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ゴッホの見た星空(30) 番外編:なぜ私はブルーが好きなのか?

ブルー

以前のnoteで、二つの色にこだわった。ブルーとグリーンである。

今回はブルーの話をしよう。

ゴッホは星や夜空にたくさんの色を見て、巧みに絵に取り入れた。
例えば、ウルトラマリンの色がゴッホの手紙に出てくる。noteの第25話と重なるが紹介しよう。

1888年9月9日 日曜日ならびに14日 金曜日 (妹の)ウイレーミン・ファン・ゴッホ宛
手はじめに描いたのは若いベルギーの印象派の画家の肖像で、詩人のような感じに描いた。繊細でデリケートな顔が、星のきらめくウルトラマリンの夜空を背景に浮かび上がっている。 (『ファン・ゴッホの手紙 II』圀府寺司 訳、新潮社、2020年、300頁)

この手紙に出てくる画家はウジェーヌ・ボック(1855-1941)。ウルトラマリンは天然石の半貴石であるラピスラズリ(日本名は“瑠璃”)を原料とした絵具を使うと出る色である(図1)。

図1 《ウジェーヌ・ボックの肖像》油彩、キャンバス、60.0 x 45.0 cm。1888年9月、アルルにて。フランス・パリのオルセー美術館所蔵。 https://ja.wikipedia.org/wiki/フィンセント・ファン・ゴッホの作品一覧#/media/ファイル:Van_Gogh_Portrait_Eugene_Boch.jpg

金沢・成巽閣で見たウルトラマリン

先日、金沢に出かけたとき、兼六園に隣接する成巽閣(せいそんかく)に行ってみた。成巽閣は加賀藩の13代藩主である前田斉泰(まえだなりやす)が母の真龍院のために文久3年(1863年)に建てた隠居所である。成巽閣には「群青の間・書見の間」という部屋がある。この部屋の壁の一部の色は、部屋の名前が示すように、ウルトラマリンの色なのだ。驚くほど美しい。

私はなぜブルーが好きなのか?

そして、私は金沢で美術館や漆器店、陶磁器店をいろいろ見てまわり、たくさんの美しい青(碧)に出会った。そのとき、思った。私はなぜ青が好きなのだろう? しばらく考えて答えに行き着いた。

「蝶だ!」

昆虫採集

子供の頃、趣味は昆虫採集だった。トンボやバッタも採ったが、昆虫の中では蝶が一番好きだった。かなり本格的に標本までつくっていた。幸い、近くに住んでいた従兄弟が蝶の標本作りに詳しく、いろいろ指導してもらった。捕虫網や展翅(てんし:標本作りのために羽を整えて伸ばす)板を売っているお店も教えてもらったほどだ。また、蝶は一匹二匹ではなく、一頭二頭と数えることも教えてもらった。これは結構、衝撃的だった。

当然、蝶の図鑑も買った。『原色日本蝶類図鑑』(保育社、昭和29年)だ(図2)。毎日飽きもせずに眺めていたことを思い出す。

図2 『原色日本蝶類図鑑』(保育社、昭和29年 [1954年])。右はカバーで、本体は左。カバーの蝶はクジャクチョウ、本体の蝶はギフチョウ。70年前の本なので、さすがに年季が入っている。

青い蝶

私が好きだった蝶を挙げると、青い蝶が多いことに気づいた。まず、アオスジアゲハだ(図3)。

図3 アオスジアゲハ(『野外ハンドブック・2 蝶』山と渓谷社、第二版、昭和55年、182頁)。

では、アオスジアゲハをたくさん採集できたのかというと、そうではない。子供の頃住んでいた北海道には、残念ながらアオスジアゲハは生息していなかった。

たまに捕まえることができたのはルリタテハ(図4)とコムラサキ(図5)だった。日本の国蝶であるオオムラサキ(図6)の紫色は綺麗だが、私の住んでいる街にはいなかった。

図4 ルリタテハ。(『野外ハンドブック・2 蝶』山と渓谷社、第二版、昭和55年、27頁)
図5 コムラサキ。(『野外ハンドブック・2 蝶』山と渓谷社、第二版、昭和55年、156頁)
図6 オオムラサキ。(『野外ハンドブック・2 蝶』山と渓谷社、第二版、昭和55年、64頁)

ゴッホの描いた蝶

ところで、ゴッホは蝶が好きだったのだろうか? それは別として、蝶が描かれた絵が残っている。1890年の春、サン=レミで描かれた《ひなげしと蝶》である(図7)。ひなげしの周りで遊ぶ二頭の蝶が描かれている。

さて、モンシロチョウだろうか? それともモンキチョウ? 

図7 ゴッホの《ひなげしと蝶》 1890年4月から5月 サン=レミ 油彩、キャンバス、34.5 x 25.5 cm (ファン・ゴッホ美術館)。なお、1887年には《蝶の舞う庭の片隅》、1890年にはオーバーズ・シュル・オイズで《二つの白い蝶》も描いている。これらは翅の模様が判然としないが、やはりモンシロチョウの可能性が高い。 https://ja.wikipedia.org/wiki/フィンセント・ファン・ゴッホの作品一覧#/media/ファイル:Van_Gogh_-_Klatschmohn_und_Schmetterlinge.jpeg

上の翅に黒い二つの模様が見える。この特徴はモンシロチョウだ(図8)。色的にはモンキチョウに思えたが、絵に色焼けがあったのだろうか。
星に鮮やかな色を見たゴッホにしては、地味な蝶を選んだものだ。

図8 (上)モンシロチョウと(下)モンキチョウ。 https://ja.wikipedia.org/wiki/モンシロチョウ#/media/ファイル:Pieris_rapae_MHNT.jpg http://insects.life.coocan.jp/Specimens/Photo/Monkichou.jpg

モルフォ蝶を眺める日々

蝶に関して言えば、ゴッホと私の好みは異なるようだ。なにしろ、私はなぜか青い翅の蝶が大好きだったからだ。

大人になって仕事で台湾に行ったとき、お土産に買ってきたのが太陽蝶(モルフォ蝶)だった(図9)。
「三つ子の魂、百まで」この格言は正しい。
書斎に飾ってある太陽蝶(モルフォ蝶)を拝む日々を送っている。

図9 台湾土産として買ってきた太陽蝶(モルフォ蝶)。どうしたらこんなに綺麗な翅ができるのだろう。南米アマゾンの密林に行って太陽蝶が飛ぶ姿を見てみたいものだ。


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