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【絵本レビュー】 『となりのせきのますだくん』

作者/絵:武田美穂
出版社:ポプラ社
発行日:1991年11月


『となりのせきのますだくん』のあらすじ:


朝おきると、学校にいきたくない。ずるやすみをしたい。きのう、となりのせきのますだくんとけんかをしたから……。


『となりのせきのますだくん』を読んだ感想:


小学校生活ってなかなかの戦いだったと今振り返ると思う。小学校生活に比べたら、中学高校なんて簡単カッパの屁(母の口癖)だった。小学校を卒業した時は、「生き延びた」そんな感じがした。私には特定のますだくんはいなかったけど、ここから入っちゃダメと言って机と机の間に下敷きを挟んだりとか、こんな簡単な計算もできないのかとクラス中の前で大声で笑うとか、誰にとっても日々戦い。今考えるといじめだったんじゃないかと思うような言動も聞かれた。誰もがますだくんに出会っていたり、ますだくんになっていたことがあるような気がする。

小学校で誰かが誰かを好きだったりすると、「〇〇がお前のこと好きだってさ〜」と怒鳴る子がいる。そういえば男子は好きな女の子に意地悪だった気もする。そんな中いつも優しいことを言ってくる男子がいた。事あるごとに「〇〇ってさ、字がきれいだよね」とか「本読むの上手だよね」とか。悪い気はしなかったけど、その子はクラス一のおデブ君で、よくいるクラスの花形ではない。私はそんなに嬉しかったという覚えもないけど、時々遊びの誘いが来たりして、その子の家に行ったりもした。両親がスーパーをしていて忙しく、彼は四人兄弟の一番上。小さな妹を気遣って世話する姿が学校にいるデブキャラで笑われている姿とあまりにも違ってショックを受けたのを覚えている。そんな彼がある日遊びの誘いで電話をかけて来た時、「今さ、あることを言って電話切ったらびっくりする?」というではないですか。私は全くおませではなかったので、「急に切ったらそりゃあびっくりするだろうね」というような全く興ざめな返事をしたのでしたが、何度か問答を繰り返した後、彼も私の鈍さに気づいたのか「俺ね〇〇のこと好きだからね」というではありませんか。トロい私は全く予想外の告白にしばし口を開けてぼんやりしていたのですが、なんと返事をしたのかは覚えていません。ただ、彼は私の全く圏外にいたので、当時子供達が言っていた「好き同士」にはならなかったのです。でも彼の態度は変わることもなく、大人になっても彼はいつでも褒めてくれる。今でも彼の素直な告白を忘れることはないし、歳を重ねるごとに感謝の念が強くなっていくようにも感じられるのです。ますだくんも、本当は優しい言葉をかけてあげたかったんだよね。


『となりのせきのますだくん』の作者紹介:


武田美穂
1959年、東京生まれ。絵本に『となりのせきのますだくん』(絵本にっぽん賞、講談社出版文化賞・絵本賞受賞)に始まる「ますだくん」シリーズ、『ふしぎのおうちはドキドキなのだ』(絵本にっぽん賞)、『すみっこのおばけ』(日本絵本賞、読者賞、けんぶち絵本賞グランプリ・以上ポプラ社)、『ありんこぐんだんわはははははは』、『こわいどん』、『かげ』(以上理論社)など。挿絵に「にんきもの」シリーズ(童心社)、「ざわざわ森のがんこちゃん」シリーズ(講談社)、「カボちゃん」シリーズ(理論社)、「こぶたのぶうぶ」シリーズ(教育画劇)、『我輩は猫である』(ほるぷ出版)、などがある。


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