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【絵本レビュー】 『とんことり』

作者:筒井頼子
絵:林明子
出版社:福音館書店
発行日:1989年2月

『とんことり』のあらすじ:


山の見える町に引っ越してきたばかりのかなえ。お父さん、お母さんと荷物の整理をしていると、「とんことり」。玄関の方で小さな小さな音がしました。かなえが玄関に行ってみると、そこにはすみれの花束が落ちています。次の日は、たんぽぽが3本、その次の日は、手紙が郵便受けに入っています。だれからでしょう?ふしぎな「郵便物」をめぐって、新しいお友だちとの出会いを描いた絵本です。

『とんことり』を読んだ感想:

今となってはウキウキする引っ越しですが、子供の時の引越しは本当にそれっきり合わない別れだったように思います。特に私が子供の時はSNSなんてありませんから、「遠くに引っ越す」の「遠く」は本当にはるかかなたのように感じました。

うちの父は自営業だったにもかかわらずやたら引越しが多く、18歳になるまでに7回は引越しをしました。小学校入学直前に引越しをした時のことです。両親が引越し業者に運び込む荷物の指示をしている間、私はぼんやりと家の周りをぶらぶらしていました。家の後ろには二階建てのアパートがあり、横は小さな工場で機械の動く音がブンブンと聞こえていました。一人裏のアパートへ行く路地に立っていると、二人の女の子たちがやってきました。二人とも制服を着ています。一人は細くふわりとしたおかっぱ頭で、大きな目をしていました。もう一人はまだ小さくて恥ずかしそうにもう一人の女の子にくっついています。二人は私をじっと見つめながら、路地を入って来ます。「裏のアパートに住んでいるのかな」と思っていたら、するりと工場へ入っていきました。「行っちゃった」」と思ってまたぼんやりしそうになった時、二人がランドセルも手提げ袋もなしで出て来ました。二人は最初、私を遠目で見ながら路地の奥で遊んでいましたが、だんだん近づいて来て言ったんです。「何年生?」

これが私たちの友情関係の始まりです。その3年私たちはまた引っ越してしまい、その姉妹とはそれっきりになってしまいました。何十年も経って帰国した時その場所を訪れて見ましたが、工場はおしゃれなポップコーン屋に変わっていました。私たちが住んでいた家はまだあって、私は6歳の女の子に戻っていましたが、あの姉妹はもう一緒に遊びには来てくれませんでした。


『とんことり』の作者紹介:


筒井頼子
1945年東京生まれ。埼玉県立浦和西高校卒業。林明子とのコンビで「はじめてのおつかい」「あさえとちいさいいもうと」「いもうとのにゅういん」「おでかけのまえに」「おいていかないで」(以上福音館書店刊)などの作品がある。


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