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背中センサー

その日はホットカーペットの上にペタリと座り『進撃の巨人』を読んでいた。大好きな漫画の時間。
「お母さん、今から『進撃』読むから邪魔しに来ないでね」

子供部屋の本棚から単行本を数冊抜き取って自室に引きこもった。
三連休、ステイホーム。お昼を済ませた家族はそれぞれに好きなことをして過ごしていた。
夫は録画がたまった特撮ものを鑑賞、長男はわりばし鉄砲製作、次男はゲーム。


お、か、あ、さ、ん

と後ろから呼ばれたと同時に、ぎゅっと背中に張り付いてきた大きくてあたたかい体。
次男だ。
「どうしたの?」
「えっとね、なんだっけ。あ、そうだ、〇〇(長男)がぼくが嫌なことを言ってくるの。注意して」

長男も部屋に入ってきた。
「てめー、お母さんにチクったな。この卑怯者め!」

二人は「このやろう」「あとでぶっ飛ばす」「おまえなんかカンチョーの刑だ」と笑顔でじゃれあいながら
「お母さんが『進撃』読む邪魔すんな、あっちで決着つけるぞー、うおーーー」
と騒がしく出て行った。

ひとり残った私は、さっきのぎゅっの感触をしみじみ思い出しながら、胸が苦しくなった。あんなに小さかった次男が、もうしっかり男の子なんだということに。柔らかくてふにゅっとしていたあの頃よ、さようなら。しっかりゴツくてかたかったよ。それに腕も見た目より長いんだね。私の背中センサーは一瞬にしていろんな情報をキャッチした。


大人の階段のぼっちゃってる
6年生の長男は思春期の始まりで、本人の言葉を借りれば「おれはね、大人の階段のぼっちゃってるからね!」とのこと。来月12歳なのよ、母親とのスキンシップなんてありえないっしょ!ポンポンポーン!

年頃の長男は微妙に「取り扱い注意」であるのに対して、次男はまだむこうから手をつないでくれる。ふっくらあたたかい手。次男は平熱高男。指をギュッとしたり手のひらをこちょこちょしたり、私たちは歩きながらもふざけ合う。


数年前までは腕の中ににすっぽりと入っていた次男。
喘息で、夜通しさすり続けた小さな細い背中、咳こむと苦しそうでつらそうで、できることなら代わってあげたかった。ネブライザーの煙のお薬、3年近く毎日がんばったよね。携帯サイズの、旅行にも持っていったの憶えてるかな。

不思議だなぁ、いつの間にこんなに大きな頑丈そうな男の子になっちゃったの?
来年くらいにはこの子も兄みたいに「取り扱い注意」になっちゃう?さみしいなぁ。

でもこれは彼の成長であり、受けとめよう。大きくなるってこういうことでしょ、嬉しいことだよ、と頭では理解しつつも、なんだか私だけ置いていかれたようにしんみりしてしまった三連休最終日の午後。

さあ、それは置いといて、好きなことしよう、漫画ターイム!と背中のセンサーをOFFにして『進撃の巨人』に戻ったのだけれど、さみしさや乳幼児の頃の思い出が身体の中を駆け巡ってしまって物語に集中できず。すみません、リヴァイ兵長。私、修行が足りないみたい。また出直してきます。










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