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星色Tickets(ACT2)_SCENE26

※共通

//SE:花火音
//背景:恭司の家_夜

遠くからぱんぱん花火の鳴り響く音が聞こえてきて、いよいよ夏も本番だなぁと感慨に浸ってしまう夏休み一週目の終盤。

つまりは、地区大会翌日。

あげは「んん~おいしっ! これで手作りってみんな女子力高すぎでしょ~」
瑠奈「お褒めいただきありがとうございます」
瑠奈「それはさておき、私は演劇サークルの打ち上げにどうして演劇部部長が当然ように在籍してるのか不思議で不思議でしょうがないんだけど……ねぇ恭司?」

今頃小波が感動しながら眺めているであろう花火の音色に耳を傾けながら、俺は自宅で、三人の部員が仲良く制作したトルタ・アル・チョッコラータを幸せな心地で頬張っている。

イタリア圏だとガトーショコラはトルタ・アル・チョッコラータと呼ばれているようで、ガトーショコラって名称はフランス圏での呼称だとかなんとか星が言ってた。

恭司「あぁ、しあわせぇ~」
 
ま、おいしければ名称とかどうでもいいよな。

瑠奈「無視するな」
恭司「いっつ!?」
恭司「……あのさ瑠奈、その足の指フルパワーで踏む技封印しない? 普通に痛いよ?」
瑠奈「無視された私の心の方が痛いんだけど?」
 
なわけあるかい。絶対、俺の方が物理的に痛いってば。

恭司「そういえば説明がまだだったな。彼女は演劇サークル新部員の那須あげは」
瑠奈「は?」
あげは「いやぁ有言実行しちゃうあたりさすが岸本だよねぇ。結成三か月で県大会出場券を勝ち獲るってもはやマンガの世界の話じゃん?」
 
先輩が言うように、俺たち演劇サークルは見事、県大会出場権を勝ち取った。
 
小波を泣かせて、全国最優秀賞を獲る。
 
ひとつの夢は叶い、もうひとつの夢もまた、実現に向かって着々と進んでいる。

あげは「改めまして、本日付けで演劇サークルの部員になりました那須あげはです。よろしく!」
瑠奈「先人切って脱落する死にかけの蝶に恭司がどんな可能性を見出したのかはわからないけど、まぁ部長命令とあっては仕方ないわね」
瑠奈「よろしく、敗者脱落ゲームの勝者さん」
あげは「相変わらず藤沢さんはあたしに対して辛辣だなぁ……」

声色と表情から不機嫌さが滲んでいる藤沢はともかく、一方の残りふたりの部員は、目をきらきらと輝かせて先輩を見つめていた。

すもも「モモさんは大歓迎ですよ! 大会前みたくわたしをビシバシ扱いてやってくだせぇ~」
星「那須せんぱいが部員になってくれて、とてもうれしいです。那須せんぱいになら、込み入った演技の相談もできそうなので。……あ、迷惑だったら遠慮なくそう言ってくださいね?」
あげは「だそうだよ藤沢さん。部員三人は死にかけの蝶に可能性を見出してるみたいだけど?」
瑠奈「ちっ……!」
恭司「ふたりとも仲良くしようよぅ……」
 
喧嘩するほど仲がいいってやつだよな? 

