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孤独に名前をつけるということ

12月30日に親戚宅に向かい、久しぶりに親戚と会った。(ひさびさと言っても1ヶ月ぶりだったが)
彼女は私の母の従姉妹である。年齢不詳でどこかエキゾチックな顔をしており、どこか所作も日本離れしている。

私が大学生の頃に地元から離れて関東で慣れない暮らしを始めた時に彼女がよく連れ出してくれた。コミックバンドのライブに行ったり、彼女の旦那さんが出るDJイベントに行ったり旦那さんも合わせて焼肉を食べに行ったり。

すごく覚えているのが、大体遊びに行こうと連絡をもらいついて行くと彼女と旦那さんは「私たち今喧嘩中だけどきにしないでね」と言われていたことだ。ちなみに全然険悪じゃないように振る舞っていた(のか知らないけど)ので大人ってすげえなと思いながら遊んでいた記憶がある、

さて、ひさびさに彼女と会い第一声言われたことが、「明日どうする?用事ないならホラー映画観に行こうよ!」である。
第一声それかよ…と思いつつ、いいねぇ〜と答えた。ただ、彼女の母。私の祖母の妹は「なぁ〜に言ってんだべさ!」と呆れていた。
おそらくそれが正解だと思う。

駅から親戚宅に向かい、温かいご飯を振舞ってもらう。里芋とイカの煮物、明太子グラタン、もやしのナムル、ステーキ…今思えばすごい食べたな。
祖母の妹は祖母の兄妹の中で一番料理がうまい。私の母や母の妹も言っていたのだから間違いない。だから私が食べ過ぎてしまうの仕方がないことだ。(私は意志が弱いのでこういうふうに言い訳をしてしまう。)

腹を膨らませたところで、女性が3名揃えばその文字の通り姦しくなる。他の親戚の話や近況、最近気になっている事などを話した。
その際に私が「そういえば最近おすすめの本ない?」と聞いたことから話が始まる。

「色々あるけどこれは?」

千年の祈り
著:イーユン・リー 訳:篠森ゆりこ

「どんな話?」と聞いたときに何か言ってた気がするが現状思い出せないので、とりあえず読んでみた感想を書き記していこうと思う。

あらすじ

離婚した娘を案じて中国からやってきた父。その父をうとましく思い、心を開かない娘。一方で父は、公園で知りあったイラン人の老婦人と言葉も通じないまま心を通わせている。父と娘の深い縁と語られない秘密、人生の黄昏にある男女の濁りのない情愛を描いた表題作ほか全十篇。北京生まれの新人による全米注目の傑作短篇集。

この小説を読んで驚くのはそのあまりの日常ぶりである。小説の端々に「文化革命」「天安門事件」歴史の教科書でしか読んだことがない非日常を象徴するような単語が散りばめられているのに、そこに暮らす人たちはまるで蚊帳の外にいるようにそれぞれの日常を過ごしている。ただ少しその非日常の影を落としながら。

全て読んでから今思い出しながら感想を書いているが、私は作者が見せたかった、届けたかった思いの半分も知ることができないでいる気がする。その発言が、その時代にどのような意味を持つのかを知ることがこの著書を読むのに必要なことなのだなと改めて感じる。

書いてあるのは中国に住む様々な人たちの生活、人生。色々な人たちの暮らしが日常が綴られている。ただ、ほのぼのとした雰囲気ではなくどこか日の当たらないじっとりとした冷たい土の感触を思い浮かばせるような話だった。
「救いがない」とそう伝えればいいだろうか。

このほとんどは恐らくフィクションなのだが、最後の話である「千年の祈り」は恐らくこの著者自身のことを書いているのではないかと思った。
この最後の話を読んで、初めてこの千年の祈りという短編集はこの時代のこの国を生きてきた彼女のこの中国という国に対する怒り、嫌悪感を綴ったものなのではないかと思った。

年老いてもなお未婚の女性への冷たい目線、友人をアメリカに逃すために自分の恋人と友人を偽装結婚させたもののそのまま友人に恋人を奪われてしまう女性、少し遅れている自分の娘を他者に見つからないように存在を隠し続ける夫婦。

どの話も人と人の話なのに、あまりに皆孤独で千年の祈りという美しい言葉とは裏腹にどこか生臭かった。

ただ、この本を読む理由を一つ挙げるとすれば、この本を読むどんな人の孤独にもこの本は寄り添ってくれることだろうか。もし、自分の孤独に名前がない人、名前をつけられない人がいるとしたら、ぜひこの本を読んで自分の孤独な気持ちに名前をつけてほしい。私はこの本を読むことで、少し自分の孤独に折り合いをつけることができた。(完全にではないけれど)

どうかこの本を読む多くの人が孤独を遠ざけ、千年の祈りによって愛する人と一緒に入れますように。

_____

そういえば今思い出したが、私の母の従姉妹は「この本は孤独について書いてあるんだよね〜」といつもの飄々とした感じで言っていた気がする。
彼女はよく一人で行動している。
ただ、彼女を孤独だと思ったことはない。
あえてスピリチュアル的な物言いをすると彼女は世界と繋がっているような、そんな雰囲気があるのだ。

そんな彼女がこの本を読んでいったいどのような感想を持ったのか、今度会った時に聞いてみようと思う。彼女の孤独はこの本を読んでどのような名前がついたのか聞いてみたい。

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