人生を直線的に生きる人間

 ティム・インゴルドさんのメイキングという本を読んで、これまでの自分は何かに向かって直線的に生きてしまっていた部分があったのではないかと考えさせられた。

 メイキングでは筆者が人間が物を作るときにどのように考え実現するのか、というものづくりの際の思考過程から人間の思考について理解を深めていく。そして、この本の最後の章では人類の考え方についての示唆が与えられる。

 「高度にデジタル化された社会では、ものより対象に、運動よりも可動性に、手書きの文字やドローイングよりも印刷された文字に価値がおかれる。このような社会ではネットワークが派遣を握り、すべての線は結びつける。」とある。これはデジタル化された社会では連続的に変化するものではなくある固定された状態で物事を判断し、それらを直線で結びつけることを意味する。

 このような社会ではある場所から目的地に行くときには途中の道は無視され、直線的に最短で行けることが価値となる。そして、このような価値観の人々は目的地にたどり着くたびに新たな目的地が必要となるため、革新や変化が必要となる。

 この考え方が現代人が苦悩を感じる原因ではないだろうか?多くの人は進学先を考えたり就活をする時に、人生のどの時点でどうなっていたいか考える。そして、デジタル化社会の価値観ではその目標に向かってない行いは否定される。現実はデジタルとは違い直線的に進むことは不可能であり多くの時間は回り道に使われるだろう。そのため、デジタル化社会を生きる人間は多くの時間を否定されるべき時間として過ごさなければならない。そして、自分の行いのほとんどを否定しながら生きることとなる。

 ところで、最近に限らず死を意識するとよく生きれるという話をよく聞く。これは死を意識すると今に集中できるようになるためと言われている。この死を意識することはデジタル化社会の価値観を抜け出すことにも役立つ。デジタル化社会の価値感を持って死を最終地点に定めると死に向かって直進することが生きることとなり矛盾が生じる。つまりこの価値観では死という最終地点はあってはならないものなのだ。しかし、人間は必ず死ぬので矛盾が生じ苦悩を感じる原因となっている。

 この苦悩を解消するためには2つの方法がありそれは現在の社会に表れている。1つ目は死の前に無限に近い数の目的地を作り続けることだ。これを行えば死に際まで死を忘れて生きることができる。この様子は仕事の多様化、変化加速、学び続ける人生という際限なく目的が生成され続ける社会に表れている。2つ目の方法は死後に目的を作ることである。この傾向はここ数年で注目されている転生ものと呼ばれる設定の小説やアニメに表れている。これは輪廻転生と違って今の自分の知識を維持しながら死後の世界を生きるというもので今やっていることを否定せずに死後に向かうことができる。

 自分も含めて社会全体が直線的に生きるようになっていることがわかった。人間は適応できる生き物なので今回あげた例のほかにも多くの方法を考案していき苦悩は解消されていくのかもしれない。しかし、メイキングで提案されたもう一つの生き方をしていきたい。

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