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五種五様の$10

私が彼らを愛し始めたのは、
ステキな偶然だったのか?


いや軽卒だったかもしれない。

覚悟していたつもりだったけど、
全然足りなかったかもしれない。


後悔するほどだった。



それは本気で国立に立とうとしている男たちのパフォーマンスだった。




毎週金曜日18時からNHK BSで放送されている「ザ少年倶楽部」
10月8日の放送で、HiHi Jetsは「$10」を披露した。

あの国民的アイドルグループ
SMAPの「$10」
読み方は「テンダラーズ」

この曲は、もともとシンガーソングライターの林田健司さんが歌っていたものをSMAPに提供した楽曲。
つまりSMAPのオリジナルではなく、カバー曲という立ち位置になるが、全く同じではなく、メロディの構成がSMAP用に変更されているらしい。

デビュー以降、なかなかヒット曲が出てこなかったSMAPのセールスを伸ばすきっかけになったのがこの「$10」と言われている。


そんな楽曲を歌ったのが、ジャニーズJr.の5人組グループ。

HiHi Jets

彼らはローラースケートを得意としているが、今回のパフォーマンスは足で披露した。
(彼らはローラースケートを使うことがデフォルトみたいなところがあるので、ローラーを使わない時は"足で踊る"という表現をする。)

この夏2年ぶりに開催した有観客ライブのオープニングブロックでも披露していたこの楽曲には、ファンと対面できなかった2年の間にパワーアップさせてきた彼らの魅力が詰まりに詰まっていた。

ジャニーズらしい和柄の衣装に身を包み、
各々の色気が爆発していた。

ここで言う色気は所謂、性的魅力という意味ではなく、愛敬やおもむきという意味になる。
人間味としての色気の話をしたい。





その曲は突然始まる。

ギラギラした衣装、大人っぽい雰囲気、セクシーな歌詞。
少し高くて微かに幼さの残る5人のユニゾンとのギャップに、目も耳も画面から離せなくなる。

ステップをふみながら華麗にフォーメーション移動をし、次々とカメラに抜かれる表情に目がチカチカしていると、冒頭の英語詞をささやく、笑顔の彼に射抜かれる。

これが地上波ゴールデン帯の音楽番組だったら、確実に多くの人の心臓を掴んだだろう。
木村拓哉の「Get you」並のインパクトと中毒性をもった笑顔は、アイドルとして完璧。

発売当時、ジャニーズでは珍しいテイストだったこの曲。
今となっては完全にジャニーズらしい印象を感じるが、時代にあわせてさらにアイドルらしく色付けしたのが、冒頭の彼の笑顔。

これが令和の$10だと言わんばかりの笑顔。

こんなに心を掴まれたのに、彼の名前は知れないまま、カメラは切り替わってしまう。



そして最初に歌い出した彼は、作間龍斗。


彼は、機能美のような色気を秘める。

その美しさは飾り付けられたものではなく、本人が自覚しないまま醸し出されている可能性すらある純粋なもの。

こういうのが好きでしょ?といったこれ見よがしな色気よりも、過剰に味付けされた色気よりも、本人も無自覚に出てしまう色気ほど強いものはない。
そしてその純粋さは、あの色濃い4人のメンバーと互角に立てる程の強さがある。

決められた振りを正確に踊り、基本に忠実だと言われる彼だが、それは個性がないということではない。

彼のパフォーマンスは、過剰なものや無駄なものがなく洗練されていて、本質をついている。
いつでも、己の長い手足を正確に動かし、効果的に視線を投げかけ、最適な表現をし、その研ぎ澄まされた美しさで多くの人を魅了する。

その才能は万人が得られるものではない。


スティーブ・ジョブズは言った。

シンプルであることは、複雑であることよりもむずかしいときがある。
物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。
だが、それだけの価値はある。
なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。

