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【4】ちゃんの好物
『ちゃん』が夜現れてくることに、次第に私たちは慣れていった。
『ちゃん』も、宿題をしているナッツに「ナッツ何してるの?」と話しかけたりもした。
ナッツが
「ね。なんで、ナッツ、アカルンって私たちの名前わかるの?」と質問した。
「だって、ここに入ってるもん☆」と、『ちゃん』は自分の頭を指さしてにっこり笑った。
ケイの体にいると、『ちゃん』にもケイの頭脳に入っている知識が少しは使えるらしい。それは、こっちに来るたびに増えていっているようだった。
でも、それはあくまで「知識」なので、『ちゃん』にはそれを「体験」したり、特に「味わいたい」という好奇心がたくさんあった。
例えば、「これ!?みかん?」とテーブルの上のみかんを嬉しそうに指さして、
「すっぱい?」と聞くんだけど、【すっぱい】とはどういう感じなのか、全くわからないようで、興味津々、ワクワクがとまらないご様子。
「食べてみる?」とアカルンがむいてあげ始めると、オレンジの皮の方を口に入れようとする『ちゃん』。
ナッツがあわててとめて、中身のミカンをわたすと
ぱくっと口に入れて
「ん!?おいし!すっぱい!!?」と笑いながら顔をゆがめて、大笑いをして
「おいしぃ~♪すっぱ~い!」と大満足。
そして
「地球人って、グルメだねぇ~。」て。
「え。ちゃんの星には美味しい食べ物ないの?」とナッツが聞くと
「あるよ。美味しいって食べ物♪。食べ物は全部美味しいんだ。」
「んーでも。甘いけどすっぱい。とか、そんな複雑な面白い味まではないよ。
こんな、苦いとか辛いとか甘いとかすっぱいとか!
いろんな味が存在してて、地球は面白いねぇ~♪
おまけに、それを味わえる舌があるなんて、人間も面白いね~♪」
と、『ちゃん』は純粋なきらきらした目を生き生きと輝かせながら答えた。
『ちゃん』に言われると、本当にそうだなぁってみんな気づく。
ありがたいなぁって。
とりわけ、『ちゃん』の好物は、果物全般。
そして「梅風味茎わかめ」とか「梅酢たこ」とか、すっぱさが入ったものが多かった。
ケイはすっぱいの苦手なのに!
そういえば、ゆで卵も好きだった。
お醤油かけて食べてみたい♪とリクエストがあって。
ケイが寝てからゆで卵をつくり、お醤油を用意してあげたら、本当に美味しそうにお醤油をつけて食べたっけ。
娘たちも私も、ゆで卵なんていつも食べてるのに、『ちゃん』があまりにも美味しそうに食べるもんだから、真夜中にもかかわらず、みんなでゆで卵食べて「美味しい~♪」って。
毎晩、ケイが眠ってから、『ちゃん』がケイの体に入って起きてきて。
いろんな食べ物を食べたがるので、あの頃の私たちは小人と一緒に夜食を食べる変な家族になっていた。
仕事から遅く帰ってきて、いつも夜中に一人夕食をとっていたパパは、いつもよりにぎやかな、夜の食事を不思議そうな顔をしながら、でも受け入れて一緒に食べていたのも、今思うとおかしくなる。
でも。
「さぁ☆今夜も地球の美味しいものを味わおう♪」
とわくわく嬉しそうに食べる、『ちゃん』の姿を見るたびに、私たちも嬉しくて幸せな気持ちになった。
その頃、旦那は転勤前の一番お仕事が忙しい時期で…
ナッツは進学校の高校で、毎晩山のような宿題をしている時期で…
アカルンは過敏性腸炎で、中学校をお休みしている時期だった。
それでも。
夜、『ちゃん』が出てきて、あの純粋なエネルギーで私たち全員を巻き込んで、「地球」という【面白くて楽しくて珍しい素敵な星】を心から楽しんでいる姿を見るのは楽しかった。
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