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運動が好きじゃない家族の通う塾

長男が3年生のとき、一学期の終わりに行われた個人面談。
開口一番、担任の先生に言われたのは

「運動系の習い事をさせてください」

え?は??

先生とはまだ初対面に近い状態で、あいさつの次の言葉がそれ?

「体育の授業の時の動きとか……あと、去年の、2年生の運動会の「表現」のビデオも観たのですが……えーと、はっきり言うと、親御さんの方から〇〇(長男)くんにもっと働きかけて、彼に運動をやらせないと、って僕は思います。私の言っている意味、お母さんならお分かりですよね?あの2年生の踊りとか…ちょっと……ですよね、ククククク…(笑)」

ものすごく頭にきて、あんた、うちの子に何言ってんの!!確かにみんなとワンテンポずれたりしてるけど、一生懸命やってるんだぞ!とその場でモンペ化しそうだったのだが、顔を引きつらせながらその言葉を飲み込んだ。

サッカーは?野球とかどうですか?スイミングは人気ですよねーと先生の提案を聞いているふりをしながら、私の中はグツグツと煮えたぎっていた。


「どうだった?先生、オレのことなんか言ってた?」と聞く長男には、
いい子ですねって誉めてくれたよと返事。い、言えない。言いたくない。

子ども達が居ないときに、夫にこの面談の話をした。
猛烈に怒りながら。何てこと言うのかしら!ものすごく失礼じゃない??
うちの子は運動嫌いなんだし、体育の授業をがんばって受けているだけでいいじゃないねぇ!?運動会だって嫌がっても休んだことないし!もう、校長先生にこのことチクろうかしらっ!!
夫に思いっきり話したことで、次第に落ち着いてきた。
冷静になって頭に浮かんだのは、うちの子ども達は一度も習い事をしたことがないことだった。

実は前々から「習い事」にはひそやかに興味があった。
スイミング、ピアノ、絵画教室、公文、英語、サッカー、野球、そろばん、柔道……お友達たちが通う習い事。
自分から行きたいと言ったり、親御さんの方からのアプローチだったり。お友達がやるなら自分もやる、だったり。

長男はずっと前から「習い事?オレ、興味ナシオちゃんでーす♡」と一貫してるし、次男は「ぼく、別にいい」だし、私や夫からも何をすすめるもなく今まで過ごしてきた。
兄は小学3年生、弟は年中。
小学校や幼稚園以外での〝何か”を体験してみるのも年齢的にわるくないのでは?と思っていた。

「例えば、こんなところがあるのだけど……」と
夫はあるキックボクシングジムのことを話し始めた。


キックボクシングジム
うちから近い場所にあるそのキックボクシングジムは、夫が仕事で取材させてもらったところだった。私もそのジムの場所だけは知っていた。

「○○塾」

という名称で、道路に面した部分がガラス張り。通りからジム内の様子をほぼ見ることができた。リングがあって、トレーシングマシーンいくつかあって、壁一面が鏡になっているプレイスペースがある。奥にはサンドバックが吊るしてある。
ジムが開いている時間帯にその前を通ると、グローブを着けてミット打ちをしている方やエアロバイクをこいでいる方が見えた。すごい迫力!

「○○塾に、親子で参加できる運動のクラスがあるみたいなんだ」

「それって、キックボクシングを親子でやるってこと?」

「キックボクシングっていうよりは…ホームページを見ると、楽しみながら身体を動かそう、みたいな感じだよ」

さっそく○○塾のホームページをチェック。
プロの選手やアマチュアの方、筋トレしたい方、ダイエットしたい方など、さまざまな目的を持った方々が来ている。総合格闘技のクラスもあったり、腹筋や柔軟のトレーニングに特化したワークショップ的なものもあった。

夫が言っていた「親子で運動するクラス」の紹介コーナーを見つけた。ああ、夫が言っていた意味がわかる。運動というより遊びの要素が強いのかな。でもしっかり身体を使っている。筋トレだよね、これは。
これなら一回くらい行ってみてもいいかなという気持ちに、まず私自身がなった。
〇〇塾には「体験」というのがある。
この「体験」をしてみてから考えたらどうだろう?

