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リクエスト


むかし今よりさらに郊外に住んでいて、都内に通っていたころ、同じ電車に1時間近く乗っていることになるので、通勤の行き帰りではぜったいに座って寝ることにしていた。
そのために朝は20分早く家を出て、当駅始発の各駅停車に乗っていたし、帰りも始発駅から一本見送って、並んで座っていたくらい。

残業があって、遅い帰りだったと思うが、いつものように帰りの座席を確保できて、やれやれとひと眠りしようと思ったら、となりに座ったおじさんが、どこで降りますか?と聞いてきた。
今ならば警戒すると思うけれど、当時まだ素直さが残っていたのか、訝しく思いながらも〇〇〇ですと答えたところ、あ、じゃあ悪いんですけど、あなたが降りる時に起こしてくれませんかと言う。ぼくその次の次で降りるので。と言ったとたんにもうガクンと首が下がって寝始めてしまった。

えええ?なにそれ?見ず知らずのひとにそーゆーこと頼むフツー?

そうは言っても、すでに熟睡の域に入ってるおじさんを起こして断ることはできず。
普段はぐっすり眠っている気がしても、不思議と自分の駅になると目が覚めるものだが、このときは気がつかなかったらどうしようと緊張してしまい、なかなか寝れずに電車に揺られていた。

そして、ああもう少しで降りる駅に着いちゃうなあとどこかで思いながら、少しウトウトしたとき、おじさんが突如立ち上がり、ばばばば!とものすごい勢いで外に飛び出した。

次の瞬間、発車のベルが鳴り、アナウンス。
ドア、閉まります。プシュー。

え?なんで?なんで今降りる?

キョロキョロしていたおじさんが状況を理解したのか、あっけにとられて口をあんぐりしているわたしに向かって、ドアの外から手を合わせ、ゴメン!と言っている。

おかげで完全に目が覚めたわたしは、ちゃんと自分の駅で降りられたのだった。



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