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言葉だけじゃない授業参加の壁

敗北の日々

アメリカ大学院留学で一番苦労したのは、リーディングの多さでも、レポートの長さでも、グループワークでもなく、「授業参加」。どの授業でも重視されるこの項目は、出席率を指すわけではありません。一授業あたり何回発言したか、発言の質はどうであったかを教授のみならず、左右背後に配置されたティーチングアシスタントがエクセルに記録を残しながらチェックします。授業によっては、成績の構成項目の大半が授業参加というものも。

いくら評価の最重要項目と言われても、成績インセンティブ一つでサクサク意見を述べられるようになれば苦労しません。100人規模の大教室で皆に聞こえるように声を発するだけでもプレッシャー。まして相手はハーバード生。アメリカ人だろうと留学生だろうと、堂々と自分の意見をペラペラ英語で発信していく上に、議論のスピードも速い。発言回数が成績に響くので、日本の教室では信じられないくらい一斉に多くの手が挙がります。教授が話していようがお構いなし。誰かに話す「場」を作ってもらってから発言するのではなく、自分の「場」は自分でこじ開ける。教室は戦場かのように鋭く素早い発言が飛び交います。

要領のいい学生は授業冒頭でさくっと質問し、残り時間はリラックスしているのですが、冒頭で発言できず後になればなるほど議論の練度が高まり、気軽に発言してはならないように感じます。タイミングよく手を挙げようとすればするほど、発言内容が場にそぐわないのではないかと不安になったり、発言の英文法はあっていたかしらと気になる始末。考えれば考えるほどドツボにはまり、心拍数は急上昇。勇気を出して挙げる手は震えるし、発言してもか細い声しか出せず、声が届いているのかわからない。一度も発言できずに授業が終わるととてつもない敗北感に襲われ、帰宅後めそめそすることになります。

小さな勝利を重ねて

なぜ今さらこんな記事を書いているかというと、最近インターナショナルスクールに通う女子高生のお悩み相談を受けたからです。数年前までは日本で普通の学校に通っていた彼女は、父親の転勤に合わせて初めての海外生活、インターナショナルスクールで初めての英語漬けの授業の日々を経験することになりました。彼女の悩みは授業中にうまく発言できないこと。他の生徒はぽんぽん発言している。授業がわからないのではない。授業以外で先生や友人と話すのも問題ない。でも授業にうまく参加できないのだ、と。

切実に語る一生懸命な彼女の訴えを聞き、留学中に私が感じていたことは、多くの人が悩んでいることなのかもしれないと思い、この記事を書くことにしました。当時、私がいろんなリソースに当たってたどり着いた対処法を紹介します。

●カンペ作り

授業予習時に気になった点、質問したい点を書き出す。授業中に考えることを最小限にするため、そのまま読み上げるだけのカンペを作っても良い。そして授業のなるべく早い段階で発動する。時間が経ってしまうと、初歩的な質問だった場合に発言しづらくなるし、授業の議論の流れによっては全く違うトピックに話題が移るかもしれません。


●友達をパートナーに

クラスの友達と一緒に予習し、理解できたか不安な箇所を話し合う。友達から説明してもらってわかるようになれば自信を持って授業に臨めるし、友達もわからないようなら堂々と自信を持って先生に質問すれば良いのです。もしそれでも自分から挙手できなかったとしても、その友達が、「これは〇〇さんと議論したことなんだけど、」と発言してくれれば間接的に参加できたことになります。友達に、その後自分に話を振ってもらうようお願いしておくのも手です。


●先生にわかってもらう

授業の前後や先生の空いている時間に相談に行く。アメリカでは、発言しない=理解していないと、生徒が発言しないのはやる気がないか理解していないから、と捉えられがちです。一対一の話やすいシチュエーションで、先生に対し授業に参加したいけどこれまで慣れ親しんできた環境と異なるから戸惑っている、理解はしているし、興味を持っている、でもうまく発言ができないのだと悩みを打ち明けると良いです。先生にあなたの意欲が伝わります。また、予習内容が理解できたか不安で発言ができていないなら、授業の前後で先生に質問をすれば意欲が伝わる上に、不安も解消できます。先生にお願いして、授業中あなたを指名してもらったり、あなたが提出した課題を授業で紹介してもらうのも、クラスメートにあなたの考えを知ってもらうとっかかりになります。


