私たちの宇宙が迎える未来の予測:ビッグフリーズ・ビッグリップ・ビッグクランチとサイクリック宇宙論
天体現象の多くは私たちの寿命と比べてきわめて長い時間スケールで起こるため,変わらない姿を見せ続けてくれる天体たちは悠久の時を刻み続けるかのように思われます.しかし実際は,あらゆる天体にはその終わりがあり,宇宙はやがて無に帰すのではないかと考えられています.今回はこれまでの研究によって明らかにされている宇宙に関する知見をもとに,宇宙の未来について予測されていることを紹介していきます.
天の川銀河とアンドロメダ銀河が衝突
私たちのいる太陽系は天の川銀河と呼ばれる渦巻銀河に属している恒星系のひとつですが,天の川銀河から約250万光年はなれたところには,別の渦巻銀河であるアンドロメダ銀河が位置しています.天の川銀河とアンドロメダ銀河は,互いの重力によって近づいていて,その速さは秒速100キロメートルを越えていることが知られています.そして詳しい計算から,数10億年後,天の川銀河とアンドロメダ銀河は衝突すると考えられています.
これらの銀河が衝突する際,星々が衝突することで生じた無数の破片が地球に降り注いでしまうといった危険性はないのでしょうか.実は,銀河内であっても恒星の密度はそれほど高くないため,銀河が衝突してもその中で恒星同士が衝突することはほとんど起こりません.例えば,太陽から最も近い恒星までの距離は約4.2光年ですから,太陽を直径1センチメートルのビー玉だとしたとき,隣の恒星までは約300キロメートルも離れていることになります.つまり銀河内の恒星の分布はスカスカですから,恒星同士の衝突はほとんどないと考えられます.
ただ,銀河が衝突すると,銀河の形態は大きく変わります.衝突によって天の川銀河とアンドロメダ銀河に見られる渦巻きパターンはしだいに消えていき,やがて二つの銀河はひとつの楕円銀河にまとまると考えられています.この合体した銀河は,天の川銀河がMilky Wayと呼ばれていて,それがアンドロメダ銀河とひとつになることから,Milkdromeda(ミルコメダ)と名付けられています.
太陽が主系列星から進化
太陽のような恒星は永遠に安定して輝き続けるわけではなく,その輝きはやがて終わりを迎えます.主系列星と呼ばれる段階にある恒星は,中心部で水素の核融合反応を起こすことで安定して輝いています.ただ,中心部にある水素の量は限られているため,例えば太陽の場合,あと60億年ほどで燃え尽きてしまうと考えられています.
中心部にある水素が燃え尽きると外向きの圧力が減少するため,太陽は自らの重力によって収縮していきます.すると,中心部の温度が上昇することで,これまで以上に活発な核融合反応が起こり,中心部の周囲に残っていた水素も核融合反応を起こします.それにより,外層のガスが膨らんでいって,太陽は赤色巨星と呼ばれる天体になります.
赤色巨星となった太陽の半径は最大で現在の約300倍にまで膨れ上がる可能性があります.この場合,水星や金星,地球といった太陽に近い惑星の公転軌道は,赤色巨星となった太陽に飲み込まれてしまうと考えられています.
ただ,地球自体は飲み込まれない可能性もあります.巨大化した太陽はガスを放出していきますが,それによって太陽の重力は弱くなるため,地球の公転軌道は現在より大きくなると考えられるためです.赤色巨星となった太陽より十分遠いところを公転できるようになっていれば,地球は太陽に飲み込まれずに済みそうです.
なお,巨大化した太陽はそのままガスを放出していって,熱い中心部を残します.そうして残された熱い中心部は白色矮星と呼ばれます.また,放出されたガスは,白色矮星からの紫外線で電離されたイオンによってさまざまな輝線を放射して輝きます.惑星状星雲と呼ばれます.惑星状星雲という名前は,口径の小さい望遠鏡で観測したときに縁のある惑星のように見えたことから,イギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルによって名付けられました.
銀河群・銀河団の銀河たちが合体
さらに時が経ち,約1000億年が経過すると,銀河群や銀河団では重力的に束縛されていたたくさんの銀河たちが合体して,それぞれに巨大な楕円銀河が誕生すると考えられています.
