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自民党こそリベラルだという事実

※こちら、衆院選前の9月9日に書いて保留していた記事を起こしました。ですので、いきなり自民総裁選の話になっています(岸田さんが勝利したアレです)。【これより新たに11月10日に書き足し】から新たに書き足しました。

菅総理が退任を発表し、現在、自民党総裁選が政治の最大の関心事になっています。その中で、いろんな記事が飛び交うのはいつの時代も同じですが、高市早苗さんについて「右翼」「保守」という言葉が散見されます。そこで、そもそも「右と左」「保守とリベラル」という観点で、現在の日本の状況を整理した方が良いなと思い、ここに記します。

保守とは?リベラルとは?

まあ、タイトルに結論を入れたのであれですが(笑)、そもそも保守とは何なのか、リベラルとは何なのか、をまずは整理します。(いずれも広辞苑より)

【保守】旧来の風習・伝統を重んじ、それを保存しようとすること。
【リベラル】個人の自由、個性を重んずるさま。自由主義的。

タイトルに倣い、リベラルについて説明します。

上述の通り、自由主義、個人の自由を重んずる、とあります。個人の自由が尊重されるのは当然のことですし、今の時代、当たり前だと感じるかもしれません。他方、この自由主義という言葉は実は結構残酷な意味が含まれていることを注意しないといけません。

人が自由に活動するということは、自由競争という言葉のとおり、その自由な中で競争が必ず生まれます。もう少し具体的に分かりやすくするならば、Aさんは自由にビジネスをしたいと考え、ラーメン屋を始めます。すると、同じく自由にやりたいとBさんもラーメン屋を隣で始めます。この二人の動機は自由であり、リベラルな世界観に基づいています。共存共栄も勿論あり得ますが、多くの場合どちらかが勝ち、どちらかが敗れます。敗者は閉店するなりの憂き目を味わいます。人が自由になればなるほど、競争が激化し、勝ち負けが出てきます。

アメリカでリベラルを支持するのは誰?

日本の政治はやや複雑になり過ぎたので、分かりやすいアメリカで見てみましょう。アメリカでは、保守=共和党(トランプ等)、リベラル=民主党(バイデン等)です。では、リベラルな民主党の支持者はどこに多いでしょうか?そう、NYやLA、SFといった都市部の富裕層です。では、彼らはなぜリベラルを標榜するのでしょうか?

それは、彼らが自由競争の勝者であり、自分たちの努力と才能により成功を勝ち取ったと考え、自由と公正な競争こそ、自分たちの成功に不可欠だと考えるからです(なお、この考え方には大きな誤り、矛盾を抱えています。これはサンデル教授が「実力も運のうち」で指摘していますが、話が飛びますのでここでは控えます)。

日本の左翼が全然リベラルじゃない理由

つまり、本当の意味でのリベラルの考え方とは、自由で公正な競争社会こそ、国の発展に寄与すると考え、他方、必ず敗者も発生するので(というか、敗者の方が多い)、そういう人たちを救うセーフティーネットを整備し、再チャレンジ可能な社会にすべきという考え方です。実は、結構冷たい考え方でもあるのです。自由と言うと聞こえが良いですが、人が自由であろうとすると、そこに競争が生まれますので、非常に大変な社会でもあるのです。

ですが、日本の左翼の人たちは、この大変なところを言わず、その後のセーフティネットの部分にフォーカスします。多様性やマイノリティの尊重といった聞こえの良い言葉を使い、臭い物に蓋をするわけです。ですので、共産党や立憲民主党等が言っている主張は左翼的であり、共産主義的ではあれど、全然リベラルではないのです。アメリカの民主党と日本の共産党の主張は似ているでしょうか?