●発言前のルーティんで心を落ち着けて

発言すること自体がプレッシャーの場合、ルーティンを決める。呼吸を整えるでもいいし、口をパクパクしてみるでもいい、教室のどこかを見つめるでもいい。あなたの心を落ち着かせ自分の発言内容に集中する。そうすれば周りの視線や教室の広さにのまれずに話せるかもしれません。


●一歩進んで二歩下がるくらいでいい

毎回勝とうとしなくていい。言葉も文化も価値観も目的も異なるけどやたら優秀な人たちが集められているのだ。圧倒されて当たり前だし、皆がハッとすることが言えなくて当たり前。自分の頑張りも至らなさも認めるけどあくまでフェアに。過剰に落胆して負のループに入るのはもったいない!一歩進んで二歩下がるつもりで、小さな小さな勝利を積み重ねていきましょう。

見えない格差があるのかもしれない

留学当初、英語が母語じゃなくて、学校で発言しようものなら白い目で見られる環境で生きてきたんだから、日本人は発言のハードルが高くても仕方ない・・・なんて思っていました。しかしある時ふと、同じく日本から留学していた日本人男性は支離滅裂であろうと、文法がとっ散らかっていようと果敢に自身の意見を述べていることに気がついたのです。対して、日本人女性陣は、私を含め静かにしています。つまり「日本人」であることが原因ではない・・・?と考え直し始めました。

自分のおさらいも兼ねていつか書こうと思っている、ケネディスクールで最も人気のある授業の一つ"Adaptive Leadership"では、まさに授業への参加が全て。ただし、授業への参加の仕方、誰がどんな言動をし、集団がどう動いていくかといったプロセスを観察し、リーダーシップの真の意味を理解していくというものでした。この授業の中で皆が意識していたのが、グループダイナミクス。集団を構成する人がどんな人で、マジョリティとマイノリティはどうで、そこにどんな力関係が生まれ、誰が発言し、誰が発言を許されていない("silenced")のか。

皆がそんなことを意識を傾ける授業で、面白いことが起きました。最終授業、全体総括として学生が自由に意見を述べていた時、あるアジア系女性が手を挙げたのです。確か東アジア系だったと思います。彼女が口火を切ったことで、これまでその教室で発言してこなかった東アジア系女性が次々を手を挙げ、ありのままに語り始めたのです。私もそのうちの一人でした。中にはアジア系アメリカ人、つまり英語が母国語である人も多く、発言がしづらいのは言語の問題だけでないとわかりました。女性であること、男性優位の文化で育ってきたこと、意識していなくても女性は静かに相槌を打つものだと思わされていたこと、他にも様々な要因があると思いますが、私たちは無意識のうちにsilencedされることに慣れてしまっていたのかもしれません。

2021年2月、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」との発言をしたことで強い批判を受け、最終的に辞任に追い込まれました。悲しくも欧米メディアで"sexist"として名を馳せた森元会長。この事件は現代日本に強く残る男社会の問題を国内外に露呈しましたが、同時に日本でのジェンダーに関する議論を促進する一因にはなりました。海外が日本のジェンダー観に抱く違和感を日本人にも感じて、なぜ問題なのかわかってもらいたいです。

「なぜ女性のリーダーは少ないのか(Why we have too few women leaders)」-Sheryl Sandberg, TED Women 2020(もう10年以上前なのですね・・・!)

https://www.ted.com/talks/sheryl_sandberg_why_we_have_too_few_women_leaders

"I want my daughter to have the choice to not just succeed, but to be liked by her accomplishments." -Sheryl Sandberg, TED Women 2020

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