シリーズ:米国のミャンマー人脈④ ロヒンギャ迫害にこだわった下院外交委員長 今期限りで引退するエド・ロイス氏 毎日新聞論説副委員長 及川正也

米国では11月の中間選挙で上院は与党・共和党が多数派を維持する一方、下院は野党・民主党が奪還し、1月から新たな勢力構成の議会が始まる。今回の中間選挙は女性や人種的マイノリティーの活躍が注目されたが、一方でポール・ライアン下院議長(共和党)をはじめ多くのベテラン議員が引退する。共和党きっての人権派議員で、カリフォルニア州選出のエドワード・ロイス下院外交委員長(67)もその一人だ。2007年の米下院でのいわゆる従軍慰安婦決議を主導したことで日本でも知られるが、最後の1年のリーダーシップは、ミャンマーでのロヒンギャ迫害問題に注がれていたといっていいだろう。ミャンマーへの逆風が世界的に吹き荒れる中、「人権」を立脚点にミャンマーと向き合った「外交のプロ」が残したものは何だったのだろうか。

ミャンマー非難決議で締め括り

年末も押し迫った12月13日、すでにレイムダックセッションとなっている米下院本会議で一本の決議案が採択された。ミャンマー北部ラカイン州で起きた2017年8月以降のミャンマー軍と治安部隊によるイスラム教徒少数民族ロヒンギャへの残虐行為が「人道と大虐殺」の罪にあたることを認識すると同時に、襲撃事件の取材で7年の懲役刑の判決を言い渡されたロイター通信のミャンマー人記者のワロン、チョーソウウー両氏を解放するよう求める、という長いタイトルの決議案だ。ロヒンギャへの襲撃を「大虐殺」(Genocide)とみなし、アウンサンスーチー国家顧問兼外相とウィンミン大統領に2記者のほか投獄されている他の記者や政治囚に恩赦を与えるよう求めている。採決では賛成394、反対1と圧倒的な差で、反対の1人は保守派の共和党議員だった。

決議案を支持したエド・ロイス下院外交委員長は採択に先立つ下院本会議での演説で決議案の意義をこう強調した。「この決議によって下院はロヒンギャに対する残虐行為がまさに『ジェノサイド』と命名することに前進した。ラカイン州の大多数を占めるロヒンギャはしばしば『世界で最も迫害された少数民族』と呼ばれる。ロヒンギャは何世代にもわたってビルマに住んでいるにもかかわらず、ビルマ政府は市民と認めることを拒んでおり、ロヒンギャは事実上の流浪の民になっている。ロヒンギャに対する制度的規制は教育や仕事、旅行、医療、宗教、結婚など多岐にわたる権利を阻害している」。演説の端々から伝わるのは、ロイス氏ならではの強い人権意識だ。「普遍的価値観を強固にするために果たすべき責任が米国にはある」と述べていることにも、その意識が表れている。

ロイス氏は9月26日に現地で活動する非政府組織(NGO)の代表らを招いた下院外交委員会の公聴会を主催し、「人権の保護はアウンサンスーチー氏の解放にさかのぼって米国は最優先に位置づけてきた。ロヒンギャの保護も対象だ」と冒頭で述べている。ロイス氏をロヒンギャ問題に駆り立てた決定的な要因は、9月に国務省が発表した独自調査だった。約100万人のロヒンギャが隣国のバングラデシュで避難生活を送るが、国務省の聞き取り調査による証言はむごいものだった。村を襲撃され物陰に隠れたある女性は、ミャンマー兵士らが赤ん坊や子供を川に投げ込み、救おうとした母親たちに銃を乱射して殺害した場面を目撃したという。米政府は「ジェノサイド」という表現を避けているが、「こうした犯罪をジェノサイドと呼ぶのが米国の道徳的規範だ」とロイス氏は訴えるのだ。

及川原稿P

ロイス下院外交委員長(左)とアウンサンスーチー氏=2016年9月、米ワシントンで。米外交委員会のホームページから

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