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【絵本レビュー】 『ムカムカドッカーン!』

作者/絵:ミレイユ・ダランセ
訳:ふしみみさを
出版社:パイインターナショナル
発行日:2020年5月

『ムカムカドッカーン!』のあらすじ:

超不機嫌な男の子、ロベールが部屋にとじこもっていると、大きな怒りの「かたまり」があらわれて大暴れ! さてそれをみてロベールは……。

『ムカムカドッカーン!』を読んだ感想:

怒りを手放す方法が物語を通じて学べる絵本として、フランスでは、小学校の教室には必ず1冊あると言われるほどの定番のベストセラーなんだそうです。

十代の私はとてもイライラしやすかったように思います。いろんなことが理不尽に思え、それに対して怒りを感じやすかったです。電車が来るまでは並んでいるのに、ドアが開いた途端後ろにいた人も我先にと乗り込んでいくとか、父が食卓で人種差別的な発言ばかりするとか、社会はどこもかしこもイライラの要素でいっぱいに見えました。当時の私は正義感が強かったのかもしれません。もしくは社会に対してもっと夢があったのかもしれません。道で知らない人に抗議をすることはしませんでしたが、家となると別です。父の意見が間違っていると思えば、真っ向から噛み付きました。するとイライラの火は飛び火し、父も噴火。夕食の席は重い空気になることもしばしばでした。そんな中母はいつもウナギみたいにスルスルと状況をすり抜けていきます。喧嘩してフツフツとしている私に「はいはい、そうだねって言っとけばいいのに」といつも言ってきたことにすら私はイライラしました。まあどちらにしても私の「はいはい」には棘があったようで、父のいかりを助長しただけだったんですけどね。売り言葉に買い言葉、今ならわかるんですけどねえ。

今は4歳児の怒りとやりあう毎日です。ロックダウンも1年を過ぎ、幼稚園もしまってばかりでイライラもマックスとなっている私には、息子の不機嫌さはいい起爆剤です。息子がドカン、私もドカン、旦那もドカン、みんなでドカン。地雷があちこちで爆発する有様で、取りつく島もありません。昨日も公園で遊んでいたら、帰る間際になって何か気にくわないことが起こり大癇癪を起こしました。靴を履くように言うと髪が逆立つくらい沸騰して、靴を投げてきました。悔しいことに二足とも私の足に命中。「おぬしなかなかのコントロール」と内心思いましたが、もちろんそんなことは言えません。無視して荷物を拾い始めると、「ママがくつはかせてえええ」と泣き叫びます。「そんな言い方じゃしたくない」と言って私は動きません。すると散らばっていた靴を拾い上げてまた遠くへ投げて叫びます、「いかない!!!」。それで私は「じゃあ、おうちに来たかったら自分で来て。荷物はここに置いておくから」と言ってスタスタと歩きました。

後ろからギャン泣きの息子の声が聞こえます。でも後ろも振り返らず、スタスタスタ。そのままフットサルコートをぐるっと周り公園の出口へ向かいました。コートの反対側に着いた時、私は座り込み息子を待ちました。息子の叫び声でジンジンしていた耳に、静寂はやさしく感じました。コート越しに目をやると息子がさっきの場所に座っているのが見えます。でもモゾモゾ動いているところを見ると、どうやら靴を履いているよう。(よしよし。)私はまた空をぼんやり見ていました。また息子の方を見ると、さっきまでグレーだったトップが紺色になっています。(よしよし、コート着てるね)さらに息子が歩き出したのも確認しました。

私はまた公園の塀に座って思いっきりリラックスしたふりをしました。息子が腕を組んだまま近づいて来ます。私の顔を見ずに通り過ぎました。私は塀から降りて、彼の後をのんびりついて行きます。そのまま家まで歩き、アパートの入り口に入ってさあ階段を登ろうという時、息子が振り向いて手を繋いで来ました。「なかなおり、してない」私たちの仲直りは、いつも握手から始まるのです。「じゃあ、仲直りしよう」と言うと、息子は私に顔をうずめて泣き出しました。泣きながら、どうして公園で怒ったのか説明しようとしていたのです。そうやって泣きながら家まで登りました。家に着いて旦那にも泣きつくとどうやらスッキリしたようで、「ママ、車で遊びたい?」やれやれ、今日もムカムカドッカーンをなんとか乗り越えました。

でも思ったんです。私はいつから怒りを飲み込むようになったんだろう。ドッカーンってなると確かに何かが壊れたりするけれど、落ち着いたらスッキリできるのではないでしょうか。本当は爆発したいのにしなくて、おまけに怒ってない振りまでして、他の人から見たら「明らかに煙が立っているよね」と言う状態のまま過ごすことにどんな利点があるのでしょう。絵本が教えるように、大事なのは怒らないことではなく、怒りを手放すことなんですよね。


『ムカムカドッカーン!』の作者紹介:

ミレイユ・ダランセ(Mireille d'Allance)
1958年フランスに生まれ、子供時代をドイツですごす。教職につき7年間デッサンを教えた経験があり、自分の絵の原点はアフリカでの1年間の滞在経験にあるという。現在はフランスで絵本の創作をしている。3人の子供の母親。読者との交流を特に大切にしていて、学校や書店などで積極的に自作の読み聞かせを行っている。主な作品に『ぼくねむれないよ!』(日本語版・朔北社刊)『イゴールの金のすず』(日本語版・評論社)などがある。


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