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高校生のための映像講座(2)ストーリーボードを描くコツ

絵コンテの英語訳が storyboard なので、本来「絵コンテ」と「ストーリーボード」は同じものです。しかし、絵コンテはカット(映像の最小単位・編集された断片)ごとに描かれるのが基本であり、ストーリーボードはその制約に従わない場合があります。

特に日本では、ゲーム開発の現場やネットのサービス開発においてもストーリーボードを活用するケースが増えています。総じて、長い物語を細かく刻まず、おおまかな流れがわかる(=要約された)紙芝居にしたものがストーリーボードだ、といっていいでしょう。

ストーリーボードサンプル_ドローン

また、映像作品を仕上げる際、絵コンテよりも視覚的に豊かな(より詳細に描き込まれた)「イメージボード」を準備することがあります。特に映画やゲームを制作する場合は、コンセプトアーティストによって何十枚もイメージボードが描かれます。本項ではそういったイメージボードに近いものとして、ストーリーボードを扱うことにします。つまり絵コンテよりも細かく描き込まれ、絵としての完成度を高めたもの(の集まり)=ストーリーボードとみなします。

【1】ストーリーボードが必要になる場合


いろんな職業において、例え話としての「物語」が必要になる場合があります。たとえば自動車教習所において、「免許をとりたての人が、交通事故を起こさないようにするための動画」を作る場合。学校の先生のような方が映像に登場し、注意点をくどくど説明するという動画を作ることもできますが、俳優たちのお芝居で、交通事故を起こす架空の物語(ドラマ)を作るのも大変効果的です。登場する人物たちが覚える恐怖心などが映像を通じて視聴者に伝わりやすく、「私も気をつけなきゃ」という気分にさせるわけです。

そんな映像を制作する際、登場人物や被害者は老人にすべきか、あるいは若者か、事故現場は田舎か都会か、起きたのは昼か夜か……といった内容を検討しますが、その場合、脚本(台本)は不可欠ですが、ストーリーボードまで必要になることはほとんどありません。「都会の交差点」と文字で表現すれば、映像を作ろうとするスタッフ同士で、頭の中に浮かんだイメージがあまりズレないからです。

逆に、幻想的な場面を映像化したい場合、脚本(文字列)だけではスタッフ同士のイメージがうまく噛み合わないことがあります。こういうケースでは、脚本を練りつつイメージボード(ストーリーボード)を作成することが効果的です。

例えば、こんな物語を創作したとします。

人が間違った時代に飛ばされ、そこで記憶を失う現象——「彷徨い人」。
彼らを連れ戻す役割を担うティモたち「時告僧」は、時の神クローノの命に従い、時計型タイムマシンを背負って日々奮闘している。


こういった創作では、作者がよくわからない造語を連発することがあり、読まされる方はげんなりするものです。しかし、以下のようなイラストが1枚あれば印象は大きく変わるはずです。

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このイラストに、「第1幕:時を司る神クローノと、時の回廊から様々な時間へ出入りする時告僧たち……その一人である主人公ティモ」という説明をつけておけば、くどくど説明しなくても一発でイメージが伝わり、スタッフ同士でズレが生じなくなります。こういった絵の説明文を「キャプション」と呼びます。

【2】ストーリーボードを作るコツ


物語の構造に「3幕構成」という形式があることは、よく知られています。「幕」というのは舞台の幕のことで、ストーリーを3部に分けて第1幕・第2幕・第3幕から成るお芝居を作り、それぞれで「設定」「対立」「解決」を展開してみせます。

一幕目の「設定」では登場人物の関係や住環境、職業など、いわゆる世界観を表現します。二幕目の「対立」では主人公たちが何らかのトラブルに巻き込まれ、敵や災害などと葛藤し、三幕目の「解決」ではそれらの問題が収束へと向かいます。

ストーリーボードを作る、つまり「紙芝居のスタイルで長い物語を要約する」場合、全体が3幕構成になっているのであれば、各々1幕ずつを視覚化してやれば、たった3枚の絵で全体を表現することが可能になります。3幕構成は世界的にスタンダードな考え方であり、ストーリーボードは最低3枚以上で構成することを念頭に置きましょう。

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また、全体を通じた話の流れを「あらすじ(要約された文章)」として表現しておきます。その際、対立が解決している=ストーリーが完結していることはとても大事です。壮大でワクワクする物語を語り始めておきながら、ラストが未完では相手をがっかりさせてしまうので、気をつけたいところです。

【3】よいストーリーボードとは


これは映像全般にいえることですが、場面を視覚化する際、普段とは違った視点で物事をとらえるように心がけてください。具体的には「アオリ(煽り)」と「フカン(俯瞰)」が大事です。

港町を舞台とする映画を考えるのであれば、船がたくさん係留されている雰囲気が必要です。しかし、波止場に人間が立って水平に見渡すだけだと、手前にある船が数隻みえるだけで、その向こう側に並ぶ船ははっきり見えません。こういう場合、人間よりも遥かに高く空を飛ぶ鳥が見下ろすような視点=フカン(俯瞰)で描かれたストーリーボードが不可欠です。

逆に、巨大な敵を倒そうと団結するヒーローを表現したいなら、ヒーローの目線からみた世界を水平に描いてはいけません。かならずヒーローよりも低い、地面に近い視点から角度をつけて見上げる=アオリ(煽り)で描き、ヒーローの大きさと、それを遥かに凌駕する敵のスケールを表す努力をしましょう。

以下はストーリーボードの実例です。物語のラストで主人公が巨大な敵と対峙しており、アオリが効果的です。

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第3幕:時の神クローノの邪悪な正体を封印すべく、懐に小瓶を忍ばせて決戦に挑むティモ。」

また、以下の絵では水平線をやや左下へ傾け、混乱や緊張を表現しています。あえて主人公にひざまづかせ、視点を地面に近づけることで、困惑ぶりや卑屈な感情が強調されています。

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「第2幕:乱暴な彷徨い人に背時計を壊され、途方に暮れるティモ。」

このように、視点次第でムードを劇的に高めることが可能になります。ストーリーボードを作成する際は、アングルに創意工夫を凝らしましょう!

姉妹編「絵コンテを描くコツ」はこちら


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