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あしげい2023をそれぞれの眼差しから振り返る(中山よしこ・黒木麻衣)

8/19(日)に閉幕を迎えた『葦の芸術原野祭2023』。
あしげいとはなんだったのか、それぞれにとって何が起き、いまの時間へと続いているのか。この連載では、実行委員・参加作家それぞれの眼差しから、あしげい2023を振り返っていきます。


中山よしこ

あしげいが始まると、ひととき夢と現(うつつ)を彷徨うような感覚に陥り、情緒がぐらぐらになります。

毎年、約3週間の会期中は脳を疑うような出来事が次々と起こり、心はいつも追いつかないままです。死ぬ前に見る走馬燈の光景はこのようなものかもしれない…と思いながら、ぼんやりと事象を受け止めるのでせいいっぱい。

7年間からっぽだった旧役場庁舎/旧図書館で
数多の人の「おもいで」の品を共有し
「おもいで」から生まれた作品たちに囲まれ
ここでなければ出会うはずのなかった人々と語り合う。


築94年目のこの建物はタイムマシンです。集う人を乗せて街を漂い、斜里の過去へ未来へ連れていってくれます。
その象徴が、あしげい公演の最後を飾る「葦の波part2」だったと思います。

台本があるわけでも、わかりやすい起承転結があるわけでもなく、あえて言うなら実行委一同による自己紹介的ドキュメンタリー、でしょうか。
一人ひとりの「おもいで」の世界に潜入し、追体験するかのようなこの公演は夢中夢のごとき不可思議さに満ちていますが、私はその夢と現(うつつ)をつなぐ役割として登場しています(と、自己解釈しています)。

昨年はこの「葦の波」を上手くサーフィンできない胸中を劇中で語り、母校である斜里小学校の校歌を歌いました。そして今年は、斜里をテーマにラップをつくるという挑戦をしました。

商店街のゆかいな面々のこと
行きつけの喫茶店のごはんのこと
製糖工場のにおいのこと
焼肉店「とら」の謎の壁画のこと などなど

初めて書いた地元への愛憎にまみれた40代の拙いリリックは、あしげいヤングチームのサポートのおかげで、なんとか作品として昇華できました。千秋楽の歌唱中、おそるおそる客席を見たらば、ラップにも盛り込んだご近所の五十嵐金物店さんがものすごい笑顔だったので、もうそれで良しとしたいです。

(みんなでラップするのは楽しい!)

今年のあしげいは、いろいろな意味で「試される3回目」という感じでしたが、仲間との活動拠点/カフェ「ヒミツキチこひつじ」で同じく実行委の黒木麻衣さん(バストリオ)が個展を開いたり、初めて斜里高生が関わった映像作品を展示できたり、何人かの斜里っ子たちから来年は手伝いたいと言ってもらえたりと、ギフトがたくさんありました。

すべて終わってさよならを言うときは、いつも寂しいです。実行委の皆や、訪れる町民たち、それらの人間関係、取り巻く自然環境。次も、けっして同じではありません。今年のあしげいは今年だけのもの。敷居は低く、と心がけてはいますが、敷居をまたぐ喜びも終わりの寂しさも丸ごと、より多くの人と共有したい。

私たちの、このnoteを読んで何かを感じてしまったあなたに会いたいです⚡

中山よしこ
斜里町出身。編集プロダクション、新聞記者/通信員などを経て、2011年に町内の友人2人とともに、斜里の衣食住や自然、文化などをテーマにしたミニコミ誌「シリエトクノート」を発刊。来町したアーティストとのワークショップや作品展など企画サポート、写真プロジェクト「写真ゼロ番地知床」実行委員。個人活動では移動古書店「流氷文庫」を町内外で展開中。あしげいでは広報、地域連動企画などを担当。