たとえば,天の川銀河とアンドロメダ銀河は,他に数十個の銀河と一緒に銀河群と呼ばれる小規模な銀河集団を形成していて,それらを総称して局所銀河群と呼ばれています.天の川銀河とアンドロメダ銀河は合体してミルコメダとなりますが,他の銀河たちもやがて合体していき,局所銀河群にはひとつの巨大な楕円銀河が残ると考えられています.同様に,他の銀河群や銀河団でも合体が起こり,それぞれがひとつの巨大な楕円銀河になります.
ただ,銀河団より大きな構造については重力によって十分に結びついていないため,宇宙膨張の効果が勝って互いにどんどん離れていくことになります.遠くの天体が遠ざかっていく見かけの速さは光速を越えることができるため,遠くの天体から順に観測可能な範囲の外へと出ていってしまい,やがて観測可能な範囲にある他の銀河は存在しなくなってしまうと考えられています.巨大な楕円銀河たちは,宇宙で孤立した存在となるのです.
恒星からの光の消失
それぞれの巨大な楕円銀河では,恒星の光もやがて失われます.恒星は中心部での核融合反応を終えると惑星状星雲となったり,超新星爆発を起こしたりしてそのガスを宇宙空間へと放出します.そしてそのガスは次の世代の恒星の材料となります.ただ,核融合反応によって軽い元素から重い元素がつくられていくため,そうした世代交代を繰り返していくと,主系列星の核融合反応の燃料である水素が次第に減少していき,新しい恒星が生まれにくくなります.
恒星の質量が小さいほど恒星の寿命は長いことが知られています.太陽質量の8%から50%くらいの恒星は温度が低く赤色に輝くため,赤色矮星と呼ばれます.これより質量の軽い天体は褐色矮星と呼ばれますが,安定して核融合反応を起こせないため恒星ではありません.新しい恒星が生まれにくくなった宇宙では,やがて寿命の長い赤色矮星ばかりとなって,それらが寿命を迎えると恒星の輝きは失われることになります.
ブラックホールの成長と陽子崩壊
恒星のいなくなってしまった宇宙では,惑星やその衛星,白色矮星が冷えて暗くなった天体である黒色矮星,重い恒星が最後に中心部に残す中性子星,そしてブラックホールが残ります.
これらの天体は楕円銀河の中でランダムに運動していますが,まれに互いに接近することがあります.すると,重力相互作用によって軌道が変わり,中には銀河の中心にある大質量ブラックホールへと落下していったり,逆に銀河の外へと飛んでいったりするものが出てきます.そして十分な時間が経過すると,楕円銀河に残されていた天体たちの多くは中心の大質量ブラックホールに落下してしまうか,もしくは楕円銀河の外に放出されてしまい,結果として楕円銀河から天体はほとんどいなくなると考えられています.
ブラックホールに落下せずに残された天体たちは,やがて陽子崩壊によって消滅すると考えられています.原子核を構成する陽子は非常に安定した粒子ですが,電弱相互作用と強い相互作用を統一する理論である大統一理論によると,陽子は非常に長い年月が経つと別の粒子へ崩壊してしまうと予想されています.原子核中の陽子が崩壊すると,中性子も安定した状態ではいられず崩壊してしまい,やがて原子は消滅してしまいます.こうした過程によって,原子からできている天体などあらゆる物体はいずれ消滅すると考えられます.
陽子崩壊の時間スケールはまだ明らかにされていませんが,10の34乗年かそれ以上と考えられています.したがって,大統一理論による予想が正しいとすると,10の34乗年以降という途方もない年月が経過した頃には,宇宙からはほぼすべての天体が消滅してしまい,ブラックホールが残ると期待されます.
ブラックホールの蒸発とビッグフリーズ
そしてブラックホールもやがて消失すると考えられています.周囲から落下してくる物質がなくなると,ブラックホールは光や電子などを放出して少しずつ軽くなっていきます.ブラックホールの蒸発と呼ばれる量子論にもとづいた現象で,イギリスの物理学者スティーブン・ホーキングによって予言されました.
