Withコロナ時代のアジアビジネス入門⑰「香港国家安全法<中国支持と離反の力学>」@対論・米中関係とビジネスONLINE講座(2)
ファーウェイ(華為技術)排除の動きは米国のみならず英国など欧州にも広がりを見せています。香港問題など政治の影が見え隠れしますが、これによってグローバルサプライチェーンはどう変化するのか。コロナ後を見据えて中国が打ち出した新インフラ政策は国際的な主導権を握ることができるか。中国の輸出入のプラス要因となった東南アジアは今後、経済の“中国圏化”が進むのか。
(YouTube→)毎日アジアビジネス入門ONLINE講座は中国編、インド編、ベトナム編に続き、シリーズ第4弾となる「陳言と及川正也の対論・米中関係とビジネス『第2回グローバルサプライチェーンと米中関係』」が7月17日に開催されました。
ファーウェイ排除が欧州に広がり
北京から参加した陳言氏がファーウェイ問題の波紋、中国の新インフラ建設の可能性について説明しました。
陳言氏によると、ファーウェイの2020年上半期売上は4540億元(約7兆円)で前年同期比13.1%増と躍進しました。その理由として、ファーウェイは携帯の中国国内シェアが48%を占め、これが売上の56%に達していると指摘。2020年中に中国国内では50万基地局の入札があり、ファーウェイが6割を落札すると予測しています。
一方、7月14日に英国がファーウェイ排除を決め、2027年までに5G(第5世代移動通信システム)関連の装置をすべて排除するとしています。中国が香港に対して国家安全維持法を導入したことや英国の保守勢力の権力バランスが決定の背景にあったとみられますが、仏伊が同調する動きを見せ、独も追随すれば欧州全体に広がる様相です。日米加豪はファーウェイ排除を決定しており、グローバルサプライチェーンの観点から確実に分断が起きていることを物語っています。
中国内製化の限界示す半導体
陳言氏は今後、ファーウェイは5G の活用分野として自動車市場に参入する見通しを示し、すでに中国の自動車関連メーカー18社と提携していると述べました。その半面、ファーウェイが半導体を内製化しようとすると巨額の投資と時間が必要となり、優れた半導体をすでに持っている韓国のサムスンや台湾のTSMCと提携することが得策であると指摘し、中国のみの内製化の限界にも言及しました。
中国の輸出入を支える東南アジア
国際通貨基金(IMF)の2020年実質GDP経済成長率予測によると、中国が+1.0%なのに対し、米国-8.0%、日本-5.8%、独-7.8%、仏-12.5%、伊-12.8%、英-10.2%と先進国は軒並みマイナス成長です。中国の上半期の輸出入(貿易統計)は徐々に回復基調に入り、6月の輸出は前年同期比4.3%増、輸入は同6.2%増で正常に戻っており、特に東南アジアの輸出入が下支えしています。陳言氏は中国が打ち出した情報ネットワークを基盤とする「新型基礎インフラ建設」(新基建)について5G、AI、IoT、自動運転などによって技術・情報コストが下がり、加速度に経済の国内循環をもたらすと強調しました。
陳言氏と及川正也氏の主な対談内容は次の通りです。
経済合理性より政治対立を選択した英国
――英国のファーウェイ排除についてどう考えますか。
及川氏「米国は国家安全保障上の理由から英国に対してファーウェイを排除してほしいと要請してきました。英国は2005年ごろからファーウェイと協力関係を深め、米国とは違う判断をしました。米英両国はファーウェイが中国軍と情報を共有しているのではないかとの疑念を共有していますが、英国は今年初めまではセキュリティは大丈夫として制裁に追随しませんでした。経済合理性の面から考えれば、英国はファーウェイを排除することで通信環境の劣化で3000億円程度の損失を被ります。それでも排除に踏み切ったのは、香港問題もありますが、経済を犠牲にしても中国と政治対立することに舵をきったのではないかと思います。今後、仏独伊がどう判断するのか。欧米で意見が分かれるのか。一枚岩で中国との対立を先鋭化していくのか」
陳言氏「中国は英国のファーウェイ排除に驚いています。英国はECから離脱しているし、裏切ることはないと思っていましたからです。英国の排除で仏伊もそうなると大変だと思っています。一方で、米国では5Gは軍用が中心ですが欧州ではそうでなく民間にも開放している。ファーウェイがコストの安さなどで世界的に攻めているので巻き返しがあるのかどうか注視しています」
安定的な経済関係を保つ華僑人脈
――中国の輸出入のプラス要因に東南アジアとの貿易があります。米中はこの地域の取り込みをどう考えているのでしょうか。
陳言氏「1989年の天安門事件で日本や米国などは中国への制裁措置をとりました。これをきっかけに中国は東南アジアとの関係拡大を図りました。米中貿易摩擦に際して、実のところ、東南アジアでは中国の一帯一路が進展しています。東南アジアには数千万の華僑がいることが大きい。中国語を話し、互いに人脈がある。中国は安定的に東南アジアとの関係を保っていくでしょう」
及川氏「米国は東南アジアの関与に消極的です。トランプ大統領はこの地域で行われる首脳会談にはほとんど行かず、ペンス副大統領に任せっきりです。米国が関与しない隙に中国が関係を強めたといえるでしょう。中国と東南アジアは貿易関係がウィンウィンです。でも、こういう状況に米国は本音であせりがあるかもしれません」
70カ国以上が中国の香港国家安全維持法に賛成
――中国の香港国家安全維持法に賛成する国もあります。(6月30日の国連人権理事会では日英独仏など)27カ国が懸念を表明しましたが、今や70カ国以上が賛成に回っています。
陳言氏「接する情報によって結論は違ってきます。どちらの情報を大事にするか。中国と緊張関係もあったベトナムをはじめ70カ国以上が賛成する状況から、中国指導部は(同法施行が)正しかったと判断するでしょう」
及川氏「賛成する国々は中国からモノを買ってもらう貿易関係があると思います。根っこにはそういう部分はあると思いますが、70カ国以上が賛成するのは内政干渉の問題とか、カネだけでない部分もあるでしょう。そこをきちんと見ていかないといけない」
■毎日アジアビジネス入門ONLINE講座シリーズ4
「対論・米中関係とビジネス」ONLINE講座
▽第3回 7月31日(金)19:00~20:30(日本時間)
「日本と米中関係」
https://peatix.com/event/1534764/view
■講師:陳言(ちんげん) 北京在住 経済ジャーナリスト、日本企業(中国)研究院執行院長、NewsPicks コメンテーター
1960年、北京生まれ。82年、南京大学卒。82-89年『経済日報』に勤務。89-99年、東京大学(ジャーナリズム)、慶応大学(経済学)に留学。99-2003年萩国際大学教授。03-10年経済日報月刊『経済』主筆。10年から日本企業(中国)研究院執行院長。現在は「人民中国」副総編集長も務める。
■講師:及川正也(おいかわ・まさや) 毎日新聞社論説委員、元北米総局長(ワシントン)
1961年、神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒。88年毎日新聞社に入社。水戸支局を経て、92年政治部。激動の日本政界を追い続けた。2005年からワシントン特派員として米政界や外交を取材。13年北米総局長(ワシントン)。16年から論説委員。毎日アジアビジネスレポートに「米国のアジア人脈」を長期連載。
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