黒木麻衣

今年は実行委員の中山芳子さんが携わっている「ヒミツキチこひつじ」でサテライト展ということで、絵の展示を行う機会を頂きました。
この「葦の芸術原野祭」参加をきっかけに通いはじめた斜里町。滞在は長いもの、短いもの様々ですが、訪れた際はいつもその瞬間瞬間で出会った場所や、人のイメージは濃く、自分のなかに蓄積していきました。今回そんなこの土地で感じた風景、記憶や出来事の連なりの一部をイメージとして描き起こしたものを展示しました。
ヒミツキチは喫茶?パン屋?図書室?ギャラリー?ぜんぶ正解、町の憩いの場です。居心地の良い、好きな空間で展示ができて会期中はうれしい時間でした。

展示は今年の芸術祭のメインヴィジュアルとなった「北の原野から」という絵を中心に。
この「北の原野から」という絵は代表の川村喜一さんデザインのチラシの表紙にして頂きました。絵はデザインあって活きるもの…と思っているので、読む人のことを考えた気遣いのあるデザインに、配るのがうれしいチラシとなりました。
個人的には「あしげいってなに?」と聞かれた時に、この絵を見ながら話せたら説明しやすくなるといいな、という思いで描きました。人物の描き方に癖があるのですが、絵に描かれている人にもモデルがいます...!笑 
ちなみに、うねうねしている芸術祭ロゴも、この1、2年目であつめた土地のドローイング(線だけのスケッチ)の中から抽出して作成しています。

今年は町の皆さんの協力のもと、準備段階でポスターが至るところに貼ってある様子に会期がはじまる前から胸が熱くなりました...!
この絵の画面に大きく描かれているテーブルは、「流氷テーブル」と言って、あしげい2年目に作られました。2022年度実行委員、加賀田直子さん考案、岩村朋佳さんと加々⾒太地さん作の流木を利用したテーブルは、今年の会場でも大きな存在感を放っていました。作家でもあり、生活に寄り添うことのできる実用的なものも作れるって素敵だなぁと思いました。

ポスター掲示の様子。神田書店さんにもご協力頂き、直々にポップの書き方を伝授して頂きました!

展示作品のなかの「気のいいアヒル」という作品について。
絵のモチーフとなったのは、町の朗読の会「気のいいアヒル」さんたちです。今年のあしげいでは、メンバーの一人の渡辺悦子さんがラジオ企画に参加、斜里の女性たちの聞き書き集「語り継ぐ女の歴史」の朗読をしてくれました。
「気のいいアヒル」のメンバーの皆さんは4人、きっとこんな風にいつも集っているんだろうな、という想像のもと、イメージを描いていきました。展示最終日にはご本人たちにも展示を見て頂き、やっぱり描いてよかったと、更に強く感じた1枚でした。

最後に知床在住の絵本作家・あかしのぶこさんの大型紙芝居がとても印象に残っているので紹介して終わります。今年は旧役場庁舎で大型紙芝居を披露してくれました!ずっと描き続けてきた人が描ける絵だな、と感じました。写真は「しれとこのみずならがはなしてくれたこと」を中山芳子さんと朗読するようすと私が一番好きなページです。

今年のあしげいもたくさんのものを受け取った日々でした。ほんとうに心も体も満たされた状態なので...!時間をかけて少しずつ消化して、これからも絵を増やしていけたらと、思っています。ありがとうございました!

黒木麻衣 Mai KUROKI
1992年⿅児島生まれ。東京都在住。女子美術大学ヴィジュアルデザイン専攻卒業。主にグラフィックを主体とした作品を制作。
『葦の芸術原野祭』をきっかけに斜里を訪れるようになる。滞在での出来事・記憶の蓄積をもとにした絵を展示しています。https://kurokimai-d.tumblr.com/


あしげい2023公式グッズ販売中!

会期中大好評だった「あしげい手ぬぐい」のほか、今年の新グッズ「あしげいTシャツ」「ステッカー」など多数の商品を取り扱っております!
葦の芸術原野祭は、有志による継続的な開催を目指しております。グッズの売り上げ・カンパは大切な継続資金となります。会期は終わってしまいましたが、グッズの購入でご支援いただけますと幸いです!

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