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北の果て

此処はいつだって冬で、白と青色が総てを支配する、針葉樹だけが背高く茂って、その葉は凍ってきらきらと美しひ、私は一枝手折って花瓶に飾る、慰み、近くには高ひ崖が在る、その下には氷河がゆらめいて居る、年に何人かが遠く此処までやって来て、飛び降りる、屍は漂ひ沈んでゆく、綺麗なお伽噺、海へ水を汲みに往く、それはたれかが死んだ水だ、私はそれをスウプにして朧げに弔ふ、こんな北の果てまで来るなんて、寂しひ事ね、狭ひ小屋は暖かひ、けれど外に出れば痛い程寒ひ、私が此処に来てもう随分長ひ歳月が過ぎた、一日の区切りすら判らなひけれど、鈴の音が聞こへる、りり、たれも居なひ筈なのに、冷えた空気の割れる音かしら、夢の中、思ひ出す事も無ひ、私は孤独の刑に処されて此処へ来た、北の果て、愁しひ場処、太陽は薄ぼんやりとして居る、独りきり、けれどそれさへも美しひ、私はいつか氷河に身を投げるたろう、寒ひさむひ冬の日に、白と青色の最果て、北の海へ。

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(2017年以前の詩)

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