ある喫茶店での何気ない恋愛話(ショートショート)

かたん。カップをソーサーに戻す音。

「それで、結局彼とは付き合ったの?付き合ってないの?」

彼女は私の目を覗き込もうと前のめりになった。

「いや、付き合いはしなかった。」
「付き合いはしなかったって何!?」

私は口ごもってしまった。

「そういう中途半端な態度だからあなたはダメなのよ」

そう言われて、返す言葉も無かった。

「私の中で踏ん切りが付かなかったの。だから、しょうがないじゃない…」
私は力無く言った。

彼女は大袈裟なボディランゲージをとった。
全く、何てことなの!?とでも言いたげに。

彼女は言った。
「親友の1人として私に言えることは、その相手への想いの中が何か疑いのようなもので溢れているのなら、こう自分に問いただしてみるのよ。彼はあなたを幸せにしてくれるか。もしくは幸せにしようとしてくれるか、ということを。そしてこの後者の方を、あなたを幸せにしたいという意志の方を大事に考えなさい。そもそも必ず幸せになるという恋愛なんてないのだから。むしろ、その不確実なものの中に、相手を尊重する思いがあることにこそ愛の価値があると私は思っているわ」

私は彼について考えた。
彼は私を幸せにしようと思っているかしら…

彼が言ったことを思い出す。

僕はあなたの笑顔が好きなんです。
本当に嬉しそうに、目を細めて笑うじゃないですか。
その笑顔を見たら、もっともっとこの人を笑顔にしたいって思うんです。

私はコーヒーを一口啜った。

かたん。

「そうね、ちょっとこの後彼に連絡するわ。彼は私の心を大切にしてくれている。今振り返っても、言葉の端々にそれが溢れ出ていた気がする。今ここで私が曖昧な態度をとり続けることは彼にとって失礼にあたるし、私にとってもそれは全く良くないことだと思う」

そう言うと、心のわだかまりのようなものがするすると解けていくような気がした。

彼女はそれを聞いて頷いた。
「そうよ、それでいいのよ。あなたは幸せになるのよ。私は友人としてあなたの幸せを祈っているし、あなたを想う恋人がいれば尚のこと、その幸せはもっと豊かなものになるはずよ」

私と彼女は同時に、一息にコーヒーを啜った。

かちゃん。

そして私は彼女の目を見た。
その目はやや細く、柔らかに微笑んでいた。

恐らくは、この私も同様に微笑んでいたに違いない。
なぜなら目の周りにあった強張りは失くなり、温かみとも呼ぶべき微かな発熱を感じていたから。

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