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私の貧血のお話③


②の続きなります。

救急車のストレッチャーから病院内救急の診察台へ。

「自分で移れますか?」

「はい、出来ます」

「ゆっくりでいいですからね」

身体を横たえると直ぐに、指先や胸には幾つかの器械が取り付けられた。
全く無駄のない、流れるような動き。

左腕には点滴。

「病院に行きましょう」と言ってくれた救急隊の方が、病院の先生と話しているのが見える。

ここまで運んで来てくださった救急隊員の方々とは、ここでお別れだ。

私はお礼を伝えたかしら。

伝えられたと思う。おそらく。

救急車からストレッチャーごと降ろしてもらう時に、
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」

自分の周りに誰がいるのか分からなかったけれど、「降りる時は必ず言うぞ」と決めていた。
言葉は真っ暗な夜に向かって溶けていった。
たぶん私は言えたと思っている。


総合病院の夜の救急。
何処もかしこも怖いほど明るい。

医療従事者の方々が慌ただしく動きまわっている。

私の右隣りにいる患者さんのいびきが聞こえる。
この場にいる先生が、その患者さんのことで、別の先生と電話で会話している。
カーテン越しなので丸聞こえだ。

さっきから私のところにも看護師さんが来ては何かをして、その数分後にはまた何かをしている。

今から〇〇をしますね
気分は大丈夫ですか?
苦しかったりしませんか?

どの方も丁寧に説明をしてから、処置にあたってくれる。

循環器内科のものです、と名乗った若い男性の先生が、救急隊員さんからの聞き取りと合わせて、もう一度、私の話を聞いてくれる。

腕時計を見ると、もうすぐ次の日になろうとしていた。

この明るい部屋の中、どうにもならない自分がいて、身体を診ていただいている。
まな板の鯉って言うのだろうな。
私、苦しくも何ともないのに、ここに居てしまいごめんなさい。

今から心臓のエコーをしてもいいですか?と先生に聞かれた。

よろしくお願いしますと伝え胸を出すと、周りのカーテンを閉めて、女性の看護師さんがエコーに同席。

冷やっとしたジェルの感触とエコーのグリグリ。
7月に受けた乳腺外科でのエコーを思い出す。

「心臓、エコーでみる限りは特に異常はないです。

こちらに到着してからずっととっている心電図も異常は見当たりません。

状況としては落ち着いてきていると思われます。
高血圧もあるので、循環器内科のあるところを受診されて、必要であれば24時間ホルター心電図などもされるといいかと。
こちらの心電図、お渡ししましょうか。

あとは血液検査の結果を待って、それが出てからお帰りいただくことになります」


結果が出る頃に、この点滴は終わるのかな。

点滴をするなんて何年ぶりだろう。

11年前。次男を産んだ時には点滴したよな。
出産直後に弛緩性出血を起こしたからか、入院中は何日か点滴していた。
面会に来た3歳になったばかりの長男が、
「お母さんは、これ、痛くないの?」と聞いたら
看護師さんが点滴の説明をしてくれた。
「ママが元気になるようにしてるのよ」

ポタ、ポタ、ポタ、と規則正しく落ちる液体を見上げていると、救急車が到着し、急患が運ばれてきた。
一気に慌ただしい空気になる。

「コロナじゃね?」
どこかから声が聞こえる。

待合のところに居るであろう夫は、どうしているかなと思う。

先生は「ご主人にも『あとは血液検査の結果待ち』と伝えてあります」
とおっしゃっていた。

ごめん、みんな。
子ども達はもう寝たかな。
二世帯同居している母は、心配し過ぎて血圧が上がっていないかな。

あと少しで帰るからね、そういえばここって何処なのだろう……そう思っていた時だった。

先程までの穏やかなムードとは違う、緊張感が漂う表情の先生だった。

「血液検査の結果が出たのですが、今日はこのまま入院していただきます」

え?へ?

入院?!私、入院??

「ヘモグロビンの数値が異常に低くて……これは生命維持には危険なレベルです。お帰りいただく訳にはいきません」

それ本当に私の検査結果でしょうか?誰かと間違えてはいませんか?と聞き返したくなった。

「あの……最近、大量に血を吐かれましたか?」

「吐いていません」

「ものすごい量の下血をなさいましたか?」

「していません」

「これから検査しないと詳しくは分かりませんが、あやしもさんの身体の中、どこかで出血しています。それを突き止めないと。
でもまずは輸血です」

ゆ、ゆ、ゆ、輸血????!!!!
輸血とは、どなたかの血をいただくものですよね?
今すぐに血が必要な人がするものですよね?命に関わるような……手術だとか……

「あやしもさんは重度の貧血です。今すぐ輸血が必要です」

どうしよう、家に帰れなくなってしまった。

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