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カブトムシのてつや

去年の夏、我が家の兄弟の弟が初めてカブトムシを飼うことになった。名前は「てつや」、真っ黒な鉄みたいだし、強そうだからと弟が命名。

弟は虫が好きで、前々から「虫を飼いたい」と訴え続けていた。が、私が虫が苦手、兄はさらに苦手(アリがこわい)なため、ずっとのらりくらりとかわしていたのだ。弟がこんなにも夢中なのだから、カブトムシなら飼えないものだろうか?と家族で話し合い、一匹ならいいんじゃないか(オスのカブトムシなら兄が耐えられると宣言)という結論に達した。


「うちにいっぱいいるから、ぜひ一匹もらってほしい」

兄弟を連れてバスに乗りお邪魔したママ友のおうち。案内されたガレージには中くらいの衣装ケースが2箱あって、蓋ではなく目の細かい網が上からかけられていた。ケースごとにオスとメスが分けてるのは、「一緒にしておくとどんどん増えてしまうから」とのこと。オスのケースはさながら定員オーバー気味の男子寮のようで、あちこちで角と角を交えたバトルが繰り広げられていた。

「どれも同じに見える」

と言ったのは兄。彼は満員御礼なケースを見た瞬間「ひゃー!」一瞬身体が後ろに引けたようだったが(私も同じく)その場を離れることなく、ケース内を直視していた。

弟はかなり時間をかけて選んだ。手に乗せてみたり、木の枝にとまらせてみたり、ケースに戻したりを繰り返した。そして最後に

「やっぱ、これにする!!」

と言って一匹を選んだ。男子寮の中では身体が大きい方になるのではないかというオスだった。立派な角。丸々とした茄子みたいと思った私。

「最初にこれがいいなと思ったの。でも他のも見てみたくてみたけど、やっぱり最初のがいちばんよかったから」

8月1日、我が家にてつやがやってきた日。



てつやを見た夫は

「かっこいいなぁ!やっぱりカブトムシってかっこいいよ~」

と嬉しそう。男心をくすぐるのか。

てつやのケースを子供部屋に置くこと、虫嫌いの兄は反対するかと思いきやすんなりOK。てつやが昆虫ゼリーを食べる姿を兄弟横並びでじっと見たりしている。

弟「○○くんのカブトムシ、家にきて一週間くらいで死んじゃったんだって。てつやはまだぜんぜん死なないからすごいよね」

兄「学校から帰ってきたら、てつやがおれに角を振ってくれた」

夫「お父さん、てつやの鳴き声聞いたぞ。キューって鳴いてた」

男性陣3人のハートをわしづかみ。



ある時ケースの中に小さな虫(おそらくGの子ども…)が入ってしまった。昆虫ゼリーのにおいにつられたのであろう。その時の兄弟の騒ぎようったらない。

「お父さん!たいへん!てつやがやられるーーー!助けてあげて!」

夫、ケースから虫を出しながら

「てつやがこんな小さいのにやられるわけないだろう。虫の世界の王様なんだよ、カブトムシ。ほら、何事もなかったみたいにゼリー食べてるし」

「ほんとだー」「強いなー」「もう大丈夫だぞ、てつや」

昆虫ゼリーをあげること、むやみに手で触らないこと(ストレスになる)、適度な湿り気をマット(土)に与えること(乾燥に弱い)、できるかぎり涼しくて薄暗い場所にケースを置くこと(暑くない、明るくない所に)。

弟は登校する前にマットに霧吹きをするのが日課になり、マットが汚れてきたら新しいものと交換したりと、カブトムシなのでかなりシンプルなお世話ながらも〝生きものを飼うこと”を家族で体験していった日々だった。

「カブトムシのてつや 続」に続きます。




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