バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その4)

前回ジャイロ効果ゼロ、トレールが負というヘンテコなバイクが自律走行して倒れないというKooijman et al. (2011)の実験を紹介しました。この論文はその実験もさることながら、物理数理モデルを作って解析をして、実験結果を再現した、というのが昔のJones (1970)とは違うところです。それがなぜ重要かというと、バイクの運動が方程式で表されているので、なぜ倒れないか、という根本的な疑問に答えられるかもしれないからです。Jonesさんがあの変なバイクを乗りこなしたとしても、この疑問には答えられません。ここでは、その物理数理モデルと結果を(その4)と(その5)で簡単に紹介したいと思います。最後はなかなか驚きの結論になります。

現実のバイクの運動は非常に複雑な要素がからみあっているので、バイクの3次元的な傾き(ロール角、ヨー角)以外にも、例えば、角運動量(ジャイロ効果)、さまざまな場所に働くトルク、重心の位置、フレームの硬さやジオメトリなど、いろいろなパラメータがあります。それらをすべて含む数理モデルを作るのは不可能なので、運動方程式を書くときに、モデルを簡単化します。Kooijmanの代表的モデルバイクでは、重心を2箇所、ホイールのジャイロ効果をゼロにして、トレール(その3の模式図の c )をゼロにしています。その結果、パラーメータの数は8になったとのこと(同様の先行研究では、これが25だった)。パラメータが少ないほど方程式は単純になり、解析が容易になります。

さて、ここでの「解析」とは何か?知りたいことは、自律走行するか?、つまり、外からの力(ライダーの力)なしで、倒れないで前に進むか?ということなので、モデルバイクの安定な状態に対し、バイクの傾きや方向をわずかに揺らしてあげます。その結果、傾きや方向が大きくなる方向に変化するなら不安定、逆に傾きや方向を修正する方向に変化するなら安定、というわけです(これを専門用語で線形解析といいます)。

例えば、下の図のような状況がわかりやすいかもしれません。aのように凹状の斜面の谷にある玉を揺らしてあげても、振動しながらいつか真ん中に戻ります。これが安定なバランス。逆にbのように、凸状の斜面の頂上にある玉はこの瞬間はバランスを取っていても、ちょっと左右に押すとそのまま落ちていってしまいます。これが不安定なバランスです(他に振動しながら不安定、という状況もあります。振り子を揺らしてどんどん振幅が大きくなるようなケースです)。

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自律走行するバイクは、多少の揺らぎに対して安定な状況にあるはずです。実際、Kooijmanのバイクは手を離して走っているときに、横から押してもまたもとに戻るそうです。例えば普通の自転車で手放しで真っ直ぐ走っているとき、路面が多少凸凹していようが腰を振ってハンドルを揺らしてみても元に戻って真っ直ぐ走りますね(試してみてください!)。

(つづく)






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