コーティングで幸せになれるか?(その2)

前回のつづき)チェーンやギアのドライブトレインでの摩擦は結局のところ、金属どうしの接触で発生しています。自転車を乗る立場としてはエネルギーが無駄になるので摩擦をできるだけ減らしたい。回っているギアでもその接触してる部分を拡大してみると、下の図のようになっています。Wが垂直に押し付ける力(=抗力N)、Fが引っ張る力で、F_fricが摩擦力です。

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摩擦力には、有名な経験則があります。それが、アモントン・クーロンの法則です。

1.  摩擦力(F_fric)は見かけの接触面積によらない
2. 摩擦力は荷重(W)に比例する
3.  動摩擦力は最大静摩擦力より小さく、滑っている速度によらない

摩擦力F_fricは、物体が接している面積が広いと大きくなるような気がしますが、面積には関係ありません(法則1)。法則2を式で書くと(W=N=垂直抗力のとき)、

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となって、比例係数 μ(ミュー)が摩擦係数です。物体が止まっているときが静摩擦係数、動いてるときが動摩擦係数、と言いますが、どちらも物体の性質によって決まっている定数です。よく「ミューが小さい路面」と言ったりしますが、その「ミュー」はこの係数から来ています。ここまでは高校の物理で習います。

さて、ドライブトレインのコーティングが意味あるかどうかを考えるときに重要なのはこのアモントン・クーロンの法則がなぜ成り立つのか、ということです。法則自体は15世紀にはレオナルド・ダビンチが既に見つけていたそうですが、そもそもなぜこうなるのかは500年たった今でも完全には理解されていません。最近のいろいろな研究により、どうやら、接触面のミクロな過程に関係がありそうです。一番有力な説は、凝着説というものです。

どんな表面でも完全に平坦ということはないので、力Wで押し付けたときに、接触しているところはムラムラになります。これを真実接触点といいます。2つの表面は、面で接しているというより、狭い点で接しているのです。そして、接しているところでは2つの物質が癒着していて、それを引き剥がす力の総和が摩擦力F_fricとして観測される、というわけです。

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真実接触点付近を拡大してみると、こんな感じです。

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これが物体がずれると、

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くっついたところ(凝着)が変形します。なぜくっついているかというと、原子や分子間の力が働くからです。しかし、もっと動くと、その力を振り切って、

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と接触がきれます。私達が感じるマクロな摩擦力は、このように、ミクロ(1−10マイクロメートルサイズ程度)の凝着を切る力の集まり、と解釈されてます。

まだコーティングの話にたどり着かないですが長くなったので(つづく)



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