バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その5)

さて、前回にひきつづき、Kooijman et al. 2011の数理モデルを説明しますが、難しいことを抜きにして、その解析結果の図が以下です。

横軸は時間、縦軸がバイクの傾く速さ(濃い実線)とバイクのヨー角(進行方向に対する角度)が変わる速さ(薄い点線)です。どちらも0であれば、バイクは真っ直ぐ傾かずに進む、ということを示しています。実線と点線は、解析モデルの解です。傾きをみると、最初、0.4 ラジアン/秒で+方向に傾きますが、その速さは徐々に減って、1秒付近から今度は逆方向に傾こうとします。やがて、3秒付近で、傾きが変わる速度はほぼ0になります(つまり、それ以上傾かない)。同様にヨー角も最初大きく変わって、3秒くらいで0に収束します。

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このモデルバイクは、ジャイロ効果ゼロで、トレールもゼロ、でした。にも関わらず、時間がたつと勝手に安定する、という結果です。+と△印は(その3)で示した実験結果です。概ね数理モデルの結果と合っていますね(実際の方が、傾く速度が0を境にプラス→マイナス→プラス→マイナス、とオーバーシュートしながら収束しているのが違いますが)。ヨー角の方は実験では3秒以降にマイナスの値のままなので、右(か左)にずれていっていることを示しています。

余談ですが、オーバーシュートという用語は本来こういう意味(通り過ぎる)なのです。COVID-19でよく聞いた「オーバーシュート」は使い方を間違っています。

この数理モデルと実験結果から、この論文では、ジャイロ効果もトレールが正というのも自転車の自立走行の必要十分条件ではない、と結論付けています。いままでの常識が覆されたわけです。

さらに、同様の解析を下の図のようなもっと変なバイクでも行ってみました。これは、ヘッドチューブが逆に傾いている、という場合です(ジャイロ効果はゼロ)。

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なんと、これでも、この著者は安定な解(=自律走行)を見つけました。

では、いったい(人が乗っていない)自転車が安定して走る必要条件はなんなのでしょうか?

(まだ続く)

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