恭司「と、ところで星、大会が終わったら俺に話したいことがあるって言ってたよな?」

バチバチ視線で交戦し合うふたりに気づいていないフリをして、俺は星に目を向けた。

星「ふぇ?」
恭司「あれ? 合宿でそんなこと言ってなかったっけ?」
星「……あ、いや言ってたけど……」
星「いろいろと急すぎるよぉ……」
 
顔をほんのり赤くしたまま、星はケーキを小さく切り分けてぱくぱくと頬張っている。なんだか小動物の食事風景を見ているみたいでほのぼのした気分になってくる。

星「……そ、その、わたしね?」

ナイフとフォークを皿の上に置いてまっすぐ俺を見つめたかと思えば、視線を膝頭の上に落とし、ぷるぷる震える唇を真一文字に結んでしまう。

恭司「……星?」

それはまるで、中庭で彼女をスカウトしたあの日のようで。

星「……よ、よしっ!」
星「あ、あのねせんぱいっ! す…………」
星「すき、なんだ」

けど、すぐに顔を上げて俺を見つめる彼女はあの頃とは別人で。

星「わたし、雛鳥星は、岸本恭司せんぱいのことがすきです」

すもも・瑠奈・あげは「え?」

顔を真っ赤にして期待の眼差しを向けてくる星に、どんな言葉を返せばいいのか。

恭司「ありがとう。俺も星が好きだよ」
 
迷うはずがなかった。

星「……っ!? そ、それってつまり……!」
 
だってそうだろ?

恭司「星だけじゃない。すももも瑠奈も先輩も。俺はみんな好きだよ」

俺の夢のために必死になってくれるみんなが、俺は堪らなく大好きなんだから。

すもも・星・瑠奈・あげは「…………」
恭司「なんて真正直に言うのも気持ち悪いかな。けどこれが正真正銘、俺のほんとうの気持ちだからさ」
恭司「……ははは、恥ずかしいなこれ。やっぱ星はすごいよ」

どこぞのツンデレヒロインみたく、いまいち要領の得ない告白をする俺を、四人はいやに冷ややかな目で見つめている。

……あ、あれ? 俺、なんかまずいことしたかな?

すもも「もうさ、一種の才能だと思うんだよね、モモさんは。だから雛ちゃん、そう落ち込まなくていいと思うよ?」
 
すももが背中を撫でると、星はちょっぴり涙の滲んだ瞳で俺を鋭く睨みつけてきた。え、なんで泣いてるの?

星「やっぱりせんぱいは、ただの戯曲傾倒系シスコン鈍感野郎です!」
恭司「ただの戯曲傾倒系シスコン鈍感野郎ってなに!?」

戯曲にシスコンに鈍感って、要素ふんだんに詰め込みすぎだろ俺……
 
……って鈍感? 俺、自分では勘の鋭い方だと思ってるんだけど……

瑠奈「……ふぅ」
あげは「そこで安堵の息を漏らしちゃうあたり、語るに落ちてるよ藤沢さん」
瑠奈「はぁ、これだから嫌なのよこの害虫は」
あげは「はは、ほんとかっわいいなぁこの子は。大丈夫、ヒロインレースで脱落したあとはあたしが慰めてあげるからさ」
瑠奈「さらっと負けが確約されてるみたいな言い方するのやめてくれない?」
あげは「ほらほら、藤沢さんも流れに乗っちゃいなよ~。このままじゃ後輩に負けちゃうよ~?」
瑠奈「人の話を聞け」
瑠奈「……で、後輩がことごとく撃沈したタイミングで自分がすべて掻っ攫おうって算段なのよね」
あげは「え?」
瑠奈「気づいていないはずがないでしょう。好き放題言ってるけどあなたも恭司のこと――」
あげは「うん、好きだよ」
瑠奈「っ!」
あげは「もちろん愛してるの方の意味合いで。少なくともそうはっきり口にできない子に負けるつもりはないけど?」
瑠奈「……はぁ。恭司、あなたちょっとモテすぎなんじゃないの?」

半狂乱状態の星のご機嫌を取っていると不意に凍てつくような視線を感じ、振り返ると、瑠奈が唇を尖らせて俺に切れ味抜群のまなざしを向けていた。

恭司「えっと、いかがされました藤沢大先生?」
瑠奈「べっつに」

ぷいっと瑠奈は明後日を向いてしまう。

いや絶対なんかあるだろ……と思いつつも、瑠奈に詰問は愚策だからと避けようとしたら、先輩に「アタックしろアタックしろ」と言われたので言われるがままに追い討ちをかけると、「これだから戯曲傾倒系シスコン鈍感野郎は……」と落胆のため息が返された。

「べっつに」の一言から心情を察しろとか無理ゲーすぎません?

―ACT2 END―

※ここで共通ルートは終了となります。
 ACT3から、各ヒロインの個別ストーリーとなります。

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