見出し画像

美容室での会話と対話

「美容師」と言うお仕事上「ファッション業」とも「接客業」とも思われやすいし「技術職」だっていう人達もいるんですけど
僕達はお客様から「営業」して「提案」して「受注」して「制作」して初めて「納品」となります

なので美容師って何なんでしょ?
ただ、一つ言えることは「お客様の顔が見える」商売だということ
だからお客様の事をより知るべきだと思います

接客が苦手だと思っている美容師さん
何を話していいのか悩んでしまう接客業、営業のお仕事の方に読んで頂けると幸いです


美容院ジプシー


いつもヘアスタイルを作る時に考えている事は、どうすれば目の前にいるお客様が綺麗になって自宅でも自分の姿を見てワクワク出来るのかと言う事で

その為にヘアスタイルを創るまでの過程を考え、カット、ワインディング、ヘアカラーなどの美容技術の組み立てによって思い通りにヘアスタイルを創るコトも大好きなんですけど
ヘアスタイルを決定するまでの話し合い(カウンセリング)も凄く楽しいお仕事の一つです
一般的な美容室の「カウンセリング」って聞くと
ある程度お客様の悩みや情報を聞きヘアスタイルを提案させて頂きますが
「それでしたらこちらのトリートメントを…」とか
「新しいストレートメニューがあるのでやってみませんか?」等と
予想もしていなかったメニューを薦められることも少なくありませんが
これは状況によってお客様にとって良くも悪くもなり得ます

なので特に新規のお客様だった場合はよほど最初の話し合いでコミュニケーションが取れた場合を除いてはお話を聞くことに徹してあまり色々とお勧めしません

理由はひとつ「僕がそれやられると冷めちゃうから」なんです

初めて入ったお店で、本当はジャケットだけを見に行ったのに
「こちらもお勧めです」ってまだ、そのジャケットを買うかどうかも決めてないのにパンツを持ってきて鏡の前に立つ頃にはご丁寧に靴までおいてある

うんうん
オシャレそうだね、うんうん
そりゃあ、そうでしょ…って
何故か冷めてしまって、もう何も買いたくなくなります

だって店員さん、僕の意見は何も聞いてないし
初めて会ったから僕のコトだって知らないだろうし
我儘かもしれませんが敢えてハッキリと言いたい
「もっと僕を見て、僕を知ってから提案して欲しい」と

それから店員さんと僕との間にはまだ信頼関係なんて産まれていません
なので満面の笑みで「どうですかー良いでしょ!」って言われても
「いや、僕は嫌いです」ってハッキリ言えないんです
初見で嫌われたくないから良い顔しちゃいます

「ですねー良いですねー」ってちょっと曇った表情で言っちゃうと思います
そして周りを観ながら「他には何かないのかなぁ」ってアピールします

でも不思議なものでそこに気が付いてくれると、それだけでその店員さん大好きになったりもします

「わかってくれた!やった!」
って心の中で呟きつつ、少し自分の話もしたくなります

「実はこういうのが好きで」って
そのあとにパンツや靴を持ってこられてもちっとも嫌な気がしません

人間て本当不思議
きっと気分で動くのかもしれません

さて本題です
お洋服は買ってしまって気に入らなくても着なきゃ良いんだけど
髪型ってどうしますか?

気に入らないから別の美容室に行って
またほかの髪型にしてもらって、それも気に入らなければどんどん短くなりません??

「美容院ジプシー」と言われる定着せずにあちこちのヘアサロンを渡り歩く人達は沢山いますが、その要因の一つにこんな事もあるのではないでしょうか?

ヘアスタイルは自分の意志だけで決定できない


「どうせ伸びる」髪だけど
「後戻りできない」のがヘアスタイル

だから僕はそのヘアスタイルを創る前の時間を大事に考えます
オーダーメイドであり、なおかつ着脱出来ない体の一部を創るのですから
それはそれは責任重大

「伸びる」と言う意味では整形手術よりは少しハードルが低くなるかもしれませんが、お客様の人生の一瞬一瞬をヘアスタイルで彩る為には情報が欠かせません

メイク、洋服、バック、お財布、来店時のヘアスタイル、表情、話し方、眉の形、肌の色、履いている靴、ネイルなどなど

パット見て考えます
「このお客様は何を大事にしているのだろう?」って

美容師のお仕事はカウンセリングをして受注して美容技術によってヘアスタイルを製造していきますので最初の「どんな風にしたいのか?」と言う情報をはき違えてしまうとどんなに素晴らしい商材を使ったって、素晴らしい技術があったって全てが台無しになりますから慎重になります