でもきっと、
スティーブ・ジョブズは知らなかった。

その信念を体現したような美しさを持つ少年がいることを。

そして、そのガジェット好きの少年が愛用しているのはリンゴマークの製品であることも。

そんな彼が
「君が僕を愛し始めたのは ステキな偶然さ」
と歌うから、この出会いは幸福の始まりだと思い込ませられる。

希望的な錯覚に惑わせ、本当の美しさとは何かを身をもって教えてくれる彼が、

作間龍斗



間髪入れずに歌い繋いだ彼は、猪狩蒼弥。


彼は、気品溢れる色気を放つ。

「重なる Drink and Eat」も、
気品ある彼が歌うものだから俗っぽくならず、彼が捧げようとしているドリンクは高級品なのだろうと思わせる。
「君が欲しい」と囁かれながらロマネ・コンティを注がれたら、無償でこの身を差しだしてしまう。
彼はきっと、そんな女は相手にしないだろうけど。

ひとつひとつきっちり踊る動作は品にあふれている。
動作というより、所作というほうが正しいのかもしれない。

そして、ハンチングで終始目元が見えない演出は中居正広を彷彿とさせ、首元でしっかり結んだスカーフは貫禄さえある。
目元が見えないからこそ、彼の優美なダンスが際立つ。
同時に、同じように帽子をかぶっている他のメンバーとの対比ができあがる。

どんなステップを踏んでようが、フォーメーション移動していようが、背筋がまっすぐ伸び肩の位置がぶれない彼のダンス。
彼の動きに合わせて胸元で舞うスカーフは花びらのよう。
まるで名家の家元が生けた花のように力強く凛とした佇まい。

主役になるには十分すぎる華やかさがありつつも、脇に添えても持ち前の気品でグループの色を支え続けられる逸材。
と同時に、彼を脇にも置けてしまうこのグループのバランス感に驚く。

凛としつつ力強くもあり、立ち位置を移動する際にはロマンチックな残り香まで残す。

見聞きしてインプットしたこと全てを己の血肉とし、適切なタイミングをみてアウトプットする能力にたけており、成熟した品を漂わせている彼が、

猪狩蒼弥



次に歌い出した彼は、橋本涼。


彼は、甘美な色気を漂わせる。

彼だけには、色気に性的魅力という意味も込めたい。

「どうして愛はお金がかかるんだろう?」を
こんなにも説得力をもって歌えるのは、彼しかいない。
この曲の表題でもあるサビの
「愛さえあれば何も要らないなんて 全部ウソさ」も、彼がいるからこそ真理をもって響いてくる。
彼の存在があったから、HiHi Jetsは$10を歌えたといっても過言じゃない。

愛を得るには「抱きあうだけじゃダメ」なことを、彼は身を持って知っているよう。
そうでしょ?といわんばかりの表情はセクシーだけど、爽やかさもあわせ持つ。
この曲どおりの駆け引きを楽しんでくれそうな彼の100万ドルのまなざしにくらくらする。

そして、脳を溶かしてしまいそうなほどの甘い歌声に、理性も判断力も奪われる。
優しくなでられているような触感すら掻き立てるその声を聞いたら、抗うことは到底できない。

ラスサビに向かって盛り上がるメロディに合わせて、ハットを押さえながら片手で側転できる余裕さを持っている彼の姿に、包容力まで感じてしまう。

その甘い声で耳を傾けたものの全能を支配し、甘い空気で包み込み、まわりのことが見えなくなる程色恋に溺れさせてくれそうな彼が、

橋本涼



その声に名残惜しむ暇もなく、
次に歌い出す彼が、井上瑞稀。



彼は、魅惑の色気を振りまく。

とびきり愛らしく「いっそうCuteに」歌い、
急に本性を現したかのように「もっともっとSexyに」踊る彼の姿に釘付けになる。

チョーカーと赤い革のグローブをしていて他の4人より肌の露出が少ない分、彼の奥底が気になってしょうがない。
愛らしい風貌に惹かれがちだが、奥底になにかとんでもないものを潜めていそうで、本当に彼を追っていいものか。

そんな背徳感を感じれば感じるほど、より一層彼が魅力的に見える。

あの赤いグローブの下には、薔薇のようなトゲを隠しているのかもしれないし、もしくは薔薇のように赤く燃える野心を隠しているのかもしれない。

気になってしまった時点で彼の罠にひっかかってしまっているのだけど、本当の僕を見せてあげるといわんばかりのそのパフォーマンスに誘われるがまま、大抵の人はその事実に気がつけない。