物質はその温度に応じた熱放射をしていますが,ブラックホールもある種の温度を持っていると考えることができるため,それに応じた放射によって蒸発するという考え方です.ブラックホールの温度は質量が小さいほど高いため,蒸発ははじめはゆっくり起こりますが,やがて質量が小さくなると徐々に温度が上がって蒸発が早まり,最終的には爆発するような勢いで光やさまざまな素粒子を放出して消失するとされています.
ただ,ブラックホールの蒸発にかかる時間は桁違いに長く,太陽質量程度の比較的軽いブラックホールの場合でも10の67乗年程度かかり,銀河中心にある大質量ブラックホールに至っては10の100乗年程度もかかると予想されています.ブラックホールが蒸発した後の宇宙では,電子や陽電子,光子,ニュートリノといった素粒子だけが飛び交っていて,加速膨張のためとても希薄で何の変化もない世界が訪れると考えられています.このような宇宙の終わり方は,ビッグフリーズと呼ばれます.
別のシナリオ:ビッグリップとビッグクランチ
ビッグフリーズは,現在の私たちの宇宙に対する理解にもとづく最も可能性の高い宇宙の未来についてのシナリオです.ただ,実はこのシナリオは正体不明のままであるダークエネルギーの性質によって大きく変わる可能性があります.
これまでの研究から,ダークエネルギーの密度は宇宙が膨張しても変化することなく,ほぼ一定であることが示されています.そこで,ダークエネルギーの密度がこの先も一定であると仮定した場合のシナリオがこれまで述べてきたビッグフリーズに至るものでした.ただ,ダークエネルギーについて私たちはまだよくわかっていませんから,その密度の時間変化もこれまでの単純な外挿にしたがわない振る舞いを示す可能性があります.
もしダークエネルギーの密度が時間とともに増加する場合,宇宙の加速膨張はさらに勢いを増していくことになります.ダークエネルギーの密度が十分に高いと,銀河において恒星たちを束縛している重力よりも宇宙膨張の効果が勝ってしまい,銀河の恒星たちがちりぢりになってしまうことも考えられます.さらに,恒星系の惑星たちもちりぢりになり,個々の天体たちも破壊され,最終的には原子核すら破壊されて,素粒子レベルにまでバラバラになってしまう可能性があります.宇宙膨張によってあらゆる構造がバラバラになってしまうというシナリオで,ビッグリップと呼ばれます.
逆に,ダークエネルギーの密度が時間とともに減少する場合,宇宙を膨張させるように寄与していたダークエネルギーが,重力と同様に引力として作用するようになる可能性があります.このとき,宇宙膨張はいずれ止まってしまい,その後は収縮に転じることになります.宇宙は収縮とともに温度がどんどん上がっていき,超高温の世界となります.そして最終的に一点につぶれて終わりを迎えます.こうしたシナリオはビッグクランチと呼ばれます.
なお,ビッグクランチの後,宇宙は跳ね返ってまた膨張に転じるという考え方もあります.その場合,宇宙はビッグバンから宇宙膨張を経て収縮に転じ,ビッグクランチを迎え,またビッグバンから宇宙膨張を経て収縮に転じ,ビッグクランチを迎える,といったサイクルを繰り返すことになります.こうした考え方をサイクリック宇宙論と呼びます.
ただ,ビッグクランチが起きて大きさがゼロの点に収縮してしまった宇宙は特異点となってしまうため,何が起こるかは既存の物理学で調べられません.そこで必要となるのが,重力場の理論である一般相対性理論と,ミクロな世界を説明する量子論を融合させた量子重力理論です.そしてその有力な候補とされているのが超ひも理論です.超ひも理論が完成すれば,ビッグクランチの際の宇宙だけでなく,宇宙の誕生やブラックホール中心などを扱うこともできるようになると期待されています.
今回はこれまでの研究によって明らかにされている宇宙に関する知見をもとに,宇宙の未来について予測されていることを紹介しました.ただ,今後の宇宙の膨張史を大きく左右するダークエネルギーについて未解明であるため,かなり大きな不定性が残っていることはたしかです.今後の研究によってダークエネルギーの性質が明らかにされ,この宇宙に対する理解がさらに進むことを期待したいです.
参考文献
東京大学の先生伝授 文系のためのめっちゃやさしい宇宙
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