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Negotiation 交渉分析

今日のテーマはNegotiation

ケネディスクールのMaster in Public Policyプログラムに入学して最初の難関は1年目の秋学期必修のNegotiationです。

授業構成

週2回の授業では"3-D Negotiation: Powerful Tools to Change the Game in Your Most Important Deals"の手法を基礎に、交渉のケーススタディを分析し、週1回の夜の交渉実践演習では、授業で扱ったものの類似のケースと役割が与えられ、交渉を実践した後、互いにフィードバックを行います。実践演習では全員に共通のケース本文と、個々人にそれぞれの役割に沿った文書(交渉の狙いは何か、どんな事情を抱えているか、妥協できない点は何か等)が与えられ、制限時間内に交渉を行います。

ケースは、①1対1、②2対2、③根回しあり、権力の高低ありの複数対複数交渉、④根回しありの力関係絡み合う複数対複数交渉、⑤文化圏を超えた3対3の交渉、と少しずつスケールアップしていきます。①は比較的シンプルな値切り交渉みたいなものですが、③以降は実践演習の時間外から対面やWhatsappで互いに情報収集し、共闘できる相手、確実に説得しなければならない相手などを探りあった上で夕方の本番に臨みます。

分析手法1:交渉の3Dとは

教科書名の「3D」にあるとおり、この授業では交渉が滞る原因を3つの次元に分けて分析します。交渉の場(at the table)で話し合われること(1D、2D)以上に交渉の全体像やそれぞれのプレイヤーの背景にある事情(3D)を分析することで、皆にとってより高い成果をもたらします。より大きなパイのピースをとったほうが勝つゼロサムゲームではなく、自分を知り相手を知ることでそもそものパイの大きさを広げよう、という考え方です。

著者のDavid A. LaxとJames K. Sebeniusによれば、交渉が立ち行かなくなる原因を以下の3次元に落とし込んで分析することができます。

1D:tactics(交渉の場における人・戦術の問題)

交渉の現場で生じる交渉人やその態度による失敗要因。強硬的な交渉態度、交渉相手への不信感、コミュニケーションの欠如が例に挙げられます。

2D: deal design(互いにとり価値のあるディールを作り上げる力量)

1Dが人的要因なのに対し、2Dは交渉や合意内容の問題。互いの取り分に不満があるため合意に至らない場合、中身を見直し、持続的な価値を生み出すディールを組み立てなければなりません。価値とは、経済的利益だけを指すのでなく、相手の顔を立てる、理念に沿った創造的な何かを生み出すといったことも含まれます。

3D:setup(交渉設定)

1D、2Dは交渉術と言えるようなものですが、3D Negotiationのキモはここ。交渉態度を変えても人を変えても交渉内容を見直しても、そもそもの設定に落とし穴がある場合があります。そもそも交渉すべき相手を間違えていた(決定権のない相手、交渉内容に利益が絡まず関心のない相手、文句を言うだけの相手等)、順序を間違えていた(まずAに働きかけて味方につけた上でないと権力者であるBが動けない等)、交渉対象を間違えていた(金額の話ばかりしていたが真に相手が気にしていたのはメンツの話だった等)が3Dに分類されます。上述の「授業構成」で触れた交渉ケース③、④がそうであるように、事前に相手の事情を聞いたり、ある点において利害関係の合致する人を味方に取り込んだり、といった"away from the table"の根回しが鍵となります。

分析手法2:マッピング

3D分析の他に必要になるのが交渉に関わるプレイヤーのマッピングです。3Dにあるように、実際の交渉の場にいない人が実は影響力を持っている場合もあるので、視野を広く持つことが重要です。

ZOPA (zone of potential agreement) 潜在的合意範囲

互いに交渉相手の真の目的、妥協点はわかりませんから、あくまで情報収集をして予測する必要があります。ZOPAを見誤ると、自分が損をするか、相手が交渉の席を立ってしまいます。身近な例で言うと、値切り交渉において互いに合意できる妥当な価格帯(ZOPA)はどこか見極めた上で価格を提示していくことは多くの人が無意識の内に実践していることだとおもいます。

BATNA (best alternative to negotiated agreement) 合意に次ぐ代替案

交渉とはそもそも互いに交渉の意思がなければ成立しません。時間と労力をかけて交渉に臨み合意を結ばなくても比較的良い結果をもたらす別のオプションがあれば、そちらを選びますよね。値切りの例で言えば、○○商店で買い物中に欲しいものが見つかったとして、わざわざ○○商店と交渉しなくても△△屋に行けばもっと安く買えるのだとしたら、○○商店は交渉において不利な立場に置かれます。反対に、交渉相手がどうしてもあなたと合意を結ばなければならない理由があるのであればあなたに利があります。BATNAを正しく見極めることであなたの立場を理解し、効果的な戦術を選択することができるのです。

Allies, adversaries, recruitables(味方、交渉相手、勧誘可能な相手)

複数対複数の交渉の場合、各プレイヤーの立場を分析し、味方、交渉相手、やりようによっては味方に取り込むことができる相手に分類します。Recruitablesはやり方によっては味方になりますし、交渉相手にもなります。アプローチの順番や方法を工夫して味方を増やすことで相手のBATNAを悪くし、合意に持ち込む意思を高め、あなたに有利な合意を結ぶことが可能になるかもしれません。

紹介した教科書"3-D Negotiation"について、著者2人がこちらの記事でまとめているのでお時間あればどうぞ。

ぶっちゃけしんどかった・・・

まだ不慣れな学校・海外生活、出会ったばかりのクラスメートと共に極度にシニカルな鬼教官の下、厳しく管理された授業に参加するのはいつもヒヤヒヤでした。授業開始時刻に着席していないと減点、授業中の飲食は禁止、一授業一発言以上しないと評価が下がる、ポップコーンのようにぽんぽん先生から出される質問に指名された生徒が即答しなければならない、課題の提出は先生が時計を持って秒単位で提出先のボックスで待ち構える時間厳守徹底っぷり。アメリカ人学生もピリピリするので、留学生にはかなりのプレッシャー!毎週出る課題は名前順で組まれたチームごと準備しなければならなかったのですが、特に私のチームメイトは、馴れ合う気はないの、私の足引っ張らないでちゃっちゃとやってよね!みたいな雰囲気を出していて怖かった・・・。

私は授業での発表は心拍数が上がりすぎてろくに喋れず、とにかく苦手だったのですが、交渉は大好きで、与えられる役ごとにいろんな顔を使い分けて楽しんでいました。例えば、港開発に関する交渉を実践した時は知事の役を引き当て、開発担当企業や地元住民、環境保護団体と交渉する中で最終的な決定権を持つ権力者として美味しい立場を満喫したり(現実では知事が市民の支持を得られない判断をすれば再選に響くはずですが、あくまで一部を切り取った演習ということで・・・!)、反対に、別の演習では立場の弱い一市民役を与えられ、少しでも自分の利益をもぎとろうと弱者同士結託して強者を困らせたり、ただの演習とは言えハーバードの学生相手に特に楽しく時に激しくやりあうことができました。最初の頃の2対2の実践演習ではうまく話に混ざることができず帰り道悔し泣きしたのも良い思い出です・・・!

交渉の授業で学んだ己を知り相手を知る、という手法は実はその他の全てのソフトスキルにも通じるもので、相手を慮ったり空気を読むのが得意な日本人には馴染みやすいものかもしれません。次回はまた別の授業をご紹介します:)


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