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星色Tickets(ACT2)_SCENE4

※場所選択でヒロイン絞り込み①
星①→雑草を抜き、花を植える星
あげは①→悩みを打ち明ける恭司と弱気なあげは(重要①)
アリス①→放課後の教室でテスト対策
志那①→重たい書物を無理して運ぶ志那(重要①)

以下、あげは①シナリオ

//背景:演劇部部室_夕方

あげは「こんなところかな。はい、どーぞ」
恭司「ありがとうございます」

演劇部は基本的に週五日活動していて、火曜日と木曜日は休日となっている。

だから木曜日の部室は無人……ということもなく、ほとんどの場合、部長が自由気ままに過ごしている。

あげは「いいよいいよ。にしても、まさか岸本がほんとに演劇サークルを設立しちゃうなんてなぁ」

その法則は本日もご多分に洩れず、あげは先輩はひとり黙々と演劇研究に励んでいた。

テレビの静止画面に映っているのは『ミー・アンド・マイガール』。明るくて楽しいブロードウェイミュージカルのひとつだ。

ひとり寂しく鑑賞するのに適した作品ではないよね。

あげは「これからは仲間でライバルだね。今度部員を連れて遊びにおいでよ」
恭司「早速競う気ゼロじゃないですか……」
あげは「いいや、思惑はちゃんとあるよ。才能ある若人から技術を盗むっていうね」
恭司「それ言っちゃっていいんですか?」
あげは「いいよいいよ、バレて困るようなことでもないし。岸本にはできるだけ正直でいたいからね」
恭司「……そうですか」

偶然にも、それは今の俺に深く突き刺さる言葉だった。

アポなしの来訪だというのに、先輩は俺を無碍に扱うことなく、それどころか演劇の練習メニューを教えてほしいという俺の突飛な懇願を聞き入れて、更にはノートに書き出してくれるという親切極まりない対応をしてくれる始末。

先輩は、いつでも俺をあたたかく迎え入れてくれる。

恭司「……失望しますか?」

だからだろう。

俺は、すもも以外で先輩にだけ、演劇に傾倒する真の理由を明かしている。

恭司「演劇をしたいほんとうの理由を隠したまま、土下座して、お為ごかしを吐いて。そんな俺に先輩は失望しますか?」

先輩は基本的にふわふわしているが、そんな優しげな一面とは裏腹に、厳しい一面もある。

//過去回想
あげは『情熱だけで君の目的が叶えられるほど、演劇の世界は甘くないよ』

去年の春、泣けない妹を泣かせる演劇を作りたいんだと俺が熱弁したときのことだった。

先輩の声色は冷たくて。その指摘はあまりに現実的で。

わかっていた。

言われなくとも、情熱だけじゃ演劇は完成しないって。

まったくの無名で、何故か演劇部に入らずに独立して演劇サークルを作ろうとする俺についてくる変わりものなんてまずいないって。

けど、それでも俺はいつかその日がやってくるって信じて、演劇の独学に励んで、バイトして資金を貯めて、いつかやってくる未来の部員のために部室を作って……

その努力が一昨日ようやく報われたというのに、俺は今、素直に喜べないでいる。

あげは「偽悪的だなぁ~。あたしは、岸本が『マクベス』みたいな人間だって思ったことは一度もないよ?」

マクベス。
シェイクスピア四大悲劇のひとつだ。

軽く概要を説明しておこう。

魔女にそそのかされて欲得に目のくらんだマクベスは、王である父を殺し、その後も王位を失うことの不安から多くの貴族や臣下を殺害し、そうやって権力のために多くの人を殺したマクベスは最後、王家のひとりに打たれてその生涯を終える。

作中で彼は死者の亡霊に苛まれて苦難の日々を過ごすのだが、思えば今の俺は、どこか彼と似た境遇にあるように思える。

俺もマクベスも、強い罪悪感に苛まれているから。

恭司「どうでしょう。俺は、自分はマクベスみたいなどうしようもなく狡猾なやつだと思いますけど」
あげは「はぁ。これは重症だなぁ~」

机の上に置かれたハッピー○ーンをかじり、先輩は宙を仰ぐ。

あげは「なら岸本はここで夢が潰えてもいいって思ってるんだよね?」
恭司「え?」
あげは「だってそうでしょ? その罪悪感から逃げるためには、藤沢さんと後輩ちゃんに、自分は妹を泣かせるための演劇が作りたいだけで、大会の結果には端から興味がないんだって、ずっと嘘ついてたんだって、素直に告白するしかない」
恭司「先輩の言う通りだけど……」
あげは「けど、告白する勇気はない。なら、いっそのこと諦めたほうがいいよ」
恭司「いや、でもそれは……」
あげは「そんな半端な態度じゃなにも叶えられないよ」

先輩のまっすぐな瞳が俺を射抜く。

強く眩しく、そしてどこまでも真剣に俺と向き合ってくれる瞳。この瞳に、俺は一年前助けられた。

……だからだろうな。

俺はきっと、心のどこかで先輩に求めていたんだ。

あげは「全国最優秀賞とは別の目標があるからなんだっていうの? あのね、演劇部の部員だって全員が全員、結果を求めてるわけじゃないんだよ?」
あげは「部員の中には、内申点稼ぎが目的の生徒だっている。でも、それっていけないことなの?」

俺のしてることは間違いだけど間違いじゃないって、そう先輩に証明してもらって、俺は安心したかったんだ。

あげは「いいや、きっと生徒の大半はそんな不純な動機で部活に精を出してる。いや、精を出してるふりをしてるって言った方が正しいのかな」
あげは「……ほんと、本気で演劇に打ち込んでる自分が馬鹿らしく思えちゃうよ。あたしは本気なのにさ」