運動が好きじゃない兄弟と母
長男は運動が好きじゃない。「体育」がいちばん嫌いな教科。
次男も長男ほどではないが、好きじゃない。幼稚園の「体操の時間」を嫌がる。

二人とも幼稚園で「体操着を着る」ことを嫌がった。兄は逃げ回って隠れたりしたと先生から報告があった。
私はその気持ちがよくわかる。自分も同じ。体操着を着て赤白帽を被って体育座りしてると、これから運動するのだと思うと、緊張しておなかが痛くなってくる子どもだった。小中高校とずっと。

兄弟に「体験」に行ってみないか?と話したら、

次男
「みんなが行くなら、ぼくも行ってもいいよ」
ありがとう。本当に助かる。

長男
「イヤ。なんでオレがそんなのに行かなきゃなんないの?」
キタコレ。その通りだと思いますよ。今からお母さんの思う事を話すから、ひとまず聞いてくれる?

担任の先生から、○○(長男)が「もう少し、体育の時に自分から身体を動かすことが出来るといいですね」ってお母さんにお話しがあったの。先生はスポーツをやらせたらどうですか?って言ってきた。○○(長男)はスポーツだったら……何が好き?(答えはわかっているのだけどね……)

「全部嫌い、だぁいっっっ嫌い」

だよねー。○○(長男)にだけに何かスポーツしなさい、運動の教室に行きなさいっていうのは、お母さんもお父さんも嫌なんだ。嫌いなのを無理やりはさせたくないの。それも○○(長男)一人でね。
うちから歩いて行けるところに、キックボクシングのジムがあるの。□□駅の近くだよ。そこにお父さんもお母さんも○○(次男)もみんなで一緒に行ってみるのはどうだろう?

「嫌だ、オレは行かない」

わかった。(想定内です)じゃあ、『体験』っていうのがあるから、それに一回だけ、行ってみるのはどう?体験はお試しってことなの。どうかな?

「一回だけならいいよ」


はじめての体験
体験を申し込んだ私たちは、みんな緊張していた。表情が硬いのは兄弟だけではなく私も。体験のクラスは私たちしか居なかった。

背が高くて、見るからに運動神経よさそうな若い男性のトレーナーさん。
彼が「親子で運動クラス」の先生だった。
夫は、先生と会ったことがあった。夫がジムを取材させてもらった時に対応してくれたのがこの先生だったとのこと。ボクサーなんだって。

さあ、はじめましょう、よろしくお願いしますと準備体操を始めるも、私には20何年かぶりの運動(高校の体育以来…)で、うまく身体が動かない。みんなとワンテンポずれているのがわかる。
兄弟は?さすが現役だ。小学校や幼稚園での体育の時間のおかげか、先生のリードについていっている。すごいぞ。

夫は大丈夫。

夫は平日、出勤前に運動をしている。

我が家には「トレーニングルーム」と呼ばれる畳二畳半ほどの小部屋が存在する。
床には青いトレーニングマット、天井からサンドバックが吊るしてあり、友人から譲り受けたベンチプレスがある。鉄アレイがあったり、ヌンチャクやサイ、その他名の知れぬ武器や筋トレアイテムがある。

大学で空手を始めて、社会人になってからも続けている。

朝7時に朝食をとり、8時半くらいから1時間ほどトレーニング。汗だくになり入浴、10時半に昼食、11時出勤。

「運動が好きなのね?」には、
「好きじゃない」と即答する。長男のように。
「好きじゃない、でも、しないと身体が重く感じる」
わかるようなわからないような……(笑)


「親子で運動」の内容の一部
・床に「ラダー」という縄ばしご状の器具を置き、先生のステップを正確に真似る→片足ケンケンやジャンプのようなシンプルなものから、サッカー選手の足さばきのような複雑なものまで多様なスタイル。

