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オウムアムア:太陽系に飛来した恒星間天体の発見と今後の展望

私たちのいる太陽系は,天の川銀河という渦巻き銀河に属していて,天の川銀河の中心に対して回転運動を行なっています.その速さは秒速約200キロメートルに及びますが,太陽系は天の川銀河の中心からおよそ2.6万光年ほど離れた位置にあるため,天の川銀河を一周するのに2億年ほどかかると考えられています.

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銀河において,恒星と恒星の間の空間は星間空間と呼ばれます.星間空間には主に水素とヘリウムからなる希薄なガスが存在していますが,中には何らかの理由でもともといた恒星系から飛び出した小惑星や彗星といった小天体もあると考えられています.一般に,星間空間にあって,恒星に重力的に束縛されていない恒星以外の天体のことを恒星間天体といいます.

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太陽系が天の川銀河の中を運動する際,たまたま近くを通った恒星間天体が太陽系へと近づいてきて,私たちの観測できる範囲に入ってくる可能性は以前から議論されていました.ただ,恒星間天体の大部分は小天体で,惑星と比べて小さいため反射光は暗いですから,恒星間天体を発見することは容易ではないと考えられます.実際,そうした恒星間天体はなかなか見つかりませんでした.

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そんな中,2008年,ハワイ大学などの研究機関によってPan-STARRS(パンスターズ)と呼ばれる探査が開始されました.全天の約4分の3に相当する広大な領域に対して時間間隔をあけて継続的に観測を実施することにより,地球に接近する小天体などを発見しようとする,前例のない大規模な探査です.

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このユニークな探査により太陽系内の小天体が数多く発見される中,2017年10月,ついに恒星間天体が初めて発見されました.当初,その天体は20等級ほどの暗い平凡な小天体として発見されました.初期の観測データをもとにした解析では,その小天体は太陽系内の彗星に似た軌道を持つと考えられていました.

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しかし観測データが蓄積されてその軌道の決定精度が上がってくると,興味深い事実が判明します.その小天体の軌道離心率が1より大きかったのです.このことは,その小天体の軌道が太陽を焦点とする双曲線状になっていて,太陽の周りを回る楕円状の軌道ではないことを示しています.この小天体は,太陽系のはるか彼方から飛んできて,たまたま太陽系の近くを通る際に太陽系の重力ポテンシャルに引き寄せられ,そしてその軌道を大きく曲げられた後,またはるか彼方へと飛び去っていく,というわけです.

人類が初めて遭遇したこの恒星間天体は,ハワイに設置された望遠鏡で発見されたことにちなんで,ハワイ語に由来する言葉でオウムアムアと名付けられました.「遠くからやってきた最初のメッセンジャー」という意味が込められています.

初めて発見された恒星間天体に対して,世界中の研究者たちはさまざまな望遠鏡を用いて観測を実施しました.その結果,オウムアムアは明るさが時間とともに大きく変化していることがわかりました.小天体は太陽からの光を反射して輝きます.小天体の明るさが大きく変化しているということは,太陽光を反射する小天体の面積が大きく変化していることを意味します.

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詳しい計算から,オウムアムアは縦横の軸比が10対1ほどのきわめて細長い形をしていて,長さは400メートルほどであることがわかりました.それが回転しているため,見かけの明るさが変動するというわけです.太陽系内にもたくさんの小天体が発見されていますが,それらは細長いものでもせいぜい3対1程度の軸比しか示しておらず,オウムアムアほど極端なものはありません.

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また,継続して観測することでオウムアムアは彗星のように明らかな物質の蒸発や放出が見られないにもかかわらず,不自然に加速していることがわかりました.変わった形と不自然な加速から,オウムアムアが巨大な宇宙船といった人工物である可能性も議論され,電波望遠鏡を用いてオウムアムアからの人工電波の探索も行われたほどでした.ただ,オウムアムアからの電波シグナルは検出されませんでした.

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その後,より詳細な観測によってオウムアムアの加速は太陽からの距離に依存していることが判明し,不自然に思われた加速は何らかの物質の蒸発による反作用で説明できることがわかりました.オウムアムアで蒸発していたのは通常の彗星で放出される水や一酸化炭素ではなく,より揮発性の高い物質の可能性があると考えられています.たとえば,冥王星のような天体の衝突現象が起きると,窒素の固体の破片が放出される可能性があり,その場合オウムアムアの性質を定量的に説明できるとされています.他にもさまざまな形成シナリオが提案され,当該分野で大きな注目を集めました.

https://mobile.arc.nasa.gov/public/iexplore/missions/pages/yss/november.html

さらに詳細な研究は,実際にオウムアムアに近付くことで可能となります.しかし残念ながら,オウムアムアは発見されたときにはすでに地球から遠ざかり始めていたため,オウムアムアへ探査機を送り込むことは困難でした.間もなくオウムアムアは,望遠鏡では観測できないほど遠くへと旅立ってしまいました.

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恒星間天体が私たちの観測できる範囲に入ってくる確率はそれほど高くないと考えられていましたが,2019年には別の恒星間天体であるボリソフ彗星が発見されました.このボリソフ彗星の軌道離心率は3を越えていて,軌道離心率が1.2程度だったオウムアムアと大きく異なる双曲線状の軌道を描いていました.また,オウムアムアと異なり,ボリソフ彗星はその名の通り明らかな尾を引く彗星活動を示していました.

観測を進めると,太陽系内にある彗星と比べて,ボリソフ彗星は一酸化炭素を3倍以上も含んでいることがわかりました.一酸化炭素は温かい環境ではすぐに気体となって小天体から逃げてしまうため,ボリソフ彗星は太陽よりかなり暗い小質量の恒星のまわりなど,太陽系の彗星より寒い環境で形成された可能性があります.近年,系外惑星の探査によって惑星系の多様性が明らかになってきていますが,恒星間天体はそれとは異なる視点から惑星系の多様性を明らかにしてくれるかもしれません.

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Comet_2I_Borisov_at_Perihelion_in_December_2019.tif

現在,チリのセロ・パチョンで建設が進められているヴェラ・ルービン天文台には口径8.4メートルのシモニー・サーベイ望遠鏡が設置される予定で,それによる大規模な探査が2023年に開始される見込みです.Pan-STARRSより感度の高い画像によって,これまで見つけられなかった暗い小天体を見つけることが可能となります.

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また,太陽と地球のラグランジュポイントに探査機を待機させておき,恒星間天体など興味深い天体が飛来した際に速やかに近づいてフライバイ探査を実施するコメット・インターセプターと呼ばれるミッションも検討されています.近い将来,大規模探査で発見した恒星間天体に探査機を直接送り込むなどして詳細な観測が行われ,宇宙の新たな姿が明らかとなることを期待しています.

https://elecnor-deimos.com/comet-interceptor/


参考文献

物理科学,この1年 2022
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宇宙はどのような姿をしているのか
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参考動画

The story of 'Oumuamua, the first visitor from another star system | Karen J. Meech - TED
https://youtu.be/rfi3w9Bzwik


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