厳しくて、けれども優しいお叱りに縋って、甘えて。

俺は先輩という太陽に、罪悪感という影をかき消してもらおうとしてたんだ。

あげは「そんな今更後悔したって遅い演劇馬鹿と違って、岸本には夢を叶えられる可能性がある」
あげは「結成三か月で全国最優秀賞なんて夢物語もいいところだけど、あたしは岸本なら、もしかしらたらもしかすると案外できちゃうんじゃないかって少し夢を見てるんだ」
恭司「先輩……」
あげは「あっ、もちろんあたしも諦めたわけじゃないけどね?」

寂しげな笑みが現実を物語っている。演劇部が全国最優秀賞を獲るのは現実的に無理なんだって物語っている。

俺は、先輩がどれだけ真剣に演劇と向き合ってきたか、知っている。

オレンジ色の光が仄かに差し込むこの部室で、先輩がひとり黙々と練習メニューを立てたり、演劇研究に励んだり、自主練習に励んでいたことを、俺は知っている。

恭司「……なに諦めてるんですか」
あげは「え?」

そんな影で懸命に努力を重ねてきた先輩が、はじまる前から諦めてるだって?

恭司「先輩、必死に頑張ってきたじゃないですか……」

そんなの放っておけるわけがない。

恭司「来年は地区大会で優秀賞獲って県大会に行くんだって、言ってたじゃないですか。全国にも行きたいって、言ってたじゃないですか!」
あげは「まったまった! 一旦、落ち着こう岸本? 今の話題の主軸は岸本で……」
恭司「俺のことなんてどうだっていい! 先輩の努力が報われない方が問題だろ!」

先輩は恩人で、憧れで、校内の誰よりも青春を部活に費やした努力家なんだから。

あげは「いやいや、冷静になれ岸本? あたしが地区大会で優秀賞獲るってことは、県大会に進む枠が一個潰れるってことだぞ?」

俺たちのいる区域では、地区大会で優秀賞を獲った五~六校が、県大会に出場する権利を得ることができる。

恭司「先輩も俺も優秀賞を獲ればいいだけの話です。それに、もしも先輩が地区大会で負けたとしても、そのときは俺たち演劇サークルの一員になってもらいますから」

先輩はきょとんと面食らい、やがてなにか閃いたかのようにぽんと手を叩いた。

あげは「はい、言質いただきました~」

と、なにを思ってか、先輩は俺の口にハッピー○ーンを入れてくる。

恭司「んぐッ!」
あげは「あたしを部員にする。その約束を叶えるために、岸本は地区大会で優秀賞を獲らなきゃいけなくなりました~」
恭司「んふぅッ!」
あげは「女の子には約束に執拗に食い下がる習性があるからね~。破ったらどんな目に遭うか、わかったもんじゃないぞ~」
恭司「かはッ……!」
あげは「だから岸本~、これ以上、後ろ向きなこと言ったら……」
恭司「しぇ、しぇんぴゃい、みょう、こりぇいじょうは……」
あげは「あたしのことなんてどうだっていい! 岸本の努力が報われない方が問題だぁ!」
恭司「っ……!」

とどめのハッピー○ーンを口内に押し込まれて、俺は危うく窒息しかけた。

恭司「こほっこほっ、ま、まさか、ハッピー○ーンを凶器と感じる日がくるとは……」
あげは「それで岸本、明日から演劇サークルはなにを目標に活動していくのかな~?」

言いながら、先輩は既に〝甘い棒状の凶器ハッピー○ーン〟の包装を外して容器に移している。

数秒前の幸せな地獄が脳裏をよぎり、ぞっと全身が粟立つ。

恭司「もちろん、全国最優秀賞です!」
あげは「うん、その意気その意気!」
あげは「……さてと。岸本の悩みが解消されたところで、雑談に付き合ってもらおうかな」

背筋を伸ばしながら先輩は決まり文句を口にする。俺の相談が終わってから先輩の雑談がはじまるのはお約束だ。

恭司「先輩って、人気に反してぼっちだよね」
あげは「失敬な。これは高嶺の花故の孤高というやつだよ」

やっぱ、ぼっちじゃん。

先輩といい、藤沢といい、眩しすぎる存在ってのは、反って近寄りがたい存在なんだろう。話せばどっちも普通の女の子なんだけどなぁ。

あげは「それでそれで、このあいだ駅前にオープンしたスイーツ店があるんだけどさ、そこのパフェがす~っごいおいしいみたいなの。カップル限定割があるみたいなんだけどさ……岸本暇だよね?」
恭司「バイトまでは暇だけど。……それにしても先輩、彼氏彼女の関係に無頓着すぎない? せっかく可愛いのにもったいないよ」
あげは「そんなごっこ遊びよりも割引の方が大事じゃん?」
恭司「ごっこ遊びって……」

たしかに、高校生の恋愛なんておとなから見ればお遊びなんだろうけど。

あげは「ささ、いくよ岸本! 一日限定二十食しかないから急がないと!」
恭司「先にその店に行くべきだったのでは?」

話せばどっちも普通の女の子……じゃないな、うん。

藤沢に意外な一面があるように、先輩は食指を動かしたら最後、豆鉄砲のように飛びついていく衝動的な一面がある。好奇心旺盛なのはいいことだけど、それにしても限度ってものがあると思う。

その後、スイーツ店に向かうと限定パフェはまだ五つほど残っていて、限定という言葉に惹かれて先輩とは別にパフェを購入した俺は、その夜のバイトで四六時中腹痛に襲われた。

プリンにアイスにケーキって、さすがに盛りすぎだろ最近のパフェ。

………。

……。


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