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【絵本レビュー】 『ちいさいおうち』

作者/絵:バージニア・リー・バートン
訳:石井桃子
出版社:岩波書店
発行日:1954年4月

『ちいさいおうち』のあらすじ:


しずかないなかに,ちいさいおうちがたっていました.やがてどうろができ,高いビルがたち,まわりがにぎやかな町になるにつれて,ちいさいおうちは,ひなぎくの花がさく丘をなつかしく思うのでした――.時の流れとともに移りゆく風景を,詩情ゆたかな文章と美しい絵でみごとに描きだした,バートンの傑作絵本.


『ちいさいおうち』を読んだ感想:

子供たちに読むにはちょっと長いかなと思ったのですが、どの子も熱心に聞いてくれて、最後には「ぜんぜんながくなかったですよ〜」という感想までいただいました。読んで良かった〜。

小学校から高校卒業間近まで住んでいた家は古い平屋で、右隣には大きな煉瓦造りの三階建二世帯住宅、左隣にはグレーのモダンな建売住宅が立っている真ん中にちょこんと建っていました。玄関は引き戸で外から鍵がかけられず、中の鍵も引っ掛け鍵という、まさに鍵ではないものがついていて、父がそれに紐をつけ、その紐を引き戸の間から出して引っ張って外から鍵が外れるようになっていた、というもう空き巣さんいらっしゃい状態の家でした。一度も泥棒に入られなかったのが不思議なくらいです。

うちの前は林に囲まれた大家さんの家と、だだっ広く広がる畑。毎日大家さんが畑の世話をするのが見えます。大家さんはそこ一帯の地主さんでもありましたから働かなくてもいいのでしょうけど、農業が彼の職業で、顔や手足は日に焼けて真っ黒でシワシワでした。

そのうちがあったのは閑静な住宅地で、道の反対側には大使館の人たちも住むようなモダンな家も多くありましたから、私たちの家はなんだか場違いにも見えました。裏庭には小さな竹やぶがあり、縁側はいつも日当たりがよく、父が新聞を読んだりしていました。そこにいると街中にいるという気は全くせず、なんだか私たちの家だけ違う時空に存在しているようでした。

絵本とは違い、私たちが引っ越した後、その家は壊され駐車場になっていました。木蓮の木も、柿の木も、クマバチがよく飛んでいた沈丁花の木も無くなってしまいました。メダカを全部食べてすごく長生きした金魚を埋めたこと。とてもお利口だった猫が車に轢かれてしまってのを父が見つけ、うちへ連れて帰ってきて庭に埋めたこと。あのボロボロの小さなうちには想い出がいっぱい詰まっていたのに、それは全部コンクリートで蓋をされてしまいました。今でもあの駐車場のことを考えると、なんだか胸が痛くなるのです。



『ちいさいおうち』の作者紹介:


バージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton )
1909年8月30日、アメリカのマサチューセッツ州ニュートンセンター生まれ。父はマサチューセッツ工業大学の学監、母はイギリス生まれの詩人で音楽家。バートンはカリフォルニアの美術大学で絵の勉強をするかたわらバレーも学び、1931年にボストンで絵の教えをうけた彫刻家ジョージ・ディミトリオスと結婚。以後、海べの小さな村フォリー・コーヴに住み、画家として、デザイナーとして、また絵本作家として活躍した。1968年没。  最初の絵本『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』は、長男アーリスのため、第二作『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』は次男マイケルのために描かれたもの。その他主な作品に『ちいさいおうち』『せいめいのれきし』『名馬キャリコ』(以上、岩波書店)、『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』(福音館書店)ほか多数。


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