マガジンのカバー画像

宇宙解説

20
宇宙に関するトピックを簡単に解説した記事をまとめています.
運営しているクリエイター

記事一覧

新たに打ち上げられた小型月着陸実証機SLIMの意義と人類による月探査の展望

2023年9月,鹿児島県の種子島宇宙センターから新しい月面探査機が打ち上げられました.日本の宇宙航空研究開発機構JAXAによって開発されたこの探査機はSLIMと呼ばれます.SLIMは,打ち上げロケットから無事に分離され,これから3ヶ月ほどかけて月に向かい,その後月面への軟着陸を試みる予定です.もし成功すれば,日本にとって初めての月面への軟着陸達成となります. 近年,月面探査に対する関心が世界各国で高まっています.特に積極的な取り組みを展開しているのが中国です.中国は2013

恒星の進化と最期の姿

夜空で輝きを放っている天体の多くは,中心部での核融合反応によって自ら輝いている恒星です.特に,中心部において水素をヘリウムへと変える核融合反応を起こして輝いている恒星を主系列星と呼びます. 恒星の一生は人の一生と比べるときわめて長いため,主系列星として安定した姿を見せる恒星はいつまでも輝き続けるように思われます.しかし実際は,核融合反応の燃料には限りがあるため恒星にも寿命があり,やがて主系列段階を離れて進化していきます.詳しい研究から,その進化の過程は恒星の質量に依存してい

オウムアムア:太陽系に飛来した恒星間天体の発見と今後の展望

私たちのいる太陽系は,天の川銀河という渦巻き銀河に属していて,天の川銀河の中心に対して回転運動を行なっています.その速さは秒速約200キロメートルに及びますが,太陽系は天の川銀河の中心からおよそ2.6万光年ほど離れた位置にあるため,天の川銀河を一周するのに2億年ほどかかると考えられています. 銀河において,恒星と恒星の間の空間は星間空間と呼ばれます.星間空間には主に水素とヘリウムからなる希薄なガスが存在していますが,中には何らかの理由でもともといた恒星系から飛び出した小惑星

私たちの宇宙が迎える未来の予測:ビッグフリーズ・ビッグリップ・ビッグクランチとサイクリック宇宙論

天体現象の多くは私たちの寿命と比べてきわめて長い時間スケールで起こるため,変わらない姿を見せ続けてくれる天体たちは悠久の時を刻み続けるかのように思われます.しかし実際は,あらゆる天体にはその終わりがあり,宇宙はやがて無に帰すのではないかと考えられています.今回はこれまでの研究によって明らかにされている宇宙に関する知見をもとに,宇宙の未来について予測されていることを紹介していきます. 天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突私たちのいる太陽系は天の川銀河と呼ばれる渦巻銀河に属してい

宇宙の距離はしご:何億光年も離れた天体までの距離はどのように測られているのか

夜空を彩る無数の天体たちはさまざまな距離に位置していることが知られています.たとえば地球の衛星である月までの距離は約38万キロメートルで,地球が公転している太陽までの距離は約1億5000万キロメートルです. 太陽系の外に目を向けると,最も近い恒星であるアルファ・ケンタウリまでは約4.4光年,隣の銀河であるアンドロメダ銀河までは約250万光年もの距離があります.さらに人類は大型望遠鏡を駆使することで,最近では130億光年以上という途方もなく離れた天体も数多く発見してきています

ニュートリノ:素粒子の標準理論に修正を迫るニュートリノ振動と宇宙背景ニュートリノ

ニュートリノは,私たちの身の回りに数多く存在している素粒子のひとつです.たとえば,私たちの人体からもニュートリノは放射されています.私たちが口にしている食品にも微量ながら放射性物質が含まれていて,それらが放射性崩壊を起こす際にニュートリノが発生するためです.その数は放射性物質の摂取量によって異なりますが,1秒間におよそ3000個ものニュートリノが発生していると考えられています. 地球の内部からもニュートリノは放射されています.地球の内部にはウランやトリウムといった放射性物質

生命はどのように生じたのか

地球には実に多様な生物が存在しています.ヒトやイヌといった哺乳類,ハトやカラスといった鳥類,カメやトカゲといった爬虫類,両生類,魚類,昆虫,そして樹木や草花も生きています.肉眼では見えませんがさまざまな微生物も生息しています. こうした生命を持つ生物と,生命を持たない物質の間の違いは何でしょうか.生命の定義にはさまざまな案がありますが,ひとつの候補として,タンパク質をうまく使って自分の身体をつくったり,活動のためのエネルギーを得たりしていることが挙げられます.これを代謝と呼