ただし美容室歴が長い分、何十年も来店されているお客様も多いので会話の中では逆に情報量が少ない場合もあります

「いつもと一緒で」って言われるとめっちゃプレッシャーを感じつつ
「分かりました」って言いますが鵜呑みには決してしません

「いつもと一緒で」=「いつもと同じ髪型で」と言う意味ではなく
「いつもと同じクオリティで素敵にしてね」って事なのです
そこに付け加え、人には歴史も感情もあります

そのお客様の「いつも」は本当にひと月前の「いつも」なのでしょうか?
楽しい事があったり辛い出来事があったり、環境が変わったりと
いつも見ているお客様だからこそ変化が一瞬で理解出来るので
長いお付き合いをさせて頂いて本当に美容師冥利に尽きると、感謝しかありません

会話なしサロン

感謝ついでに余計な事かもしれませんが
誰だって体のコンディション次第でやる気が出たり無くなったりするし
心のコンディション次第では何もしたくなくなる時もあります

美容業界ではそんな様々な要望に応えるべく
「会話なし」と言うメニューが存在します
率直にこれって本当に凄いサービスだなぁと感心しました

そもそも「美容室での会話が面倒だ」と思っている人は約7割ほどいて
その理由のトップは「話がかみ合わない」他には「プライベートの話を聞かれたくない」「会話が途切れた時が気まずい」ってことが原因だそうです

僕自身の経験を振り返って考えてみると「自分にとって余計な話」は出来るだけ、どのシチュエーションでも避けたいものです

今日は暑いですねー、これからどこか行かれるんですか?、お仕事は何をされてるんですか?などなどと心をあまり開いていない人に聞かれるのはまるで尋問のようで、「これから○○に行くんですよー」って答えたところで「へぇー」って返事が返ってくるだけであれば、最初から聞いて欲しくないと感じてしまいます

もちろんその質問がヘアスタイルに関わる事であればまた話も違いますが
それ以外の「余計な会話」については僕もあまりする必要は無いなと思いますので「会話なしメニュー」は思い切った良いやり方だなぁと思いますが
その分「気配りのみ」でコミュニケーションを取る事になるので大変である事は変わりません
「コミュニケーションをとる手段」が変わっただけなんです

ヘアスタイルと対話


誰だって心と体のコンデションによっては、話を聞いて欲しい時もあるし、ほっといて欲しい時もある。また「どうでもいい話」がやたらと楽しい時だってあります

例えば自分自身の事で恐縮ですが
僕は今現在「祠」の事しか頭にありません

え?
何のことかって???

「祠」ですよ
祠と言えばゼルダの伝説
数年間待ち続けた新作のゼルダの伝説をクリアするにはガノンドルフを倒すための充分なハートの器が無いといけません。その時に必要なのが祠をクリアしたときにもらえる何か玉みたいな物の数なのですが、コレが一長一短に発見できるものではなく1祠あたり1時間かかる場合も少なくありません。もちろんネットで調べて祠を攻略するという方法もあるのですがその方法は出来るだけ使いたくないのです。そうして祠チャレンジをクリアすることによって僕はゼルダの伝説ティアーズオブキングダムの世界へと…

これって2か月前は違いましたが、現在では休みの日の自分の髪型なんてどうでも良くって出来るだけそこに使う頭と時間を「祠」に使いたいし
いっそ頭ごと祠にしようかなって何のことだか分かりませんが
そのくらいゲームにはまっちゃった祠な人間にどんな髪型を勧めるんでしょうか?

こんなお客様が来店された場合どんなヘアスタイルを提案出来るのか
いつも僕はシュミレーションします

ああ、ゼルダで祠チャレンジやってるお客様だな
じゃあ、毎日のオシャレよりもまずは利便性が大事
前髪は弓を打つ時に邪魔にならないように顔にかからないようにして
「ゼルダ」にはまっていても自分自身のファッションを保っているんだって周りの人達にも見せなくっちゃいけない
だったらいっそパーマでバックに流して毛先は少し遊ばせてオシャレに見せるのはどうか?

なんてね

そんな妄想を働かせながら映画を観ていてもアニメを観ても買い物をしていてもゲームをしていてもスポーツをしていても妄想します

明日から初出勤のお客様
大好きな人に出逢ってしまったお客様
お仕事が楽しくって仕方ないお客様
モテすぎて困ってて悩んでいるお客様
色んな方がいますので僕は出来るだけ「無駄な会話」を避けて「対話」をしたいんです
その為には今のところ憑依しながら対話をする方法しか思いつきません
何も話さないと何もお客様の事を理解できないんです

お客様とは長いお付き合いをしていきたいですから
お客様の立場に立って話すべきこと、話すべきでない事を区別し
最終的にはお客様自身になりきる事
これをアージュ美容室では「憑依する」って言ってるんですけど
言うほど簡単じゃありませんし僕自身も「まだまだだなぁ」と反省しながら笑ってごまかして思考錯誤しています

最終的には「会話」ではなく「対話」出来る間柄でいたいんです。

今回も長い文章を最後まで読んで頂いてありがとうございました

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?