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星色Tickets(ACT2)_SCENE5

※共通

//背景:演劇サークル部室_夕方

光陰流水。あっという間に金曜日だ。

瑠奈「とりあえず、プロットと冒頭を書いてみたから確認して頂戴」
 
二日前の約束通り、俺が部室に入るなり、既に俺のお隣という固定席に腰かけていた藤沢が十枚ほどの用紙の束を手渡してくる。

雛鳥とすももも既に部室にいて、おそらくは雛鳥が作ったであろうお菓子を食べながら雑談に興じてるんだけど……にしても三人とも部室にくるの早すぎないか? 

まぁ、俺はかなりの頻度でアリス先生と雑談してから足を運んでいるから、最後になるのは当然と言えば当然かもしれないけど。

恭司「さすが藤沢だな」
瑠奈「当然でしょ。この瞬間のためにどれだけ準備してきたことか」
恭司「準備してきた?」

気にかかる言い回しに首を傾げると、藤沢はきょとんと目を丸くし、何故だか旗色を悪くしたように視線を明後日に投げかける。

瑠奈「……まぁ、私も年相応の妄想活動に日頃から励んでたってこと。わざわざ言わせないでよ」
恭司「あ、ああ、そっか。なんかごめん」

そして一度逸らされた視線は、絶対零度の冷たさを帯びて再び俺に据えられる。そんな睨みつけなくてもいいじゃん……

今の沈黙は、きっとなにか言い難いことがあってのことだろう。

猥雑なネタにも抵抗のない藤沢のことだ。きっと築き上げた文才を総動員して、あんな妄想やこんな妄想の言語化活動に励んで……うん、根拠のない憶測はよくないよな。

恭司「雛鳥、脚本が完成するまではしばらく自主練になりそうだけどいいかな?」
星「はい。いつも通りです」
恭司「満面の笑みでなんて寂しいこと言うんだ……」
すもも「だいじょぶきーくん、モモさんがオーディエンスになるから」

けど、今はうらぶれた公園で人知れず輝いていたあの頃とは違う。

今の雛鳥には、彼女が輝いてるんだって証明してくれる仲間がいるんだ。

恭司「存分に褒め倒してやってくれ」
すもも「お任せあれ」

にっと、俺たちは不敵な笑みを交わす。

俺が言わんとすることは、皆まで言わずともすももに伝わる。幼なじみだから俺たちに言葉はいらない……ってこともないけど、まぁ多少省略してもなんとかなるってのは事実だ。食い違いもなかなか生じないし。

恭司「よしっ、それじゃあ今日も全国最優秀目指して頑張るぞっ!」
すもも・星「「おー!」」
瑠奈「それで、私は待ち時間なにすればいいの?」
恭司「そこは乗ってくれよ藤沢ぁ~」

あたかも団結してるような雰囲気が台無しじゃないか。

……いや、誇張抜きに団結してるんだけどね?

………。

……。

恭司「……うん、いい感じじゃないか。悪くない」

雛鳥とすももが窓際で練習する姿を横目に見ながら、俺は藤沢の用意した企画書と冒頭を読み終えての率直な感想を伝える。

瑠奈「悪くない、か。つまりよくもないと。ならボツね」

出演者が極端に少ないのはなにか配慮してのことかとか、この場面の演出はどうすればいいかとか相談するよりも早く、藤沢は原稿の束を丸めてゴミ箱に投げ入れてしまう。

恭司「あぁ! せっかくの財宝が!」
瑠奈「忸怩くんでその程度の反応なら、これからどれだけ頑張ろうと財宝と呼べる代物になることはないわよ」
恭司「いやでもさ、これからいっしょにブラッシュアップしていけば、よくなる可能性だってあるわけじゃん? さすがに判断が早すぎるんじゃないか?」

誕生からほどなくして生命の途絶えた『ガラスの花束』に憐憫の情を催していると、藤沢は足を組み替えてらしくない大きなため息を漏らした。

瑠奈「あのね忸怩くん、こういうのってプロットと冒頭の段階で良し悪しがわかるものなの」
瑠奈「それに、なにもあの作品がすべてってわけじゃない。あの作品に拘泥するより、まったく新しいものに触れて可能性を広げる方が賢明だと思わない?」
恭司「お、おぉ……」

さすが。二冠女王の語る創作論は重みが違う。

瑠奈「ちなみにさっきの物語のコンセプトは〝悲劇〟と〝感動〟というオーソドックスな型の組み合わせだったんだけど……どう? この方針で進めて問題ない?」
恭司「そう……だな。うん、とりあえずはその方向で」

わかりやすい方が、大衆受けがいいっていうし。

……けど、大衆受けがいいから小波に刺さるとも限らないよな。

うん、家に帰ってからさり気なく本人に聞いてみよう。

恭司「と言いたいところだが、できれば他のタイプの作品も見てみたい。なんて無理難題か?」
瑠奈「忸怩くんならそんな無理難題を言うだろうと思って、既に別の作風でいくらか作品を用意しておいたわ」

と、苦笑することも嚇怒することもなく、藤沢はいつもと変わらない涼しげな面持ちで、鞄から新たな原稿を取り出す。それも複数……

恭司「これだけの作品をたった二日で創造したっていうのか?」
瑠奈「まさか。言ったでしょ。前々から準備してたって」
恭司「なるほど。つまりえっちなやつが過半数を占めてると」
瑠奈「誰が官能作家よ」

思いっきり足を蹴られました。

………。

……。

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