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【絵本レビュー】 『きもち』

作者:谷川俊太郎
絵:長新太
出版社:福音館書店
発行日:1978年3月

『きもち』のあらすじ:

友達からおもちゃをとりあげたときの気持ち、お母さんに会ったときの気持ち、捨て猫を見つけたときの気持ち、注射をされるときの気持ち、お父さんとお母さんがけんかをしてるときの気持ち…子どもたちの生活の中で、生まれては消えていく様々な気持ちが描かれています。

『きもち』を読んだ感想:

気持ちを言葉にするのってとても難しいことだと思います。なんだかわからないけど胸のあたりがイガイガドヨドヨしているけれど、それを言葉にできなくて、でも実際何か引っかかるものがあるので、一日中むっつりした顔をしてしまう。

「どうしたの?」って聞かれると、「なんでもない」って答えてしまう。本当はそばに座っていて欲しいのに、「聞いてあげるよ」って言って欲しいのに、そんなことすら言えなくてまた一人思い胸を打ち明けるすべもなく座っている。

日本語には気持ちを表す言葉が146種類もあるんだそうです。私は一体その全部を知っているのだろうか。そして使っているのだろうか。答えは明らかに思えます。その言葉を聞いたら「知ってるよ」と言いそうですが、その感情の中に浸かっている時に私には言葉がありません。

最近うちの四歳児が友達と遊んだ時、喧嘩になってぶち合い蹴り合いになったんですね。帰り道、私は彼に怒っていたお友達の気持ちをわかってもらいたくて、
「〇〇くん、怒ってたね。なんで怒ってたかわかる?」
と聞いてみました。すると、
「うん、わかるよ。〇〇くんのハートがこわれてたの。だからかなしいんだよ。」
私は一瞬息子がただ、覚えたばかりの「ハート」という言葉を使いたいだけだったのか、それともわかって言っているのかわかりませんでした。ただ、そのタイミングにはバッチリ合っていたので、私は続けました。
「悲しいと怒る人もいるね。悲しくて泣く人もいるけど。君も怒るよね。」

息子は自転車を漕ぎ続けながら、ちょっと考えている風でしたが、
「ハートがね、こわれちゃったんだよ。」
そして、「あしたはいそがしいけど、そのつぎのひにまたあそぼうねえ。」なんて言いながらのんきに進んで行くのです。

彼が本当にお友達の気持ちをわかって言ったのかどうかは謎ですが、もし本当にそう思っていたのなら、喧嘩の時の防御の姿勢も理にかなっているし、そのあともあまり気にしている様子もなく遊ぼうとしていたというのにも納得です。真相は彼のみが知っているのでしょうが、相手の気持ちが理解できることはもちろん、自分の気持ちにも素直になれたら、私のように言葉に詰まってドロドロを溜め込まないでいられるだろうなと思います。

皆さんは上手に気持ちを言えていますか。


『きもち』の作者紹介:


谷川俊太郎
1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。

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