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【絵本レビュー】 『たまごのはなし』

作者:ダイアナ・アストン
絵:シルビア・ロング
:千葉茂樹
出版社:ほるぷ出版
発行日:2007年5月

『たまごのはなし』のあらすじ:

たまごはかしこい
たまごはおしゃれ
たまごはおとなしい
たまごは……ふしぎがいっぱい。

ひとくちにたまごと言っても、その形態はさまざま。きれいなたまご、やわらかいたまご、ほそながいたまご、袋のようなたまご……と、ちいさな命がつまったたまごには、生き物の知恵や不思議もいっぱいつまっています。


『たまごのはなし』を読んだ感想:

「絵が綺麗」というのがパッと見た印象です。印象です。図鑑っぽくもあるので、一人で眺めているだけでも楽しめるかもしれませんね。

二年前の春、いつものように朝ベランダに洗濯物を出していると、隣の家のベランダでいつものようにご近所さんがタバコを吸っていました。うちから隣のベランダまでは15mほど離れています。その上このお隣さんはとても静かな声で話します。道で会ったら、かなり背も高く恰幅のいい男性だったので、その小さな声とのギャップがちょっと可愛らしく感じられます。本人には内緒ですけどね。

さて、その日も物干しラックをベランダに出していると、お隣さんがモゴモゴと話しかけて来ました。聞き返すと、
「君のベランダに鳥が巣を作ったと思うんだよね」
と言うではないですか。びっくりする私に彼は、
「親鳥がね、出たり入ったりするの見たんだ。そのにある植木鉢の一つだと思う。」

それで私はベランダに立ち、耳を澄ましました。何も聞こえません。ベランダの隅に空っぽの大きな植木鉢があり、その上には水受け皿が少しの隙間を残して乗っていました。気をつけてそっとその皿をずらすと、なんとまあ綺麗な緑の草のベッドの上に八つの小さな卵が並んでいるではないですか。私は立ち上がってお隣さんに教えてあげました。うずらよりちょっと小さめの卵でしたが、一体どの鳥なんでしょう。

その日以来、私の鳥観察が始まりました。うちのベランダにはスズメや鳩も含め、何種類かの鳥が毎日やって来ます。私はガラス戸を閉めて、部屋の中からしばらく眺めていました。

来ました!
一羽の小鳥がベランダの手すりに舞い降り、用心深く首を傾げながら周りを見ています。大丈夫そうだと思ったのか、今度は植木鉢の淵に降り立ちました。もう一度素早く周囲を見回し、するりの中に入っていくではないですか。シジュウカラでした。あんな小さな身体から、どうやったら八つもの卵が出て来たんでしょう。同じ母として、お母さん鳥に拍手を送りました。

ベランダの餌を目当てにやってくるスズメたちの間をすり抜け、それからの親鳥たちは忙しそうでした。時々山鳩が来て手すりに止まり、植木鉢から聞こえてくる声を興味深そうに聞いていましたが、私が扉を開けると面倒臭そうに飛び去って行きました。

数日経った朝ベランダに立つと、「ピピピピピ」かすかな声が聞こえます。私はまた受け皿をずらしてみました。四羽の毛のない小鳥たちが大きな口を開けて泣き始めました。残念ながら卵は半分しか孵化しなかったようです。それからも植木鉢の中から元気な声が聞こえ、シジュウカラが出入りしているのも時々見られました。

また数日が経ち、親がいないことを確認してからのぞいてみるとポワポワの毛をした四羽がぴったりくっついて座っていました。いい感じで育っています。ところがそれからさらに数日後には、三羽だけが私の方を見て口を開け、兄弟たちからちょっと離れたところに、一羽が横たわっていました。どうやら生き延びられなかったようです。でも私はその死んでしまった鳥が腐敗していく様子を見たくはなかったので、一週間ほど覗かないで耳だけすまして、小鳥たちの無事を確認していました。

小鳥たちの声は力強さを増して大きくなり、ガラス戸の中からでも声が聞こえるくらいになりました。久しぶりに様子を見ようと受け皿をそっと上げると、なんと二羽なっているではないですか。もうほぼ親鳥たちと同じくらいで、今にも飛べそうな様子でした。巣立ちも近いのかなと思っていたその日、台所に水を鳥に来たついでにベランダを見ると、一羽の子どもらしい体つきをしたシジュウカラが植木鉢の淵に立ち、ベランダの外を見つめています。あっと思ったその瞬間、その子供は転がるようにベランダの柵の間から落ちて行きました。柵を通る瞬間羽を数回バタバタさせましたが、私が見る限り、下に落下したようでした。急いで戸を開けて下をのぞいて見ましたが、四階からは裏庭にいる小鳥は見えませんでした。無事に飛び立ったのだと思いたいです。

さて、残された一羽ですが、声も聞こえるし、親鳥も一日に何回かやって来ているので、まだ元気なようです。これもすぐ飛び立つだろうと思っていました。翌日も親鳥が来ましたが、その日はいつもと様子が違います。親鳥はベランダの手すりに立ち、大きな声で植木鉢に呼びかけています。植木鉢からはそれに応えるように、ピピピピという声が聞こえました。しばらく続いていましたが、親鳥はプイッと飛んで行ってしまいました。それ以来親鳥は来なくなってしまいました。そのあと数日、私は子鳥が出て来たところも見なかったので、きっと見過ごしてしまったと思ったのです。巣も片さなくちゃと思って受け皿を外すと、緑の草のベッドの上に子供のシジュウカラが横たわっていました。その色のコントラストと静かに眠るように横たわる小鳥の姿はまるで絵画のようで、何か神々しいものすら感じられました。

当時私の父は容体が悪化し、食事もとらず点滴だけで最期が来るのを待っている状態でした。いずれは息子におじいちゃんがいなくなったことを話さなくてはなりません。この小鳥はいいきっかけになると思ったので、私は息子が幼稚園から帰って来るのを待つことにしました。息子にもまだ小鳥たちが小さかった時一度見せたこともあるし、二人で何回もその声を聞いていたので、いることは知っていました。

帰宅後にベランダに行って、二人で死んでしまった小鳥を見ました。
「ねてるねえ」という息子に、
「そうだね。でももうずっと起きないんだよ」と言うと、不思議そうな顔をしました。それでもその小鳥を土に返してあげようと、ティッシュにくるみ、裏庭に持って行きました。それから穴を掘って埋めて、息子にも土をかけさせました。そのあと石を数個積んで、持って来た線香を三本立てて、旦那と三人でシジュウカラにお別れをしました。

死ぬと言う観念は、当時二歳の息子にはまだちょっと難しかったかもしれませんが、その後父が亡くなった時にも「あの小鳥みたいに土に返ったんだよ」と言ったら納得してくれました。四歳になった今も言います、
「おじいちゃんはトリさんみたいにずっとねてるんだよね」

『たまごのはなし』の作者紹介:

ダイアナ・アストンDianna Aston
1964年、アメリカのテキサス生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻。1996年から子どもの本を書きはじめる。現在は、執筆のかたわらNPO団体“オズ・プロジェクト”をメキシコの子供達のために立ち上げ、子どもたちを気球に乗せるなど、感動的な体験を提供する活動をしている。

 
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