元素はどのようにつくられたのか

私たちの身の回りにある多様な物質はさまざまな元素から構成されています.例えば私たち人体を構成する元素には,酸素や炭素,水素,カルシウムなどがあります.私たちの周囲を満たす空気には,窒素や酸素,アルゴンといった元素が含まれています.私たちの住む地球の地殻を構成する元素には,酸素やケイ素,アルミニウム,鉄などがあります. よりマクロな視点から見ると,現在の宇宙における元素の相対的な量は水素とヘリウムが圧倒的に多く,質量で比べると水素が約71%,ヘリウムが約27%を占めていて,そ

宇宙マイクロ波背景放射

夜空にはたくさんの星々が輝いています.天体が何もないように見える場所でも,望遠鏡を使って長い時間をかけて写真を撮ると,肉眼では見ることのできない暗い天体が無数に存在していることがわかります. ただ,それは可視光と呼ばれる550ナノメートル付近の波長を持つ電磁波で見た宇宙です.実は,可視光に比べて宇宙全体がきわめて明るく見える波長帯があります.マイクロ波と呼ばれる波長帯です. 現在の宇宙はマイクロ波の波長を持つ光子が飛び交っています.その密度は1立方センチメートルあたり約4

夜空はなぜ暗いのか − オルバースのパラドックス)

太陽が見えている日中,私たちの上には青い空が広がっています.これはいわゆるレイリー散乱で説明されます.青い波長の光ほど大気によって散乱されやすいため,太陽からの光のうち青色の光が上空のあちこちから私たちに届くことになり,空は青く見えています. そして太陽が地平線の彼方に沈むと,夜が訪れます.夜空にはたくさんの星々が輝いていますが,その明るさは日中と比べるとかなり限られていて,月が出ていなければ足元を確認することすら困難でしょう. このことから,もしかすると夜空が暗い理由は

火星のテラフォーミング

私たちの住む地球は,太陽のまわりを公転している惑星のひとつです. 太陽は中心部で水素の核融合反応を起こす主系列星と呼ばれる段階にあって,あと数十億年は安定して輝き続けると考えられています.地球はそんな太陽からちょうどよい距離で公転運動をしているため,大量の水が存在していて,生命を育んでくれています. ただ,これから先もずっと,地球が私たちの住むことのできる惑星であり続けてくれる保証はありません.かつて地球上で繁栄した恐竜が絶滅してしまったように,気候変動や火山活動,巨大隕

打ち上げ間近,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

地上560 kmで地球周回軌道を描くハッブル宇宙望遠鏡.地球大気の影響を受けず,きわめて鮮明な宇宙の姿を届けてくれるこの望遠鏡によって,これまで人類は宇宙の加速膨張や約130億年に渡る銀河宇宙の進化などさまざまな研究成果を挙げてきました. https://esahubble.org/images/hubble_earth_sp01/ ハッブル宇宙望遠鏡は,1990年にスペースシャトル・ディスカバリー号によって打ち上げられて以来,度重なる故障に見舞われながらも補修などを重ね

ダークエネルギー

ダークエネルギーは,この宇宙にあまねく存在していて,実質的に「反発する重力」のような影響を及ぼしているとされる仮想的なエネルギーです.さまざまな観測から示されている宇宙の加速膨張を説明するためには,宇宙にはダークエネルギーの存在が必要とされています.そして,その起源についてはさまざまな理論が提案されています. 今回はそんなダークエネルギーについて,その存在が注目されることになった宇宙の膨張史に関する観測と,ダークエネルギーの起源やその解釈などについて簡単にまとめていきます.

宇宙を見る「目」:電磁波・宇宙線・重力波

宇宙にはたくさんの天体がありますが,その多くは,私たちから遠く離れています.お隣の惑星である火星にすら人類はまだ行ったことはありません.探査機を送ったことのある範囲も太陽系内に限られています. そんな遠くにある天体を調べる方法は,主に電磁波です.電磁波は,電場と磁場の変化を伝える「波」のことを指します.電磁波はその波長の違いによって分類されていて,私たちが目で見ることのできる可視光を基準にすると,波長の長い方には赤外線や電波があり,波長の短い方には紫外線やX線,ガンマ線があ