿で姿を現した。

「うおっ!?なんだこりゃ!」

「キャー!誘拐よ!」

「私のポテトが!」

「連れてきました!」

三人ともまさに今風と言った風貌で、やる気もまるで感じられない。

「やあ契約者さんたち、ようこそ儀式の間に」

「なんだよオッサン!」

「私は高橋、君たちの親御さんに儀式の代行を頼まれた者だ」

「あの悪魔と契約するとかいう与太話ぃ?」

「お父さんが指先からライターぐらいの火を出してマホウツカイダー!なんて言って、フフッ!あんな手品に誤魔化されないっての」

今起きた怪現象を現実逃避しているのか、三人はハイテンションだった。

「とりあえず!これから儀式を行うから、君たちは悪魔が出てきて名を聞かれたら名乗ること。それだけでいいから」

高橋は諦めたような顔で、鶏の血で魔方陣を描き始めた。

繰橋は燭台に火をつけ、ラウールは三人の椅子を用意した。

そして十分後、儀式が開始された。

高橋は、もはや使われなくなって久しい言語による呪文を唱える。

三人も、最初は笑っていたが場に満ちる雰囲気に押し黙る。

もしこの呪文の内容が理解できる人がいるならば、高橋が悪魔に対し相当にへりくだった言い方をしていることがわかるだろう。

低位の悪魔ならば、対等な関係での契約も可能だが、高位の悪魔だと相当悪魔に対して悪魔が有利な契約を結ばなければ、悪魔は召喚を結ばない。

魔方陣は煌々と紅い輝きを放つ。

「来ますよ」

ラウールがまるでコンビニにでも行くような言い方で三人に告げると、部屋を光が満たした。

「フシュルルル…ワシを呼び出したのは誰じゃ…?」

そこにいたのはまるでギリースーツでも来ているような人影だった。

「私は高橋。儀式代行をしております」

高橋は礼をした。

「フシュルルル…儀式代行…聞いてはおったがワシの儀式も貴様らがするとはな…これも時代か…」

悪魔の言葉の節々に、哀愁が見え隠れしていた。

「それで、そこにいる小童どもが此度の契約の更新を行うものか」

「お、私…は」

「まあ待て」

契約者の一人が、名乗り出ようとしたが、悪魔が枯れ木のような指で、口を止めさせた。

「ワシへの生贄が無いようじゃが…どうした」

「生贄の山羊ならばこちらに」

「山羊じゃと?ワシが求めるのは生きた人間の心臓じゃ!巫山戯ておるのか!」

悪魔は、契約者の頭を鷲掴みにし、激怒した。

その場にいた全員が、高橋を見た。

「生贄が違う…馬鹿な…ちゃんと山羊と…まさか契約内容の失伝…?いや違う…まさか…私たちをその生贄にしようと…ハハハ…ずいぶん舐めた真似を…」

高橋はぶつぶつと、虚空を見ながらつぶやいていた。

「どうやら、契約の更新はしないということになりそうじゃのぅ…」

「ひっ!」

悪魔は頭を掴んでいなかったはずの他の契約者たちの頭も掴む。

人の形をしていたはずの悪魔は、いつの間にか三本目の腕を生やしていた。

「ならば、これにて契約は終了。さて、契約通り、貴様らの一族の魂を頂くとしようぞ!」

悪魔は、頭をぎりぎりと万力のごとき力で締め上げ、契約者たちの頭を握りつぶさんとし始める。

「あっちゃー…高橋さん思考モードだし、悪魔さんは話聞きそうもないし…ラウール、またお願い」

繰橋がラウールの方を向いたら、すでにラウールは悪魔のそばにいた。

「あのー、すいませんけど。もう一度契約更新の儀式をちゃんと明後日までにやるんで、その子たちの頭を放してもらえません?」

「なんじゃ小童、貴様の願いなぞ聞くつもりはないわい」

悪魔は四本目の腕を生やし始めている。

「実は僕は…」

ラウールは悪魔の耳があるであろう場所にごにょごにょと小声で話し始めた。

すると、悪魔の目に驚愕の色が浮かんだ。

「なんと!貴殿はあの方の息子か!」

ラウールはニッと笑顔を浮かべた。

ラウールの正体は今は語るべきではないだろう。

しかし、悪魔と行う儀式の中に悪魔と交わり知識を得る、という儀式があることだけは、語っておこう。

「うむむ…相分かった。あの方の顔を立てて、此度は引こう。だが、次はありませんぞ」

そう言い残すと悪魔はフッと姿を消した。

「ゲホっげほっ」

「頭がぁぁぁ!」

「なにあれなにあれあんなのしらない」

悪魔から解放された三人は、息も絶え絶えに地面に倒れた。

「行くぞ二人とも」

高橋は、出口へと向かって歩き始める。

「あの三人はどうするんですか?」

「放っておけ。あいつらの家に行くぞ。舐めた真似してくれたこと目にもの見せてやる…フフフ…」

「これなら600万失った分補填できるどころか倍にできそうだな」

「あー…とりあえずこれ絆創膏とお水、動けるようになったらちゃんと家に帰るんだよ?」

そして三人は、契約者たちを置いて、廃墟を後にした。


時代は2020年、科学が世に浸透しきった時代。

そんな世の中でもまだ細々と魔法だの魔術だのは残っていた。

魔法魔術の全盛期では魔術師、魔法使いたちは知識を、名声を、富を、権力を求め悪魔と契約した。

でもこのご時世悪魔と契約しなくても、それらは普通に手に入っちゃうし、ぶっちゃけ魔術とかを極めようとか考えてる奴なんていなかった。

けれど悪魔との契約は大抵子々孫々まで関わるし、契約を勝手に破った場合、座敷童が家を出て行ったレベルで破滅する。

そして悪魔は当主が変わるときに契約の更新を必要とする。

だが、そんな魔術2世たちは魔術の練習なんてまるでしない!

だからこそ彼らが必要になるのだ、儀式代行が!

彼らは今日もどこかで儀式を行う。

契約更新を求める人たちと、彼らが払う金が尽きるまで!

戦え!儀式代行!負けるな!儀式代行!

とりあえず生贄用の人間の発注を忘れるな!