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【絵本レビュー】 『からすたろう』

作者/絵:やしまたろう
出版社:偕成社
発行日:1979年5月

『からすたろう』のあらすじ:

学校の教室では無視されていた少年、からすたろうには、かくされた才能が。教育とは何かを問う。

『からすたろう』を読んだ感想:

学校の先生の役割ってとても大切ですね。私は教育学科を卒業し教育免許を取りながら、先生になるという選択肢を選びませんでした。もともと教員よりもスクールカウンセラーに興味があったのですが、一ヶ月の教育実習の間に「教師にならない」という意思はさらに強くなりました。教育実習自体は楽しかったのです。ただ、子供一人一人ではなく、グループとして管理するやり方に馴染めなかったのです。子供はそれぞれとても違います。それなのに授業の進め方は一定で、それについてこられない子は「問題児」とさえ捉えられがちな教育方法でいいのでしょうか。もちろん学校は組織であって、一般的なことを教えるということは理解しているのですが、それにしても個性があまりありがたがられていないことが残念でした。

日本だけでなく、どこの学校も社会に対応できる、つまり社会で役に立つ人間作りをしているのだと思います。みんなが好き勝手なことをしていては、国が運営できませんもんね。でも私はそこに疑問を持ってしまったのです。

「教育って個々の成長を手助けするものなのではないだろうか。みんながみんな一直線で同じスピードで進んでいかれるはずがない」

そう考えたのは、私の父の風変わりな教育信念のせいでしょうか。それとも『窓際のトットちゃん』とか『兎の眼』なんかを読みすぎたせいでしょうか。私は子供一人一人と向き合える大人になりたいと思いました。

教育実習では二年生を担当しました。担任の先生は、私が小学生だった時新任として入って来た先生でした。私が子供だった時は子供たちとよく遊んでくれる先生だったのに、実習で行ったときは「ちょっと怖い先生」という印象を子供達にもたれていました。

そのクラスにちょっと身体の小さめの女の子がいました。いつも私の周りにいて、休み時間には膝の上によく座って来ました。その子がある日の放課後、お母さんが迎えに来るのを教室で待っていたので、私も一緒に待ちました。一緒に絵を描いたり、折り紙をしたりしていたのですが、わたしの膝に乗っていたその子が言ったんです。

「わたしはね、〇〇せんせい(担任)がこわいの」

どうしてと聞くと、絵を描きづつけながら言いました。

「せんせいはひざにのられるのがきらいなんだよ」

その子は振り向きませんでした。二年生だけど小柄なその子は、とても軽いです。重くて足が痛くなるというわけでもありません。一人が乗ったらみんなが乗るからなど、担任の先生にも理由があるかもしれないし、もしくはスキンシップが苦手なのかもしれません。でも、この子は他の子よりスキンシップを必要としていました。それを先生も子供も理解しあえずに、「怖い先生」「甘えの強い子」という印象をおたがに持ってしまっているのは、なんだか残念に思えたのです。

言われてみると、担任の先生が「赤ちゃんじゃないんだから!」とその子を怒っているのを何度も聞いたことがありました。先生としてみれば、全員がクリアすべき目標というのがあるので、できなければ落ちこぼれとなるわけです。

私の実習は一ヶ月でしたが、その一ヶ月の間私はその子が好きなだけ膝に乗せてあげました。そのうちに、他にも膝に座りたがる子が何人か出て来ました。八歳だっていっぱい甘えたい年齢ですよね。担任の先生は「クセになるからやめなさい」と言って来ましたが、私は聞こえないふりをしていました。それが原因なのか、実習中その先生からあまり優しい言葉をかけてもらったことがありませんでした。子供の時に見たその先生のイメージは、にこやかで優しいだったのでその意外な冷たさにびっくりしましたが、私はこういう先生にはなれないな、とその実習で実感しました。

大好きな映画の一つに、「蝶の舌」があります。内戦中のスペインで素晴らしい先生に出会う男の子の話です。私は先生にならなかったけれど、こんな先生になりたいと思っています。でもきっと私たちは誰もが先生なんですよね。大切なのは肩書きや免状ではなくて、その子供にどんな影響を与えてあげることができるか、なのではないでしょうか。その子の人生に何かしらの種を蒔くことができたのなら、あなたは立派な先生なんだと思います。

映画、もしよかったら見てみてください。


『からすたろう』の作者紹介:


やしまたろう(八島太郎)
1908年鹿児島県に生まれる。本名、岩松淳。東京美術学校(現・東京藝術大学)在学中、日本プロレタリア美術家同盟結成に参加。しばしば検挙され、1939年に日本を脱出、渡米。ニューヨークのアート・ステューデンツ・リーグで学び、戦後は雑誌のイラストレーターとして活躍。1953年初めての自作絵本『村の樹』を出版。1956年『からすたろう』、1959年『あまがさ』、1968年『海浜物語』で、コールデコット賞次席を3回受賞している。1994年没。


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