こちらを散々その気にさせておいて、世界中の花屋からかき集めた赤い薔薇の花束を渡そうとしても、きっと見向きもせずに他の人のところにいってしまうんだろう。

冷静になったほうがいいと思えば思うほど、惹かれてしょうがない。
冷静になる隙を与えないほど、こちらを魅了し続ける。

見せ場になるととんでもないオーラを放ち、
その瞳の奥で情熱を燃やしている彼が、

井上瑞稀



最後に歌い出す、冒頭の笑顔が印象的だった彼は、髙橋優斗。


彼は、子供と大人の狭間にいる儚い色気を纏う。

21歳にしてジャニーズ歴13年目のベテラン王道アイドルシンメと、可能性は無限大ハイスペック末っ子シンメを両脇に置いて、彼らのオーラを抱えてなお真ん中で輝ける圧倒的存在感の最年長が彼である。

そんな頼もしい彼だが、冒頭のステップのあまさは、気持ちはあるけど足がついていけていないような、初々しさも感じる。

ひとつひとつのステップに一生懸命で、カメラに笑顔を振りまくのに必死で。
一瞬一瞬を大事にしているからこそ、夢中になっているからこその不器用さが愛らしい。

彼の魅力のひとつは、この愛らしい不器用さだと思う。

こんなにも「誘う君 困る僕」が似合うアイドル、他にはいない。

そしてこの楽曲では、彼だけがよく笑う。
その無邪気な表情は、セクシーな雰囲気のこのパフォーマンスにおいて思いがけないスパイスになる。
彼のいたずらっ子のような笑顔があるから、この楽曲がアイドルソングとして成立する。

5人でパフォーマンスすることが心底楽しいといっているような笑顔は、この瞬間がいかに貴重かを知っているかのような儚さもあわせ持つ。


彼がセンターに立つと、この4人の真ん中に立てるのはこの世界でただひとり、彼しかいないと思わせる。
ステージの奥にいようが、端にいようが、彼が立っているその場所がセンターになる。

無邪気に笑っていると思ったら、ふと未来が見えていそうな目をする彼が、

髙橋優斗



Aメロ、Bメロをソロパートで歌い繋いでいく中で、意中の人を狙い打つような仕草は様々で。
セクシーな腰の回しかたも、最後の決めポーズも多種多様。

いかにシンクロ率が高いかを競うような韓国風アイドルグループが席巻し、ダンスが揃っていることが当たり前みたいな風潮の中を逆行するスタイル。

ターンのタイミング?
そろいません。

手足の角度?
そろいません。

でもだからなんだというのだろう。

それは怠惰な不揃いでもなく、未熟なカオスでもなく、計算し尽くされた個性。

緻密に揃っていなくても、それは計算のもとだと思わせる統一感がある。

全員がグループのセンター兼エースとしてたち振る舞える技量があり、絶妙で完璧なバランスで成り立っている。

それは5人で意志が共有されているからこそ。

それぞれ表現の仕方は違えど、このパフォーマンス全体をどう見せたいかというゴールは同じだからこそ。



1曲のうちに、代わる代わるセンターを入れ換えても、どの隊列になっても、こんなにしっくりくるのだから、この個性を生かさないなんてもったいない。


このバラバラな個性を互いに引き立て合っているところ。
バラバラなのは個性だけで、目標や意識はしっかり5人で共有していること。
この5人なら、いつかきっと新国立競技場に立つだろうと思わせるところ。

それが彼らの魅力である。


自分たちが生まれるよりずっと前の楽曲を、
こんなに自分たちのカラーで表現できる。

彼らは時代の流行に左右されない、
絶対的なカラーを持ち続けられるアイドルグループになる。

SMAPや嵐とは違う塔を築き、SMAPや嵐のように日本のエンタメ界のトップになるだろう。

なってほしい。


才能も欲望も魅力も今にも爆発しそうな彼らに、世界は早く気づいてほしい。





私が彼らを愛し始めたのは、ステキな偶然。

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