コーティングで幸せになれるか?(その1)

最近話題の「チェーンやギアに(かなりお高い)コーティングするだけで10Wお得」という例のやつですが、10Wは相当ですよね。多少高かろうと飛びつきたくなります。しかし、原理を知らないと気持ち悪いというが当noteのスタンスなので、いろいろ考察してみました。

しかし、突き詰めて考えると、この問題はそもそも「摩擦とは何か」という問題に突き当たります。残念ながら私は物性物理は専門外なので、とりあえず図書館に行って(いつでも無料で膨大な資料にアクセスできるというのは大学の利点)、これを借りてきました。摩擦の物理(岩波講座)

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なかなか勉強になりました(ところどころあんまり易しくはない)。摩擦はわかっているようで、実はいろいろわかってないことがあるんですね。特に原子レベルの摩擦力は測定技術の革新もあって、今もホットな研究分野のようです。

それを踏まえて、例のコーティングですが、ホームページ(あえてリンクはしない)には

チタンナノ粒子が自由に動きチタンナノ粒子自体が小さなベアリング作用をします。そして、外的な力が加わり一度離れてもまた付着するので長寿命を実現しています。体感できる効果としては低トルク時はフリクションも低減し、高トルク時はギアとチェーンがガッチリと噛み合うイメージです

と書かれています。金属面どうしが接触しているところのイメージとしてはこんな感じでしょうか。赤いポチポチがチタンナノ粒子です。

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こういうことが本当に起こっているのか、ギアとチェーンの接触面の電子顕微鏡写真でも見せてくれればよいのですが、そういうのはなさそうなので、頭の中で考えます。まずは、

チタンナノ粒子

とはなんぞや、というところから話をしないとなりません。ナノというのは、10^-9 を表す接頭辞です。つまり、サイズだと、1mの1/1000が1mm(ミリメートル),  1mmの1/1000が1μm (マイクロメートル)、そのまた1/1000が、1nm (ナノメートル)です。まあ、原子の大きさくらい、と思ってもらえればよいです。上記のホームページには電子顕微鏡写真もあって、チタンの粒子サイズは5nm 程度とあります。すごく小さいです。この小さい粒子がベアリングの役目をしているので、摩擦が軽減される、というのが主張のようです。なんかそれっぽい説明のように思えます(後半の「高トルク時にはガッチリ噛み合って」という部分についての考察はまたあとで)。

摩擦はチェーンやギアが接触しているあらゆるところで発生します。チェーンのコマの内部やギアの歯とコマの接触部分など。上の主張は、その接触していることで発生する摩擦がナノメートル程度の現象だ、言っているように聴こえます。これはありうるんでしょうか?

普通のピカピカに磨いた金属表面の凸凹の程度は小さくてもマイクロメートル程度だと思います。また、チェーンもギアもメッキがされているのですが、メッキ表面の粗さはかなり良いもので、0.1-1マイクロメートルだとおもいます。105とデュラエースチェーンで違うかもしれませんが(詳しい人がいたらぜひ教えていただきたい)。つまり、チェーンやギアの表面は、ナノメートルの100倍くらいの凸凹がある、ということになります

そういう状況で、さらに魔法のコーティングをすると、5ナノメートルくらいの金属粒子が挟まっている、感じになるはずです。

イメージとしては、こんな感じでしょうか。スクリーンショット 2020-05-27 8.15.25

赤いポチポチが金属粒子のつもりです。

こういう目に見えないところでベアリング効果が効いている(ファンデルワールス力うんぬんは本質的でないのでとりあえず気にしない)というわけです。

しかし、たぶん、現実には上の図のようにはなっていないと思われます。

(つづく)


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