小泉政権、安倍政権こそリベラル政治の真骨頂

では、日本にはリベラルがないのでしょうか?ここでようやくタイトルに戻ってきます。そう、寧ろ自民こそが、右翼だ保守だと言われている政治家こそが、(思想はさておき)極めてリベラルな政治を行っているのです。

小泉純一郎元首相と言えば、なんといっても「郵政民営化」でしょう。保守的思想に基づき、過去の伝統を重んじるのであれば、国営化された郵政事業を改革する必要はありません。ですが、小泉首相は民営化により自由競争を促し、経済を活性化させようとしました。自由を重んじ、競争を起こし、経済が発展する。この流れ、新自由主義とされましたが、その根底はリベラル思想です。

安倍さんのアベノミクスも然りです。現在、彼らの後継として左翼からは目の敵にされている高市さんですが、彼女も経済に明るいため、サナエノミクスとも言われる経済活性化策を積極的に打ち出すでしょう。もし、高市さんが完全な保守主義者なら、極論を言えばトヨタをはじめとした日本のトップ企業をすべて国営化し、国の力を極大化させるでしょう。そうではなく、自由を標榜し、競争をあおり、結果として経済を発展させる。リベラルそのものと言えるのです。

奇妙なねじれ減少が野党弱体化の一

民主党政権崩壊以降、自公連立政権が長らく続いています。安倍長期政権のように、政治の安定化やそれに伴う国際社会の評価という意味ではとてもメリットのある体制ですが、一方で政治の緊張感という意味ではどうしても良くない方向へ行ってしまいがちです(モリカケ問題等はもしかしたらそういう油断が招いたのかもしれません)。いずれにせよ、理想的にはいつでも取って代わる可能性のある対抗勢力があることが望ましいのですが、なかなか今の野党では難しいでしょう。おそらく、この後の衆院選も自民が安定勝利を収めると思っています(まだ2021/9/9ですが)。

政党はポジショニングです。与党がここにポジションを取っているのに対し、隙間となるここにポジショニングする。そうすることで、与党に不満のある層を取り込めるのです。

ですが、上述の通り、「右」「保守」と思われている自民党が実際のポジションは「中道右派~左派」「リベラル」というところで政治を行っています。公明党は、さらに左にずらしたイメージ。このポジションこそ、本来リベラルを標榜する立憲民主党あたりが取りたいポジションなのです。

枝野さんは本当は保守

立憲民主党の枝野代表はネット上の評判は芳しくなく、「左翼」の烙印を押されていますが、元々改憲派ですし、どちらかと言うと中道右派くらいの立ち位置の方です。ですが、自民に押される形で、また、支援団体の影響でどんどん左側にシフトしていっています。これが枝野さんを低迷させる根本原因です。つまり、枝野さんも立憲民主党も、最適なポジションが自民党に奪われているのです。

中道左派な自民への対抗馬としての中道右派政党待望論

僕の見立てですと、自民はもはやリベラル、中道左派であり、今の時代極論は流行らないため極右、極左に立場はない、そうなると中道右派的なポジションを野党は狙うしかないと考えています。その意味で、色々課題はありますが、維新は対抗馬になるかもしれません。または、国民民主党も可能性があります。少なくとも、立憲民主、社民、共産あたりは増えても微増程度で政権を脅かす存在にはなりえないでしょう。

しかし、逆に言えば、自民党のこの巧みなポジションチェンジ(ずらし)は見事です。55年体制以降、発足時の理念に自主憲法制定を掲げました。ですが、なかなか改憲への警戒感が強い中で、1960年の池田勇人政権以降「在任中は改憲せず」路線を継承します。ここがまず最初のポジションチェンジ。憲法改正は極めて重要なテーマなので、この時点で少なくとも右の政党では無くなったわけです。今もそうですが、結果的に右から左まで、保守から革新まで色んな思想が集まる集団となりました。なので、思想的には保守でも、政策的にリベラルなことができるようになったのです。ほぼ、野党の入る余地がなくなってしまった。

ところが、面白いのがそういう中で民主党政権が生まれる訳です。実はこの自民党の巧みなポジションチェンジは、今でこそ絶妙のバランスにありますが、それまでは極めて不安定でした。横に広がり過ぎて軸を失ってしまった。そこで政権交代が起こる訳ですが、野党となった自民党は改めてアイデンティティを取り戻した。一方、与党となった民主党はご案内の通りで結果を残せなかった。

