私の貧血のお話④
③の続きになります。
「健康診断は受けていらっしゃいますか?」
先生に聞かれた。
毎年受けてはいる。
それは夫の会社の扶養家族用のもので、生活習慣病を見つけるための内容だった。
一般的な健康診断ではないと思う。
採血し血液検査もあるのだが、そこの項目は血液全般(血算)ではなくてと……先生に話した。
確か中性脂肪、コレステロールだとか、肝機能のもの、γナントカだとか、そういうものだけです、と。
赤血球数が、白血球数が、ヘモグロビンが、血小板数が、という項目がない。
14年前の長男出産後、それまで低かった血圧が上がってしまい、高血圧になった。
甲状腺の検査をしたが、異常なし。
しばらくすると下がり、その3年後に次男出産。
また血圧が上がった。
そして今度は、時間が経っても下がらなかった。
高血圧のまま暮らしていくのは危険だし,つらい。
脈拍も多めなので、頻脈を抑える効果もある降圧剤を飲むことなった。
この薬を処方してもらうために2ヶ月ごとに受診している近所の個人クリニックのおじいちゃま先生(私の母と同じ歳。75歳)には、毎年の健診結果(生活習慣病に特化したもの)をチェックしてもらっている。
「どの数値も大人しくて、面白くないね」
おじいちゃま先生のこんな物言いが好きだ。
地元の、街のお医者さん。
「この検査項目になくても必要があると思われる検査は、こちらでしてもらいたい」と伝えていた。
「うーん、そうね、貧血かな,怖いのは。あっかんべーしてみてくれる?うん、大丈夫でしょう」
「この健康診断だと足りてないところが多いよねぇ」
ずっとこんな感じだった。
検査や病院が苦手な私は、これでいいと思ってしまっていた。
おじいちゃま先生が「いい」と言ってくれると勝手に解釈していた。(私に自分に都合よく受け取っていた。「何もしなくていい」とはおっしゃっていない)
とりたてて何かが特別悪くなることも無く過ごしてきた数年間。
子ども達からうつる感染症になるか、過労が溜まって寝込むことが年に1、2回くらい。休めばまた復活する。
私よりも、家族の体調の方が気がかりだし、実際のところ、いろいろ起こる。今も起こっている。
子ども達、夫。
別の階に住む母、弟。
自分の身体の事と言えば……生理が重くて、この数年がとてもつらいこと。
日々疲れること。みんなそうだと思う。
身体を動かせばドキドキドキ程度の動悸がすること。
(後から思うと貧血の症状なのだが、この時は「加齢」「更年期」だと思い込んでいた)
婦人科のクリニックにも頻繁に通っていたことを救急の先生にも話した。
「それって生理の、月経量が多いということですか?」
はい、そうです。
更年期と言われる年齢だし、閉経が近いからではないか?と言われました。動悸も、倦怠感も、時々身体がふわっとなるのも、女性ホルモンの変動のためでしょうねと。
低容量ピルを飲むことも一度提案されましたが、飲んではいません。
漢方を処方してもらい、短期間飲んでいました。
子宮頸がん検診は毎年受けています。
エコーでは、筋腫があると言われたことがあるのと、子宮が、人よりも大きいそうです。
「詳しい検査をしなければ分かりませんが、体内からの出血の原因として、消化器からと、女性では子宮からというのが考えられます。
今のお話を聞くと、私の個人的な考えですが子宮筋腫が怪しい気もします。
今出来るのは造影剤を入れてCTを撮ることとレントゲンなのですが、それだけでも直ぐやりませんか?」
入院確定になった事を聞かされていた夫と、CTを撮りにいく前、ほんの少しだけ対面が許された。
「家のことは大丈夫だから。今日は帰るけど、また明日面会に来るからね」
夫は落ち着いていた。
彼はいつもそうで、私はそれに救われる。
夫に、先生が問いかけた。
「奥さまのお顔、なんだか黄色いなぁと思いませんでしたか?」
「毎日見てるので、よくわからないです」
後日夫から聞いたのだが、その時先生に言われて見た私は真っ黄色な顔だったという。そ、そうなの?知らんかった!「よくわからない」と彼がその場で言ったのは、言われてみたらあまりにも黄色くて驚いたからだそう。
車椅子を看護師さんに押していただきながら、先生と私と看護師さんで地下の検査室に向かう。
日付けが変わった夜の病院。
長い迷路のような通路。
不気味なくらい静かに動くエレベーター。
深夜たくさんの方が、ひとの命のために働いている。
検査室への道中、看護師さんから飲酒や喫煙のことについて聞かれる。
お酒は飲みます。タバコは吸いません。
「お酒は?ビールかな?どれくらいですか?」
「ビールです。一日350mlを1缶。いや、ロング缶の日もあります。ありました。350mlを2缶の日も……
毎日ではない……いえ、すみません、ほぼ毎日です。子ども達が夏休み中なので、イライラしたりしてついお酒の量が増えてしまって……」
「そうなりますよー。夏休みですものね。お子さんは?」
「小学生と中学生です、男の子ふたり。上の子は中3で受験生で……こんな時に私がこんなで……もうどうしよう……はぁぁぁ」
看護師さんが続けた。
「お父さんと息子さん達にがんばってもらいましょう。ね、それでいいんです。がんばれるものですよ、ね!」
先生にもあいづちを促す看護師さん。
先生もうんうんと頷く。
「生理の量が多いっておっしゃっていたけど、どれくらいですか?」
28〜30日周期で夜用ナプキンを昼間にも使う、
二日目、三日目は祭りのごとく出血があり、
2時間以内を目安に交換しないと、経血で衣服や寝具が汚れてしまう。
下腹部の痛みが強く、骨盤周辺や肛門の奥、足の付け根も痛く、頭痛や吐き気が起きる時がある。
市販薬の鎮痛剤が生理中は手放せない。
出血量は日に日に減るが、期間は8日間くらい。
近隣の婦人科ではがん検診やエコーでの異常がなく、年齢的に閉経が近いからでしょうねと言われたと。
痛みは、市販薬で効くならまだ大丈夫、倒れたり気絶したことはないですよね、と。
「その量は、明らかに月経過多ですよ。その生理はつらいですよ……」と車椅子を押してくれる看護師さん。
仲の良い女友達とも、ここまで細かく具体的には、なかなか話さない。
同級生や年齢が近い者同士、ママ友が集まると、生理の話にもなる。
最近すごくつらいんだよね、周期がめちゃくちゃでさ、量が増えてね、え?私は少なくなってきたよ、月に2回くる、もう終わりが近いのかな、私、閉経したかも、というような話題。
みんなも個々にそうなのだ。
大変だけど、みんながんばっているのだ。
私だけじゃない。私よりもっとつらい人もいる。
これくらいのことで。
私は家にいて、自由な時間が多いのに。
自分は婦人科を受診しているから、気になる事があればすぐ診てもらってきたし、頻繁に内診も受けているし、大丈夫と思っていた。
気絶したり倒れたりしたこともない。
市販薬を処方通りに飲んで効くし。(だんだんと効き目が悪くなってきているとは思ってきていた)
もっと踏み込んで痛みやつらさを医師に訴えたり、例えば別のクリニックを探してみたり、こちらから積極的により詳しい検査を要求しようとは思わなかった。
そうではない。
正直に書こう。
精密な検査や病気への不安、恐怖から、加齢や更年期のせいと思うことで、目を背けていた。
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