・親子でペアを組み、背中合わせになる。ボールを上下、左右からスピーディに渡し合う。ボールが落ちてしまったペアは罰ゲーム。

・床に青白黄色オレンジの4色のマーカーコーンを置いて、親が指示した色を子がタッチ。「青、黄色、白、オレンジ」のように。指示とタッチを交代で行う。

・サイコロの目ごとにメニューがあり(例えば1ならプランク40秒、5だったら腹筋20回だとか)6面全部制覇するまで全員で順番に振り続ける。(連続して同じ目が出るとブーイングと大笑い)

遊びながら筋力アップ、脳トレにもなる、というメニューが次から次へとテンポよく展開される。
親が子の足を持つ「手押し車」や親子で押し合う柔軟。親チームvs子チームの足ジャンケン。
ひたすらに腕立てしたり、スクワットしたりではなくて、その動きがうまく組み込んであるのだ。

先生の指示を理解してそれを正しくこなしていくのが、大変だった。
人の動きをよく見てインプット。
自分の身体を使ってアウトプット。
5才と8才と43才にはなかなか難しく、でも、ちょっとでも出来たときには大きな喜びだった。
先生の、全員のやる気を引き出す声かけも、出来たときの誉め方も、過剰ではなくちょうどよく私たちにフィットした。

1時間半のなかで、終わり間近の15分くらいがグローブを着けてキックボクシングの時間。
ひとりずつリングにあがり、ミットを構えた先生に「お願いします」とあいさつをしてから始まるミット打ちタイム。ひとりあたり約2分間。

パンチにはジャブ、ストレート、アッパー、フックがあるのを初めて知った。
キックには、ミドル、ハイ、ロー、そして膝蹴り。

うまくはできない。
正直、すごく恥ずかしい。
でも、体験したことのない楽しさと興奮が入り混じった、熱い感情。
よくわからないけれど、これは楽しい…!!!

空気がやわらかいのだ、と思った。
無理やりやらされていた感の強い学校の体育とは違う。先生の怒鳴り声も、同級生のからかいの声も視線もない。ただひたすら自分の身体を動かしている。私の身体はこんなに動くんだ、こんな動きが出来るんだと感じる時間。

兄弟は、本当の気持ちはわからないけれど、リングの上で終始笑顔。
先生のフェイントに笑い、先生のミットにヒットする爽快な音に思わず口元がニヤリ。「あと20秒!ラスト!ガンバ!ガンバ!ガンバ!!」と言う先生に、笑いながら猛烈にパンチを繰り出していた。

最後のストレッチをして「ありがとうございました」のあいさつをした時、私の心はほぼ決まっていた。
ここなら、楽しく運動が出来る気がする。
家族全員で。興味ナシオちゃんも一緒に。
やってみようよ、『体験』を終えた帰り道、3人に話した。

「嫌だよぉー、一回だけって言ったじゃん」と長男。
「みんなが行くならぼくも行く」と次男。
「ミット打ちだけやりたい」と夫。



あれから3年が経った今も、私たち家族は月に2回ほどのペースでこの塾に通っている。

毎回のように「オレは運動が嫌い」と言い続けている長男は、休憩時間に先生とガンダムの話をする時がいちばん楽しそう。苦手な柔軟運動もがんばっている。長男、がんばる姿がすごくかっこいいよ。

幼稚園時代は一回も飛べなかった縄跳びが小学生になって得意になった次男。ラダーでは難しいステップが得意。「丁寧に」を意識しているのが伝わってくる。彼がいちばん苦手な科目は「書道」とのこと。

夫は、筋トレや柔軟をこなしつつ、ミット打ちを楽しみにしている。
私は知っている。
夫の番になると、先生はミットを「プロ用」のにそっと持ち替えるのを。

私自身、運動やキックやパンチが上手くなったのかは正直わからない。
運動は相変わらず好きじゃないのだけれど、家族で笑いながら身体を動かす、この時間が大好きだ。
自分の身体の力を感じ、信じて、「私、ちょっとすごいかも!」と思えるこの時間が好きだ。
この塾のおかげだと思っている。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
きっかけを作ってくださった長男担任の先生にも感謝。
モンペ化はしないけれど、いつかモンスター級なキック&パンチが出来る日をめざしてがんばります!

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