民主党政権の失敗により、日本にとっては残念なことがおこります。それは事実上二大政党制が困難になり、結果として自民党が野党的な立ち位置も補完してしまったのです(石破さん等)。これは自民にとっては良いかもしれませんが、日本にとっては決して望ましい形ではありません。政治の緊張感には常に質の高い野党が不可欠です。残念ながら、今の日本にはそれが期待できない状況です。

では、質の高い野党となり得る、野党第一党となるのはどこなのか?現時点までの議席数で言えば立憲民主党ですが、残念ながら立憲民主党は質の高い野党にはなれません。なぜなら、上述のように立憲民主党は自民党に押し出される形で左傾化してしまったからです。リベラルは今の世の中にも求められますが、左翼は求められていません。

そうするとどこがいいか。私は国民民主党や日本維新の会のポジションが面白いのでは?と思っています。彼らはほぼ自民党と重なるポジションに居ながら、是々非々で議論をしています。例えば改憲議論を進めることには自民党に賛同しています。こうして、自民党と重なりつつも、各論の中で自民との違いを打ち出し、より魅力的な政策を打ち出していく。そういった取り組みこそ、野党第一党に求められているように感じます。

【これより新たに11月16日に書き足し】

我ながらなかなか良い読みですね(笑)実際、先の衆院選で自民は絶対安定多数、立憲が大きく議席を減らし、その分を維新が獲得した形となりました。私の選挙前の予想は立憲が大きく議席を減らし、それが自民に流れる(選挙前より増えるのでは?)と思っていましたが、さすがにそれはなかったようです。立憲が失った議席がどこに行くのか?が焦点でしたが、世論は自民の対抗勢力を求めていて、それが維新の躍進に繋がったと。また、国民民主も堅調な結果となりました。この2党が野党勢力の中心となっていくでしょう。自民を事実上の中道左派とすれば(異論もあると思います)、この2党は中道右派の立ち位置で、各論での政策論争をどんどん仕掛けていって欲しいと思います。

維新、国民民主の弱み

ただし、この2党も自民の対抗勢力、それこそ政権交代を目指すにはまだまだ課題も山積です。

まず、維新についてはやはり議員の質の更なる強化でしょう。吉村さんはじめ、非常に優れた方もいらっしゃいますが、まだ点の状態。自民のような線や面、立体にはなっていないと思います。特に、ちらほらと知名度だけで参画しているような方も見受けられます。今は違いますが、新潟で議席を獲得した米山元新潟県知事も、元は維新所属でした。氏のご発言を聞く限り、全く維新と相容れない方ですし、だからこそ離れたと思われますが、そもそも、こういった人が所属していること自体が、維新の脇の甘さと感じます。数が必要なのも当然ですが、是非今の維新の考えを推進できるような人にきてもらって(それこそ自民からの引き抜き等も含めて)、対抗勢力としての質を充実させていただきたいと思います。

国民民主については、現時点では非常に質の高い政党になっていると思います。ただ、いかんせん数が圧倒的に足りない。こちらは質の向上ではなく、質は維持しつつ、数を増やす戦略。立憲の中でも右や左に動く方ではなく、しっかりと政策論争ができる方はまだまだ多いと思います。そのあたりの切り崩しができるかどうか。ただ、この状況で逃げてくるという時点で少し警戒すべきですので、なかなか数集めは難しいと感じます。

それでも求められ続ける2大政党制

かなり長くなってしまいましたが、まとめです。かつて小沢さんが仰った通り、小選挙区制は2大政党制のためのルールです。ですので、野党第一党の存在が大変重要です。今回の衆院選で、「共産党と組む立憲民主党」に対して、国民はノーを突き付けました。その代わりに台頭してきた維新、国民民主もまだまだ勢力としては小さく、大幅に増やした維新ですら立憲の半分以下です。おそらく、この後は維新、国民民主を軸とした野党再編が進むでしょうし、自民党へのプレッシャーという意味でも、是非強い野党第一党が出てきて欲しいと思います。

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