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本当の星の話

 モン氏は帰路についていた。月は細く、不安になる。三億光年の旅がやっと終わったというのに。
 モン氏の帽子はボロボロになって、足は痛いが、家に帰るのだ!三億光年と二歳になった鼠が待っていてくれる筈だ。モン氏はそれを考えると目を細めた。
 この長い間、ずっと本当の星を探していた。
 それはモン氏がかつて生活をしていた、この青い月が上る惑星でもなく、どんな美しい星々でもなく、流星群でも、小惑星群でもなかった。
 ある日勤めていた此銀河歴史研究所の所長から、モン氏は妙な呼び出しを受けた。
「君は皆既月蝕の生まれだったね。」
「はい。覚えてはいませんが、勿論。」
モン氏の胸がざわざわした。この珍しい生誕日のせいで、こんな仕事をしているくらいなんだから---
「星。一番初めの、本当の星を見てきてくれ。」
所長はもさもさとした顔を揺らした。モン氏は礼儀正しく立ったままだった。
「はあ、僕に出来るでしょうか?」
「知らん。」
モン氏は嫌になった。そして途方に暮れた。行かなくてはならなかった、その星を探す旅に。
 一週間ゆとりが与えられた。モン氏は新しい鞄と言うブウツと帽子を準備した。なんとなく旅らしいことをすれば、気持ちが上がる気がしたのだ。
 モン氏は憂鬱なままだった。ペットの鼠は二歳の可愛い時期、この惑星も家も快適だ。何故僕がそんな当て所のないことを?
 皆既月蝕なんてさ。月なんてずっと三日月で良いんだ。モン氏は石を蹴ろうとして転びかけながら思った。
 その日が来た。一人乗りの宇宙探査機が発着場に準備され、此銀河歴史研究所の顔ぶれは皆んな揃っていた。
 モン氏はなんだか腹が立っていたので、では、の一言で探査機のカバアを閉めてしまった。
 いざ出発。煙など出ない最新式だ。
最初は木星に行くんだ、イオを近くで見たいからね---
 モン氏の旅はこうして始まり、三億光年続くこととなった。
 本当の星が見つかったかって?
「それがさ。僕は数秒だけそれに触れたんだよ、とても静かに発光していて、何より美しいと思えて、今にも失くなりそうだった。そして本当に壊れてしまった。それが星さ。」
 モン氏は鼠に話していた。それだけで充分伝わるのだ。
 ベッドで眠りについたモン氏は、三億光年ぶりに涎を垂らしながら穏やかに夜を過ごした。隣で鼠も、ね。

おたすけくださひな。