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【絵本レビュー】 『いやいやえん』

作者:中川李枝子
絵:大村百合子
出版社:福音館書店
発行日:1962年12月

『いやいやえん』のあらすじ:

元気だけど、わがままできかんぼうの保育園児のしげるが主人公の童話集。しげるたちが積み木でつくった船でクジラをとりにでかけるお話など、全部で7つのお話がはいっています。「いやいやえん」とはいったどんな園なのでしょうか?

『いやいやえん』を読んだ感想:

急に自分が通っていた幼稚園のことが気になり、ネット検索をしました。数枚の写真がいくつかのブログに載っているのみで、どれも十年ほど前の古い情報でしたが、どうやらもう閉園しているということはわかりました。そんなブログの一つに書き込まれているコメントを読んでいるうちに、私はすっかり五歳のわたしに戻っていました。

幼稚園に通ったのは二年ほどだったと思います。年中さんの時は丸顔の優しい先生だったのに、年長さんになった時の先生は細長い顔が黒い長い髪の中に隠れている、ちょっと厳しい先生でした。特に厳しかったのは食事時で、好き嫌いをせずに全部食べる、という決まりがありました。お昼になると瓶に入った牛乳が一人一人に配られ、だるまストーブの上で温められたお弁当をみんなで食べますが、先生も毎日席を移動して子供たちと一緒に食べるのです。それが少食だった私にはすごくプレッシャーで、お弁当の時間が大嫌いでした。食べなくちゃいけないと思うと、余計に食べられなくなるのです。

それで私はお弁当を持っていかないことにしました。父親に頼んで、牛乳も飲まなくていいようにしてもらいました。そもそも私は牛乳が嫌いだったので、ひと瓶まるまる飲むのはとても辛かったのです。先生は何も言わなかったので、私はみんなが食べている間何も食べずに一緒に座っていました。

でも先生は密かにずっと私を観察していたんでしょうね。ある日私は牛乳だけ飲むことに決めたんです。それで帰りの時間が終わった後、先生のところに行って耳打ちしました。
「明日から牛乳だけ飲むよ」
その時の先生の顔は今も忘れられません。パッと顔が輝き、私のことをぎゅーっと抱きしめたのです。私はちょっとびっくりしましたが、先生が喜んでいるのが感じられてとても嬉しかったことを覚えています。

今は幼稚園として使われなくなった建物の写真を見ながら、寒かった体育館のこと、一日に三回もしたお祈りのこと、お肉の嫌いだったお肉屋さんの男の子のことやちょっと憧れていた男の子のことなどを思い出した夜でした。

『いやいやえん』の作者紹介:

中川李枝子
作家。1935年札幌生まれ。東京都立高等保母学院卒業後、「みどり保育園」の主任保母になる。72年まで17年間勤めた。62年に出版した『いやいやえん』で厚生大臣賞、NHK児童文学奨励賞、サンケイ児童出版文化賞、野間児童文芸賞推奨作品賞を受賞。翌年『ぐりとぐら』刊行。『子犬のロクがやってきた』で毎日出版文化賞受賞。主な著書に絵本『ぐりとぐら』シリーズ、『そらいろのたね』『ももいろのきりん』、童話『かえるのエルタ』、エッセイ『絵本と私』『本・子ども・絵本』。映画「となりのトトロ」の楽曲「さんぽ」の作詞でも知られる。2013年菊池寛賞受賞。『ぐりとぐら』は現在まで10カ国語に翻訳されている。



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