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ロッカーのレタス

長男の、幼稚園年少さんの一年が終わりが見えてきたころに、子ども同士がなかよくしている数名で親子で遊びにいきませんか?という話が出た。

行き先は東京ドームシティの施設である「アソボ~ノ!」
屋内型のキッズ施設で、滑り台がついている海賊船がどーんとあったり、海に見たてたボールプールや、プラレールやトミカやおままごと、知育玩具系のゲームやトイなど、さまざまな遊びに満ちた空間。

私はこのての施設に一度も子どもと行ったことがなかった。
子どもとの行き先は、電車好き兄弟が、乗りたい電車に乗ったり、電車が見えるところに行くことを目的にしていた。

「あやしもさんも行かない?どう?」
長男のなかよし君のお母さんのひとりに声をかけてもらったとき、
最初は「ど、ど、どうしょう……あわわわ」と一瞬、躊躇してしまった。
ありがとう、次男(その時1歳になったばかり)を母にみてもらえるか確認してからお返事するね、とその場ではいったん保留にさせてもらった。

◇◇◇◇◇◇

幼稚園のお母さん同士のつきあいに、正直まだ慣れていなかった。
お迎えの時間には、子どものクラスが終わるまで保護者が決められた定位置で待つことになっていた。
お母さん達が楽しそうに軽やかにおしゃべりしているのを聞きながら、私は保護者へのお知らせ掲示板を凝視していることが多かった。

ぼっち気味な私に話しかけてきてくれるやさしい方もいて、その方のお子さんと長男がよく遊んでいると先生から聞いたりすると嬉しくなり、ゆっくり、ゆっくり、お迎え時間でのお母さん達とのコミュニケーションもとれるようになってきたところだった。
アソボ~ノ!に誘ってくれたのも、その彼女だったと思う。


長男に聞いてみた。
「○○くんと△△くんと▢▢ちゃんと◇◇ちゃんと一緒に、プラレールやおもちゃや滑り台がある楽しいところに行きませんか?って誘ってもらったのだけど、( 長男 )はどうしたい?」

「行くっ!!行きたいーーー」

長男の一言で行くことを決め、母に次男を半日お願いできるか確認し、母に頼めることになった。


ランチのお店で
「アソボ~ノ!」に入場する前に、みんなで早めのランチをすることになった。

ママ友たちとのランチ。子どもたちも一緒。

初めての体験に、私は緊張していた。
子どもと外食はしたことがあったのだが、片手で数えられるほど。私ひとりではなく、夫も一緒だったし。

同行メンバーのひとりが予約してくれた個室のあるきれいな和食のお店。
偏食で小食で(←この頃は)ちょこまか動き回る長男は大丈夫だろうかと不安だった。

他のお母さん達はこのランチタイムをゆったりと楽しんでいる。
私は早食い(もともとが早いのだが、子育てでさらに加速してしまった)なので、スピードに気をつけてはいたけれど、この日もいちばんに食べ終わってしまった。しゃべりながら食べるのがすごく苦手。どんどん食べちゃうのだ。美味しいんだもの。

そして長男が食べきれなかったざるうどんを、一本ずつ貴重にかみしめるようにし時間をかせぎ、やや緊張して会話に加わっていた。
「はやく行こうよぉぉ~」という子ども軍を目の端っこに捉えながら。


◇◇◇◇◇◇

お会計をしている私達に、お店からの素敵なサプライズがあると店員さんが告げた。

「今朝収穫したばかりの、新鮮なレタスでぇーーす!!
おひとりにつき、一玉、どうぞ、お持ち帰りくださぁーい!!」

たった今、畑から届きましたくらいな見事なレタスだった。中学生男子の頭くらいの大きさで、葉の勢いもワイルドだろぅ~な感じ。

「ハイっ、お持ち帰り用の袋ですぅー!」

ビニール袋に入れて一玉ずつ丁寧に手渡ししてくれる店員さん。

「ありがとうございましたぁーーー!」

最後までさわやかな彼に見送られ、私達は各自レタス一玉を持ったまま、子連れでアソボ~ノに向かった。


◇◇◇◇◇◇

「どうする………これ?」

ひとりが困ったように気まずいように口を開き、なんとも言えない空気が流れた。 

どうする?は、そういう意味じゃないよ、なのは実はわかっていたのだけれど、私は陽気にこう言ってしまった。

「うーん、レタスチャーハンにするかな。うちの子は生だとぜったい食べないから、火を通してシャキシャキってさせたのだったら、食べてくれそう」

私の切り出した、どうやってレタスを使うかに話題が流れ出し、お母さん達のとの会話も、さきほどまで感じていた緊張もとけて、自然に楽しく参加できていった。固まっていた肩がふわっと軽くなっていった。


アソボ~ノ
アソボ~ノには荷物ロッカーがあり、そこに貴重品以外の私物を入れて、身一つで施設内をまわれるようになっている。

さんざん遊んでくたびれて、帰りにロッカーを開けると、袋に入ったレタスが待っていた。

このまま放置したら寝ちゃうんじゃない?なくらい遊び疲れた子どもと、子連れの荷物と、レタス一玉を持って、家に向かった。
やっぱり途中から「抱っこぉ~」になって、荷物とレタスを肩に担いで、長男を抱っこして、半分寝てしまった彼に心の中で話しかけた。

あんなに遊んだものね。
ボールプールではしゃいで、プラレールもたくさんあったよね。
木で出来たお野菜をさくっと切るおもちゃ、うちにもあったらいいね。
今度は( 次男 )も一緒に行こうね。喜ぶよー。
お母さんね、今日他のお母さんといっぱいお話できたんだよ。
むずかしく考えること、なかったよ。
話したいことを自由に話せばいいんだよね。
お母さん、他のお母さんみたいにうまくしゃべれない時があるんだ。
でも今日は前よりしゃべれた気がするよ。楽しかったんだ。
今日「行きたい」と言ってくれてありがとう。


その日の夕飯は、「お母さんくたびれちゃったから、これだけでごめん」と
作ったレタスチャーハン。
これがやたらと上手く出来て、兄弟に大好評だった。
やっぱりシャキシャキがよかったようだ。


※見出し画像の写真は「みんなのフォトギャラリー」より、メリカナデシコさんの作品をお借りました。ありがとうございました。

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