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【絵本レビュー】 『やまんばのにしき』

作者:まつたにみよこ
絵:せがわやすお
出版社:ポプラ社
発行日:1967年5月

『やまんばのにしき』のあらすじ:

「ちょうふくやまのやまんばがこどもうんだで、もちついてこう。」
ある夜、村の空に大きな声が響きわたった。そこで村じゅう集まって、大さわぎで餅をついたが、届ける者がいない。相談のすえ、力自慢の若者ふたりと、ばあさまひとりがいくことになった。ところが、若者ふたりは途中でこわくなって逃げてしまい、残ったのはばあさまひとりきり。ようようのことで、やまんばのうちにたどりついたが・・・。

『やまんばのにしき』を読んだ感想:

秋田県の伝説をもとにして描かれたお話なのだそうです。おばあさんの勇気や腰抜けな威張りやなどの生き生きと描かれた登場人物はもちろんですが、何より新鮮だったのはやまんばです。日本の昔話でやまんばといえば、年取ったおばあさんで、いつも人を食おうとしているものが多いので、てっきりそんなやまんばを想像していましたが、赤子を生むほど若いやまんばとはちょっと驚きでした。

言われている印象と実際の人物像が違うということはよくあることですよね。

大学を卒業し、海外へ行くことだけを考えて働いていた私は、楽しかった企業新聞社を辞めて派遣会社に登録することにしました。時給が良かったので、日本を出る日が早まるという単純な理由でした。派遣されたのは大手の会社で私はデータ入力担当になりました。大手の会社ということで、臆病な私はかなりビビっていたのですが、中は小さな部署に分かれていて、私たちは十人ほどの小さなチームでした。私と一緒にもう一人女性が派遣されていました。チームは部長と副部長以外全員女性で、どの女性社員もピリピリした感じが溢れ出ていました。

食事の時間になると社員と派遣はきっちり分かれ、私たち派遣はいつも地下の食堂でお弁当を食べました。大抵は古株の派遣の人たちから社員の噂話を聞いてランチタイムが終了となるのですが、私はだんだんそれにも飽きてきました。派遣の人たちはどうやら社員の人たちが怖いようでした。一人の若い派遣の人は、「怖いから残業も断ったことがない」ということで、社員から「もう帰りなさい」と言われるまでいつも残っていると話してくれました。私は同情を寄せながら「これはいかん」と思っていました。

社内では、私は新入りということで社員のチームリーダーの隣に座っていました。派遣の人から聞いた話では、彼女は派遣に冷たいということでした。「冷たい氷も暑けりゃ溶ける」と言い聞かせ、私はその人に毎日挨拶をし、普通に接しました。もちろんピリピリしている様子が感じられる日もありましたが、私はいたって普通に対応をしていました。

そうしたら、なんてことはない、その人もただの人だったんです。その後何度か一緒にランチをするようになったのですが、彼女は派遣は短期間でいなくなるのであまり感情的に付き合えないと話してくれました。だからあまり関わらないようにしたいと。せっかく仲良くなっても、すぐにいなくなってしまったら誰だって悲しいですよね。もっともな話だと思いました。部長との問題、仕事への不満、外反母趾の話などいろいろ聞いて、私も派遣を辞めてしまいました。それからしばらくは連絡を取り合っていたけれど、海外で引越しを繰り返すうちに連絡先も無くしてしまいました。

やまんばだって人の子、ですよね。


『やまんばのにしき』の作者紹介:

まつたにみよこ
1926年、東京生まれ。坪田譲治に師事。 1951年『貝になった子供』を出版、第1回児童文学者協会新人賞を受賞。以後、『ちいさいモモちゃん』(野間児童文芸賞)、『龍の子太郎』(国際アンデルセン賞優良賞)など、多数の著作がある。松谷みよ子民話研究室主宰。


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