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【絵本レビュー】 『あけるな』

作者:谷川俊太郎
絵:安野光雅
出版社:復刊ドットコム
発行日:2006年12月

『あけるな』のあらすじ:


「あけるな」と書かれた扉が描かれたページをめくっていくと、綺麗で不思議な世界が予想外に広がっていきます。ただ美しいだけでなく、ちょっと怖い感じもまた魅力。
ラストの意外性には心が洗われます

『あけるな』を読んだ感想:

「あけるな」と言われると開けたくなるし、「おすな」と言われると押したくなる。これが人間の心情というやつです。

子供の頃、私はテレビを見せてもらえませんでした。うちにはいわゆるテレビはなく、モニターに何台ものビデオが繋がっていました。テレビをつけるには、7台あるビデオデッキの一つにつながなくてはなりません。いくつかの決まった番組は見せてもらえたのですが、見る時間になると父親が配線を変えてテレビにします。私はただこたつに座ってぼんやりと父の準備を待つのが常でしたが、実際は「ぼんやり」していたわけではありません。こたつの反対側から、どのコードをどこへつなげているのがしっかり見ていたのです。

父は家で働いていましたが、週に幾度かは車でスーパーへ買い出しに行きました。小学生の私は家で待つことが多かったのですが、この時がチャンス。同級生が見ているようなテレビ番組を見たいと思い、父が忘れ物をして戻って来ないくらいの時間を空けてから、さあ私の配線力を試す時です。配線が済んだら、リモコンを探さなくてはなりません。リモコンは、棚の一番上にあることは知っていたので、近くのテーブルに乗ってリモコンを取り出しました。そうやって見るテレビは、内容はともかくとてもドキドキして楽しさも増したものでした。

そしてある日いつものようにテレビを見ていると、家の門あたりで音がしたので、慌ててテレビを消し、リモコンを戻そうとテーブルに乗って立ち上がった瞬間、ゴチンと目の脇に激痛がしました。戸棚の扉を開けっ放しにしておいたことをすっかり忘れ、立ち上がった瞬間こめかみに扉の門がぶつかったのです。「いたっ!」と思いましたが、テレビを見ていたことがバレるといけないので泣きもせずリモコンをしまい、配線も戻しました。

結局その物音は父ではなかったのですが、私はこめかみの痛さと見つかりそうになったドキドキ感で、しばらく椅子に座ったままじっとしていました。やがて帰ってきた父にこめかみの傷を見つけられ、私は焦りまくり言葉が出ずにいると、「悪かったな。パパ戸棚の扉開けっ放しで出てったな」。「へっ?」と思った私でしたが、これは大チャンスです。何も言わず黙っておきました。やれやれ、するなと言われたことをするといろんな意味でハラハラしますね。

『あけるな』の作者紹介:

谷川俊太郎
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。

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