バロタが何言っているかわからん、という人向けの解説(その6)
3.2 より現実的な場合
みなさんご存知の通り、上死点と下死点にペダルがあるときは、ペダルを踏みにくいですよね。一方、ペダルが3時の角度付近のときは踏みやすい。つまり、F_c(ペダルを踏む力)は角度によって変化すると考える方が現実的です。
非常に単純化すると、真円ギアの場合、トルクはクランク軸の角度に応じて、図6の黒線のように変化します。大きいギアの方がトルクが大きくなります。
図6: チェーンにかかる力(ペダルを踏む力に比例)が一定でない場合のトルクのクランク軸角度に対する変化
楕円ギア(バロックギア)の場合は、F_cの変化に加えて、前の節で説明したように、半径が変わることによるトルク変化もあります。それを合わせると、おおむね図6の赤線のようにトルクが変わります。
つまり、ペダルが上・下死点にあるときは、小ギアと同じ、ペダルが3・9時の位置にあるときは大ギアと同じ、です。ここで、トルクの変動が真円ギアに比べて大きくなることに注意してください (あとで説明するように、これが非真円ギアの利点でもあり、欠点でもある)。
さて、つぎにエネルギーについて考えてみます。エネルギーを得るにはトルク「角度で積分」しなければなりませんでしたね。計算するまでもなく、半周したときの「面積」を図6で比較してみると、
小ギアでのエネルギー < 非真円ギアーでのエネルギー < 大ギアでのエネルギー
となるのがわかりますよね。これは言い換えると、回転数(つまり回した角度)が同じ場合、
小ギアで得られる運動エネルギー < 非真円ギアーでの運動エネルギー < 大ギアでの運動エネルギー
となります。この順番は、得られる速度の順番、でもあります(最初に書いた運動エネルギーと速さの関係を思い出してください)。
つまり、ペダルを踏む力が同じであれば、同じ回転数(ケイデンスx時間)なら、バロックギアよりも大ギアを踏み倒した方が速い、ということになります。
3. 3 ケイデンスが変化する場合
みなさん経験しているように、小ギアと大ギアではケイデンスが変わりますよね。フロント52Tから39Tにしたら、急にくるくると脚が回ると思います。
ケイデンスは「ある時間に何回、回転するか」という数で、物理では、「角速度」(ある時間にどれだけの角度を回るか)という量と同じです。
これまで何度も書いてきた、
回転のエネルギー = クランクを回した角度xトルク
の関係は、角度=角速度x時間 (速度x 時間 = 距離、と同じような関係です)に置き換えられれます。そうすると、エネルギーは、
回転のエネルギー = 角速度 xトルク x 時間 (10)
となります。
角速度(ケイデンス)やトルクが時間(つまり、クランクの角度)によって変わる場合は、この式を「時間積分」すればよいのですが、ここではそれはやらずに、上の式を変形(両辺を時間で割って)して、
回転のエネルギー/時間 = 角速度 x トルク (10')
とします。ここで、回転のエネルギー/時間 = パワー((2)式)を思い出しましょう。つまり、
パワー = ケイデンス xトルク (11)
ということになります。この関係は知っている人も多いでしょう。
仮にパワーが一定(例えば、200W)として、トルクがバロックギアのように変化するとします(図6)。ここで、横軸は角度ではなくて、ペダリングしている時間とします。
そうすると、図7のように、ケイデンスとトルクの関係はちょうど逆になります。ケイデンスが大きいときは、トルクが小さく、ケイデンスが小さいときはトルクが大きい、わけです。それは、みなさんがギアチェンジをしたときに体験することと同じですね。
図7:パワー、ギア一定のときの、ケイデンスとトルクの関係
つづく...
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