バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その3)

さて、本題のサイエンス論文(Kooijman et al. 2011)に戻ります。この論文は、(その2)で紹介したJones 1970の現代版です。まず、実験用自転車をつくります。今度は「人が乗って安定するか」ではなく、「人が乗らないでもある程度自転車はまっすぐ走るのはなぜか」あるいは「手放しでも安定して走るのはなぜか」というのがテーマなので、こういう変な「自転車」を使います。

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写真Bは前輪ですが、前・後輪に逆向きに回転する車輪をつけます。これはJones (1970)と同じアイデアで、車輪のジャイロ効果をキャンセルするため、です。なので、これは、スケート(ただし、ハンドルが動く)と同じだ、と筆者は言っています。つまり、構造はこんな感じです(Fig. 1から)。

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自転車はもっと複雑な構造ですが、本質を突き詰めれば、ここまで簡単にすることができて、このモデルを解析したり、実際に走らせたりしたのが、この論文です。上の図Bで注目したいのは、フロントの接地部分の拡大です。この「自転車」はトレールが負になっています。

(その2)で書いたように、トレールが負の自転車は安定しない、というのが常識でした。ところが、この「自転車」はある程度まっすぐ走ります。

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ムービーを見たほうがわかりやすいので、こちらのリンクから、下の方のMovie s1 というのをダウンロードしてください。2回の試行が映ってますが、手を離しても、倒れそうになったあとに立ち直って、まっすぐ走っています

つまり、この「自転車」は自分で安定するために必要と言われていた、「ジャイロ効果」も「トレール効果」もないのに、倒れかけても勝手に元に戻っている、わけです。

次回は、この実験と数理モデルを比較してみます(ちょい、難しくなるかも(汗)) (つづく)


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