カブトムシのてつや 続
前回:カブトムシのてつや の続きになります。
9月になり10月になり、てつやの動きがにぶくなってきたことと、すぐ空っぽになったゼリーがなかなか減らないことに私たち家族は気づいていた。夏が終わり、もう秋が始まっていたので、それほど遠くない未来にてつやとお別れしなくてはならないのはみんなわかっていた。
「どうですか?てつやくんは?」
てつやをくれたママ友からのメールによると、あれだけたくさんいたカブトムシたちは10月半ばで10匹ちょっとになっているとのこと。
「毎年こんな感じです。長生きする子で11月ぐらいかな。動きがにぶくなったり、ゼリー食べなくなってくるのは見ていてもつらいよね」
11月になった。弱ってくると動かなくなるのだと思っていたけれど、逆にすごく動く。もういいよ…と思うけれど、ケースの中を動きまわり、ひっくり返ってしまう。ひっくり返っても、脚をケース内の木や葉っぱにひっかけて起き上がれるのは元気な証拠で、日に日に自力で起き上がれなくなってくる。
ひっくり返ったてつやを元に戻してあげるのが頻繁になってきたある日の夜、ほとんど食べなくなっていたゼリーの上に自力でよじ登った。
「てつや、ゼリー食べてるんだね」
弟は嬉しそうにケースを横目に見ながら宿題をしていた。しばらくして、てつやがゼリーの上から全く動かない様子を見て、私は静かに言った。
「あのね、もしかしたら、てつや、死んじゃったかもしれない」
弟はすぐにケースを開け、ゼリーの上のてつやを触った。その身体は固まってしまったみたいで、あれだけ動かしていた脚も角も、ピクリとも動かなかった。
ただならぬ気配を感じた兄も、別の部屋から飛んできた。
弟はてつやを自分の手のひらに乗せた。何も言わずにその場で手のひらに乗せて座り込んでいた。
私はあふれ出てくる涙を止めることが出来ないまま、
「よくがんばって生きてくれたよね。ありがとうだね」と言って、弟の背中をさすった。弟は泣かなかったけれど、小さい手のひらで、てつやの身体からいのちの重さを感じとっているように見えた。
兄の目はみるみる赤くなっていった。それから兄は家にあったボール紙でてつやを作った。
11月12日、てつやとお別れをした日。
ケースがおいてあった場所には、兄作の紙製てつやを置いた。家族みんながその位置を見る癖がついていて、何もいないと寂しいから。
てつやがお空にいってしまったことをママ友にメールすると、同じころに彼女の家の最後の一匹(メス)も動かなくなってしまったとのことだった。
「いまごろ天国できょうだいで会ってるね」
弟は笑顔で言った。
てつや、ありがとう。天国でもたくさんゼリー食べるんだよ。
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