雨の日が好きなもんで

 私は雨の日が好きである。天気に体調が左右されやすいため、雨の日は頭痛も関節痛も襲いかかってくるが、「負けて…たまるか…!!」なんて少年漫画みたいに呻きつつ用事もないのに私は外に出る。だって楽しいんだもの。

 

 幼い頃から雨が大好きだった。傘を持っているのにあえてささず、水溜りを見つけては突っ込んでいく子供だった。周りの人たちがみんな傘をさし、水溜りを懸命に避ける中で、独りまるで恐れを知らない勇者みたいに全身で雨を感じるのが、幼心に粋な感じがした。雨の音や、雨粒に叩かれる感触が好きだった。皆に見られるのも心地よかった。言ってみれば雨の日限定のスーパーモデルである。濡れて鏡のようになったアスファルトがランウェイ。俯く人の中、目に雨をいれながら歩く私はとっても特別な存在になった。

もちろん家に帰ると母は「なんでこんなにびしょ濡れになるの」と驚いたが、それでも怒らずに、急いで持ってきたタオルで優しく頭を拭いてくれた。これも雨の好きなところの一つだった。雨の日は、そんな幼い高揚感と、あたたかい記憶を思い出させてくれる。


 今はもう、私も世間の目を気にして濡れネズミにはなれないが、成長しても未だに雨が好きである。雨の日の楽しみ方大人ver.を見つけたからだ。雨エンジョイ組に入るのに必要なのは2つだけ。見ているだけで心が踊ってしまうような傘と、長靴である。

 

 幼い頃から片鱗があったが、私は中々に目立ちたがり屋な派手好きに育った。しかし、傘は地味だった。可愛いが無難なクローバー柄や水玉柄を使いつつ、心のどこかで物足りなさを常に感じていた。雨の日は傘に隠れて人の顔なんてほとんど見えない。加えて、傘を広げた内側は自分だけの空間、つまり移動式の自分の部屋と言っていい存在になる。私は顔が見えないなら傘で自分を好きに飾りたいし、自分の部屋は自分の好きなもので満たしたい。どこかにしっくりピッタリくる傘はないものかと、傘売り場を見かけてはふらふらと立ち寄ったりしていた。

 そんなある日、旅行先で奇跡が起こった。発見して立ち寄ってみた傘屋の名前は『北斎グラフィック』。惹きつけられた傘に描かれていたのは、『極楽鳥花』という花だった。画像を載っけていいものか分からなかったので、店名と花の名前で検索してみてほしい。超ド級に美しい傘である。

 まず傘の殆どを覆うようにドドデン!と描かれた花の構図の美しさ。瑞々しい緑に、はっとするほど鮮やかなオレンジのガクと青い花弁。水彩画のような色合いは、まるで雨により絵の具が滲んだようだ。派手な風合いだが、傘の地が和紙のようなデザインになっていることや、持ち手が木であることによってどことなく和を感じさせる上品さがある。もちろん壊れにくく、大きさは私好みの少し大きめ、重さはこれまた私好みの軽すぎず、重すぎずの絶妙なラインだ。スタンディングオベーション、拍手喝采、まさに完璧。Ki・mi・ni・mu・chuである。しかもこれ、雨の日に実際にさすと、水溜りやアスファルトに傘の色が映り込むのである。世界…私色に染まっちゃってる……?ってな気分である。最&高。


 さて、ここまでが一つ目、見ているだけで心が踊ってしまうような傘の話である。大好きな傘が一本あれば、道を歩くだけで楽しい。私は雨の日は服装を傘に合わせ、あえてモノトーンにして傘の色を際立たせたり、色合いを合わせてカップルコーデと洒落込んだりするようになった。服を選んでいるときの気分はトキメキに溢れてほとんどデート前だ。傘、大事。


 次に長靴だ。これが必要な理由はシンプルである。


 避けて楽しいもんは何もねぇ!!!!!


 これだ。唐突だが、私は虫が好きだ。それは虫がトラウマになりそうな出来事があっても、決して虫を避けなかったからだ。嫌いな食べ物もない。それは味が苦手でも、焼いたり煮たり、どうにかしてコイツを食べてやろうと負けん気が働いたからだ。私の考えだが、避けると恐怖が大きくなっていく。遠ざけるから、接する機会も減って、たまに現れると必要以上に体が反応し、心に更に恐れを刷り込んでいく。

 私は嫌いなものが少ないほうが生きやすいし、色んな世界に苦手意識なく触れられるから楽しくね?と思う。ゆえに、こう考えるのだ。


 水溜りも避けない方が楽しくね?


 水溜りを避けると、少し足が濡れただけでも嫌な気分になるし、お気に入りの靴がぐしょぐしょに濡れて靴下まで……という悲惨な状況になったら気分はガタ落ちである。誰しもが水溜りを憎み、雨を恨むだろう。

 しかし、だ。長靴を履けば、全てが解決する。道の真ん中を占拠する大きな水溜りの中を悠々ジャブジャブと突き進み、風に煽られた雨粒が降り注いでも靴にシミができることはない。アメニモマケズ、カゼニモマケズ。下ばかり見ないで、いつもとは違う雨の日の街を眺める余裕だってできる。きっと雨の日に特有な美しいものを沢山見つけられるだろう。

 人によっては、長靴はダサいと考えるかもしれない。中学生あたりから急に長靴を嫌がりだす人も多い。しかし、今の長靴はオシャンティで多様である。私はHunterのショートレインブーツを愛用しているが、紺色に赤と白のロゴが入った、どんな服にも合わせやすい一品である。街を歩くだけなら長さは必要ないので、レインシューズといってもスーツに合わせやすいオフィスシューズ型や、学生にオススメなローファー型などを、様々なメーカーが販売している。せっかくTPOに合わせた長靴が履ける時代なのだ。ぜひとも「雨の日はいらない靴派です」な人にも試してみてほしい。雨が多いこの頃、何も避けずに歩けるだけで、QOLが爆上がりします。多分ね。


 以上が私なりの雨に対するお気持ち表明である。雨が嫌いな気持ちもわかる。全然それでもいいと思う。でも、「雨の日も楽しく生きていきてぇなぁ〜」なんて少しでも思うのなら、参考にしてみてほしい。大切なのは前のめりな気持ちである。「今日こそ、雨を味わい尽くしてやる……」という心意気で雨と向き合い、友となってほしい。好きなものなんて、なんぼあってもいいですからね。

#雨の日をたのしく

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